第19話 今日は?

「おはようございます」

「千秋ちゃん、おはよう。どうぞー」

 今日も千明を起こしに来たようだ。

 もう、起きてるんだけどな。でも、なんだか気の毒だしベッドに潜っとくかな。

 トントン

「入るよー。せん君...起きてる?」

 んー。ベッドに潜ったはいいけれど、どのタイミングで起きたら良いのだろうか。まずったかも。

「せん君」

 千秋が近づいて来る。

「せん君。起きてる....」

 そーっと布団を剥ぎ、顔を出す。

「起きてる?」

 どうしよう。いつ目を開ける?  あれ?

 そーっと千明の顔に手が触れた。

「..........」

 あれ、呼吸音が近くで、え!柔らかものが頬に優しく触れた。

 思わず目を開けてしまった。

「あ、せん君。おはよう」

 凄く近い。

「え、おはよう」

「ほら!学校だよ。起きなさい」

「あ、うん。あのー」

「どうしたの?まだ寝ぼけてるのかな」

「うんん。何か嬉しそうだなぁって思って」

「んー。どうかな。それより、はい、起きましょう」

「秋ちゃんは、もう制服なんだね」

「そうだよ。少し遠いからね。じゃぁ、私は行ってきます」

「うん。ありがとう。いってらっしゃい」

 今日はニコニコしながら出ていった。

 あの感触は...まさかね。

「ちーちゃん。ご飯食べちゃってー」

「はーい」

 ご飯を済ませ、トイレに入る。

 ん?琴音ちゃんはいないよね。

 そーっと自室のドアを開けた。

 居るわけないよな。

 制服に着替え、念のため玄関を出ると、辺りを確かめた。

 居るわけないってね。何やってるんだろ。

 一人での初登校。ほんの少し寂しいかも。と思いながら、門を出た直後。

「え!」

「にゃー!」

「えー。今度は猫ですかー。しかもにゃーは自前」

「説明ご苦労」

「ご苦労。じゃないよ。何やってんの」

「猫を千明君の肩に乗っけています」

「いや、それはわかります。じゃなくて」

「にゃー」

 もう、いいや。

「千明にゃん。何でキョロキョロしながら出てきたにゃん」

「いや、何でもないよ」

「琴音にゃん。いるかにゃー。キョロキョロ。じゃにゃいかにゃ」

「......はい。その通りです」

「そんなに琴音にゃんが恋しかったにゃん」

「はいはい。それでいいですにゃん」

「わー。にゃんだってー。はっずかしー」

 ああー。やっぱり疲れる。

 少し歩くと、花が合流した。

「琴音ちゃん。猫貸してー」

「はいどーぞ」

「うにゃー。可愛いにゃんねー」

 これも花避け?花ホイホイ?のために捕まえて来たのだろうか。花は猫に夢中である。

「うー。カトリーヌー。花は学校なのだよ。君を中には連れていけないのだよ」

 猫は全力疾走で逃げていった。

 教室につくと花はすぐに出ていった。

「花ちゃん、学校行く前にトイレ済ませないのかねー。千明君」

「いや、何て答えたら良いかわかりません」

 たわいもない会話。そして始業のチャイム。授業が終わり帰宅の時間。平和だ。かえって不安になってしまう。

「千明くーん。ごめんねー。寂しいだろうけど、今日は用事が有るから先に帰るね」

 ホームルームが終わると、琴音が急いで教室を出ていった。花はまだ寝ていたので、起こさずに帰ることにした。

 校門を出た直後、呼び止められた。振り返ると少女が1人立っていた。

「あの、学校、来てたんだね。もう.....大丈夫なの?」

 声が少し震えている。誰だろう。千明の知り合いであろうが、当然分からない。

「あ、うん。大丈夫だよ。心配してくれてたんだね。ありがとう」

「あの、私、クラス、違くなちゃったんだけど、また話しかけても良いかな」

「え、うん。こちらこそ宜しくね」

「うん。ありかとう。じゃぁ、また」

 何だったのだろうか、いや、誰だろう。

 家に着くと、姉が帰宅していた。

「ただいまー」

「ちーちゃん。お帰りー」

「早かったんだね」

「まだ入学して2日目だしねー。ちーちゃんは遅かったね」

「中3ですから」

「そっかー。そうだよね。そうそう、おやつ食べる?」

「あー、うん。食べよっかな」

「じゃぁ、手を洗ってダイニングにきたまえ」

 嬉しそうに走って行った。ダイニングに着くと、見た目はちょっとだが、おそらくケーキだろうか?

「け、ケーキ?」

「そだよ。お姉ちゃんが作りました」

 生クリームにおおわれ、上にイチゴが乗っていたので分かったが、何て表現すれば良いのか、形は隕石、クレーター?

「ちょっと、凸凹になっちゃったけど、初めて作りました。食べて食べて」

 まぁ、生クリームは市販のはずだし、そんなに変な味にはならないだろう。

「うん、斜め上」

「何が斜め上なの?」

「お姉ちゃん。味見した、よね?」

「え、してないよ」

「いやいや、するでしょ。それぞれ、するでしょ」

「えー、本見ながらだから。しないよー」

「本を見ながら?じゃぁ、書いてある物以外は何も入れてないんだよね」

「え、入れたよ。隠し味」

「はい。それだ。ちなみに何をいれたんでしょうか」

「味噌」

「はい?」

「だから!味噌」

「何で?味噌?そして、何故に味見をしなかった」

「だってー。この前、お父さんが味噌入りバウムクーヘン買ってきたでしょ。美味しかったでしょ」

「あれは、市販だよ。売り物だよ」

「いいよ!お姉ちゃんが食べるから!」

 大丈夫か?大きな固まりをひと口でいったけれど。

「ちーちゃん....。ごめん」

 解剖すると、ホットケーキに味噌を挟んで、生クリームでコーティングしたようだ。少量の白味噌に蜂蜜多めだったらいけたかも知れないが......もろみ味噌だけじゃ......。

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