第15話 日常2

 んー? なんか柔らかいぞ。でも凄く落ち着くなぁ。ちょうどよい弾力。凹凸。あれ.....抱き枕何て持ってたっけ?

 意識が現実世界に引き戻され、状況把握が出来るようになると、抱き枕ではないことに容易に気付く。

「お姉ちゃん!」

「あ、おはよう。夕べはお楽しみでしたね」

「へ?何?何言ってるの」

「ハァーア。冗談」

「はい?」

 どうやら、次のコスプレのアイデア探しに千明の部屋に入り、目の前の可愛い寝顔を見ていたら、思わず抱き締めていたらしく、そのまま寝てしまった。とのことだった。

「何を慌ててるのよ。家族でしょー。可愛いがあったら、取り敢えず抱き締める。これ、世界のルール」

「お姉ちゃん....朝からテンション高いね」

「だってー、もうすぐ春休みが終わっちゃうんだもん。しくしく」

 そうだ、本題をすっかり忘れていた。学校が始まるんだ。

「でさー、お姉ちゃんとしては、何かしたいなーって」

「友達と出かければいいじゃない」

「いやいや、友達とは出かけたよ」

「じゃぁ、良いんじゃない」

「だからー、ちーちゃんとお出かけしたいの」

「なんで」

「もー、出不精は変わってないんだねー。お願い」

「また、罠にはめる気なの?」

「違う違う。純粋に可愛いちーちゃんと、お出かけしたいの。良いって言って。お願い」

「んー。暇だし、じゃぁ良いよ」

「ホントにホント」

「うん...」

 なんかひっかかるなぁ。

「じゃぁ、着替えて。持ってくるから」

 返事も聞かずに飛び出していった。

 あらかじめ用意していたのだろう。すぐに戻ってきた。

「はい」

「それ、お姉ちゃんのだよ」

「え、違うよ。あってるよ」

 またか...。女装である。

「やっぱり嫌」

 布団に潜り丸くなる。

「えー。嘘着くのー。何回も確認したじゃない」

 無視にかぎる。

「ねー、ねー、無視しないでよー」

 かなりしつこい。

 しばらく無視していれば諦めるだろう。

「わかった」

 わかってくれたようだ。

 ん!布団に手が入ってきた。

「約束は約束だかんね」

 ズボンがとられた。パンツまで引っ張ってきた。いとも簡単にとられてしまった。

「返してよ」

「ちーちゃん。起きてまだおしっこしてないよね。そろそろしたいんじゃない」

 そう言われると、とてつもなくしたくなってきた。

「あ、でもー。まだお母さん達いるよー。そのままトイレに無事に着けるのかなぁ。途中で見られてもー、ちーちゃんなんでパンツ履いて無いのー!って言っちゃうかも」

 危機だ。両親が出かけるまでもちそうにもない。

「わかったよ」

「えー、何がわかったのー」

「行きます。出かけます」

「えー、それだけー」

 やはり誤魔化せられなかったか。

「お姉ちゃんの指定した服を着て出かけます」

「絶対に?」

「はい。絶対です」

 やっとトイレに行けた。さぁ、どう逃げようか。

「無理だ」

 声に出してしまった。

「何が無理なのー」

 トイレの前で見張っていたのか。

「え、何にも言ってないよ」

「そう。早く出ておいで~」

 諦めてトイレを出ると、服一式を両手に持ちニコニコしながら立っていた。

「さぁ、着替えようか」

 自室に戻り、着替えようとスウェットを脱ぐと、背後から服がスーッと出てきた。

「なんでいるの!」

「なんで?一緒に部屋に入ったからでしょ」

「いや、なんで一緒に入るの」

「え、着替えを手伝うため」

「はー...、いいや...」

「ん?」

 不思議そうに首を傾げる姉。確かに家族だし、普通なのか?

いやいや、これが逆ならおかしいはずだ。

「お姉ちゃん。お姉ちゃんが着替えるときに、僕がいたらどうする?」

「抱き締めるよ」

「いやいや、おかしいでしょ。普通は、出てけーってなるでしょ」

「なんで?家族なのに」

「じゃぁ、お父さんだったら」

「お父さんは駄目でしょ」

「そうでしょ。だから、僕も駄目でしょ」

「なんで?ちーも怒るの?」

「へ?怒らないし、逆でしょ」

「えー、わかんないよー」

「じゃぁ、お父さんが駄目な理由は」

「だって、お父さんは、みっともない部屋で着替えろー!って怒るから」

 あー、もういいや。

「ハイハイ、服かして」

 ニコニコしながら見守っている。

「んじゃさー、これもね。あとー、これ。お化粧はどうする?」

「ハイハイ、お任せしますよ」

「じゃぁ、今日は目元だけのメイクにしよっかな」

 やはり何かのキャラメイクにしか見えない。

「いいねー。じゃぁ、そこに立ってー。撮るよー」

「じゃぁ、次これね」

 あれ?

「出かけるんじゃなかったの」

「んー。やっぱりめんどくなったから、撮影会にした」

「えー」

「何、そんなに女装して出かけたかった」

「違うよ」

「じゃぁ、いいじゃん。はい、次ね」

 5着ほど着替えさせられると、満足したような顔になっていた。

「あ、そーそー、全部千秋ちゃんに送っといたから」

「はぁー?!」

「なにー、呼んだ方がよかったぁ」

 いやいや、この人おかしいでしょ。

 その頃、千秋は写真を見ながらぬいぐるみを抱き締め、足をバタバタさせていた。

 後日、姉は千秋から何かを貰っていた。


 

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