第13話 千秋と千明 

「せん君、起きない。最近お寝坊が酷いよ」

 もともと朝が弱い千明を起こすのが、千秋の日課になりつつあった。家族が起こしても、また布団に潜り込み何事も無かったかのように寝てしまう。はじめは、千明の両親が迎えに来る千秋に遠慮し、先に行ってもらっていた。当然、千明は遅刻。共働きの両親は先に出勤することが殆どであり、姉も早いために手をこまねいていた。

 ある日、登校したのが給食前という時があり、一人校庭を歩く千明を見つけた千秋が、次の日から両親に許可をもらい、起こしに行くようになった。

「何で起きれないの。ベットに取り敢えず座りなさい」

 布団を剥ぎ取り千明の足をベットから出す。目を擦りながら座る千明を確認し、

「じゃぁ、着替えてね。ドアの前で待ってるから」

 ドアを閉めて待つも、なかなか出てこないし、静かすぎる。

 トントン

「着替え終わった?」

 何度か声をかけたが返事がない。

「もう、開けるよ」

 千明は再び布団に丸まっていた。

 これを2~3回繰り返してようやく起きる時もあったが、千明は全く起きる前の事を覚えていなかった。

「もう6年生なんだからしっかりしなよ。中学生になったら違う学校なんだから」

 千明は、ぼーっとしながら歩いており聞こえてるのかすらわからない。

「ちゃんと歩いて。もう、信号赤だよ」

 千秋が千明のランドセルのフックを引っ張り誘導する。

「ほら、青になったよ。犬の散歩じゃないんだからね」

 学校に着く頃にはやっと目が覚めており、会話が成立するようになる。クラスは違うため、下駄箱で別れる。

 千秋が教室に着くと、琴音が話しかけてきた。

「ちーちゃんおはよう。最近大変そうだね」

「そうなんだ、起こしてあげないとまた遅刻しちゃうから。今日なんて4度寝だよ。ある意味才能だよね」

「でも、楽しそうにも見えるけど」

「楽しくないよー。早めに起きないといけないし」

「そっかー。お母さんは大変だねぇ」

「お母さんじゃないよ。ただの幼馴染み」

「まーいいや。彼女さん」

「違うってばー」

 クラスでは静かなイメージである千秋。数少ない友人の前ならではの光景であった。一方、千明の教室では

「おー、千明。また彼女と登校か」

「チゲーよ女同士じゃん」

「そっかー、女の子だもんな」

 苦笑いをして静かに席に着く。

「おはよう千明くん、最近遅刻しなくなったね」

 挨拶を返すと、早速昨日読んでいたラノベの話で盛り上がっていた。こちらも、友人と呼べる子が数人はいたので、孤立することはなかった。

 給食の時間。班での食事になるが、千明宅では食事中の会話は良しとされていなかったので、静なものであった。一方、千秋の班には琴音がおり、中心となり騒がしい位であった。

「ちーちゃんいいなー。私も彼氏欲しいなあー」

「彼氏じゃなくて幼馴染み」

 男の子達もいるので、声が小さい。

「え、聞こえなかったよ。最近いつも起こしに行ってるんでしょー。早起きして」

「だから彼氏じゃないってば」

 男の子達は聞き耳をたて、女の子達は盛り上がる。

「でもでも、起こしに行ってるってことはさ、ねぇー」

「花ちゃんまで言うの」

「でも、千明君って女の子みたいだよね。いまだに信じられないもん」

「そっかー。彼氏じゃなくて、そっちのほうか」

「琴音ちゃん。変なこと言わないで」

「ごめんごめん。でも、知らない人から見れば確かに女の子同士に見えるよね」

「ねぇ。千明君の部屋も女の子っぽいの」

「ぜんぜん、さっぱりしてるよ。本ばっかりで何にもないよ」

「ぬいぐるみがいっぱいで、それに埋もれて寝てるってイメージだけど」

「花ちゃん。それはちーちゃんの方だよ」

「え、それも意外。じゃぁ、千明君とちーちゃんの部屋が逆だったらよかったのに」

「花ちゃん。意味わかんないよ」

「じゃぁ、琴音ちゃんは」

「私は、ちーちゃんの部屋は見たことあるけど、確かに真逆のイメージだったかも」

「そーでしょー。ちーちゃんってThe真面目って感じだよね」

「でも、ぬいぐるみはあっても良いんじゃない」

「そーかー。そだね」

「ところでちーちゃん。どうやって起こしてるの」

「え、普通にだよ」

「普通って」

「花、ちーちゃんは大人の世界の住人だから、私達とは普通が違うの。大変なの。凄いの」

「やー。手ー繋ぐの、ナデナデするの、ヤラシイー」

「花ちゃん。花ちゃんはそれでいいのよ」

 だんだんと花の声が大きくなり先生に叱られた。花は妄想の世界に行ってしまい、食事どころでは無くなっていた。

 放課後になり、帰りのコースが同である事もあるが千秋と千明そして花が一緒に帰る。まだ花は妄想していたようで、千明にいろいろと質問をしていた。

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