第17話 違和感

 そういえば、仲の良い友人は同じクラスなのだろうか。それ以前に居たのだろうか。教室にはいると、数名の女子生徒が居るのみで、みな静かに着席していた。黒板に貼り出されていた座席表を確認し席につく。花は荷物を置くと直ぐに教室を出て行った。

「凄い偶然だね。隣の席だよ」

「そうだね。助かった?のかな」

「んー。どうだろうね」

「え。まぁ、ところで、僕と親しい友人はいる?いや、いたの」

「このクラスには居ないみたいかなぁ」

「じゃあ、さっきの花ちゃんだっけ?あの子は」

「えっ、千明君、花ちゃんに一目惚れ。私が居るのに」

「いやいや、僕のこと名前で呼んでたからさ」

「流すねー。ま、いいけど。ちーちゃんと小学校からの友人だよ。だから当然、家にも行ったことあるしね」

「そうなんだ」

 忙しく花が戻ってきた。

「何々、何話してんのー」

「んー。花がお漏らししそうになってトイレに駆け込んだはなし」

「えー。なんでわかったのー」

「花、漏れる漏れるーって言いながら急いでたからね」

「え、私、口に出してたのー!」

 またからかっている。確かに反応が面白いけど。

 チャイムが鳴ると続々と生徒が入ってきた。そして先生が自己紹介、始業式、ホームルームと何事もなく行われていった。そして、教科書を配られ解散となった。

 何かおかしい。凄い違和感だ。仮にも自殺ということになっていた生徒が居るのに、何事も無かったかのような雰囲気で過ぎていった。そういえば、通学途中、琴音が花に、プールに落っこちた。と、いう言い方をしていたし、さらっと流されていた。どういうことだ?

「じゃぁ、帰ろうかー。ちーちゃん所行く?」

「いや、待って。どうなってるの」

「えー、何が」

「何事も無かったかのように終わったけど」

「あー。そう言う事」

「うん」

「あのね...」

「琴音ちゃん帰ろー!どっか行こー!」

「あはは、後で話すよ」

「えー、何をー」

「花には分からない話」

 膨れっ面をする花の頭を撫でると直ぐに、機嫌を取り戻していた。

「じゃ、千明君。後でね」

「あ、うん」

 校門を出るまでに、何人もの教師と擦れ違ったが、何のアクションも無かった。そういえば、例の不良達も来なかった。家に着き、自室で考えるもさっぱり分からない。気付くと正午を回っていた。

 ピンポーン

「はい」

「私だよ。入って良い?」

 琴音が訪ねてきた。

「丁度よかった。聞きたいことがあるんだ」

「うん、わかってる。取り合えず、ランチしながらにしない?」

「あ、うん」

「じゃぁ、宜しくね」

「え?」

 よく見ると、琴音は何も持っていない。

「何が出るのかなー」

「はいはい」

 冷蔵庫を開けると、一皿のピラフ。調理済みはこれだけだった。

「あのー、一皿しか....」

「酷い。千明君。私がねだってるみたいに思ってたのね」

琴音の手に先程は無かったビニール袋があった。

「あれ、さっきは何も持って無かった...ような..」

「んー。玄関の外に忘れてたみたーい」

 入る前に、扉の外ノブに引っかけておいたようだ。

「うー。わざとでしょ」

「えー、忘れてただけだよー。はい、千明君にもパンあげる。プリン様もあるよー」

 為て遣ったりと、満足そうな表情だ。

「うー。ありがとう」

 琴音の話によると、大部分の生徒は、プールに落ちて体調を崩し入院した。と聞かされており、もともと友人も少なく、積極的にコミュニケーションをとるタイプでは無かったので、細かく詮索する者も少なかったのだろう。とのことだった。

「そんなかんじかな」

「そうかー。虐めと関連付ける人は居たのかも知れないけれど、声はあがらなかった。ということなんだね」

「そうだね。千明君が思い出さなければ、風化ってこと」

「僕次第ってことかぁ。まぁ、このまま平和に過ごせるなら、それでも良いのかなぁ」

「それより、何かしよ」

「何かって」

「遊ぼうよ。何か無いの?」

 そういえば、この家には中高生が居るのに、ゲーム機等の娯楽製品を見た記憶がない。自室で殆どを過ごしていたからかもしれないが。

「どうなんだろう?自室で本ばかり読んでたからなぁ」

「そうなのー。じゃぁ、あっちの家とか庭にある建物に何が有るかも知らないんだ」

「そういうことになるね」

「もったいなーい。じゃぁ、探検しよう!」

「え、良いのかなぁ。勝手に」

「勝手にって、君の家でしょ。良いに決まってんじゃん。行こー」

 千明の手を引き、連れ出した。

「取り敢えず、あの建物に行ってみよ」

 庭の東側にあり、道路側にシャッターがある。おそらくガレージだろう。

「あれ、鍵が閉まってるよ。開けて」

「え、分からないよ。鍵がどこなのか」

「えー、あ、その家の鍵に付いてるやつは」

 キーホルダーには、家の鍵以外に2つ付いていた。

「あぁ、鍵穴に近いのはこれかな。開いた」

「ほらね」

 中にはオープンカー、ミニバン、SUVの計3台。他、備蓄品だろうか、多量のミネラルウォーター、缶詰、ようかん?等も有る。

「凄いね。これ今年発売された車ばかりじゃん」

「よく知ってるね」

「えー、うちの父さんが車好きで、しょっちゅう話してるし、雑誌も毎月買ってくるからねー」

「そうなんだぁ」

「乗りたいなー。さすがに無理だよね。あっ、いっぱい食べ物もあるよー。なにこれー、このようかん3年以上もつんだー」

「アルファ米?水で食べられるようになるのか、凄いな」

「どれどれ、ほんとだ面白いね。ピラフ、カレー味、炊き込み。いろんな種類があるんだねー」

 他にも、発電機、テント、寝袋、組み立てテーブル、ライト、調理機器、炭にガスボンベ等、一週間位は過ごせそうだ。

「庭でキャンプも出来そうだね。今度しようよ」

「ははぁ、できたらね」

 あちこちと探してみるも、遊び道具は無さそうであった。

「じゃぁ、次行こっかー。母屋だっけ、行ってみよ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る