第6話

 日は既に暮れ、非常用電源の薄暗い光の中数十名の生き残りの従業員は身を寄せ合って救出を待っていた。夜中でも見つかりやすくするために屋上にクリスマスで使う電飾を持ち出して点灯させた。健康な男子数名で救援のヘリがきた場合に合図できるように二時間交代で屋上で見張るようにした。

私は今当番のリーと交代するため屋上に昇った。ソーラーパネルで埋め尽くされた屋上は満月を反射してまるで静かな海面のようだ。

その中の片隅にきらきらと電飾が点滅している。そこを目指していくとリーが満月を見上げて思いに耽っていた。

「リーさん、交代の時間ですよ」私は彼に言った。彼は私の方を振り向き、なにやら話しかけようとしたが何も言わなかった。だが、その代わりに頬に一筋の涙が流れた。

「すみません。考え事をしていて」彼は手で涙を拭い、切なそうな瞳で私を見た。

「松島さんは、ご結婚されてますか?」

「ええ。娘も二人居ます。リーさんは?」

「私は結婚はしておりませんが、父と母がいます。でも、恋人は居ます。来月の彼女の誕生日にプロポーズしようと思ってました。今日は頼んでおいたダイヤモンドの指輪を受け取りにいくはずでした。しかし、こんなことになってしまって…」

「それは…」私は彼に何と言っていいかわからなかった。どこで頼んだのかわからないが、この辺りで買ったならもう受け取りにいくなんて不可能だろう。だがそれよりもご両親と恋人の安否も気になるであろう。

「大丈夫、きっと直に救援が来てくれて、ご両親にも彼女にも逢えますよ」どうして良いかわからない私はとってつけたような慰みの言葉をかけた。だが、逆の立場ならどうだろうか? この世の終わりとも言って差し支え無いこの状況でそんなことを言われても白けるだけだ。

「ありがとうございます。父も母もそして、恋人も既に救出されて、避難所で僕を待っているかも知れません。僕が此処で涙なんて流しちゃだめですよね。彼女と両親が一番心配しているかも知れないのに」彼はどこか吹っ切れたように立ち上がった。

「松島さん、当番、後はよろしくお願いします。そうだ。良い退屈しのぎのやり方をお教えしましょう。あのきれいな月をずっと眺めていてください。あっという間当番が終わりますよ」彼はそう言い残して去っていった。

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