第12話 学校見学 2

ガチャ!ドンドンドン▫▫▫▫▫

 誰かが駆け上がって来る。

 正気に戻り、琴音を離し服を着た。

 トントン

「ちー、いるのー」

 姉のようだ。

「う、うん。今帰ってきたとこだよ」

「入るよ」

 素早い切り替えだ

「あ、お姉さん、お邪魔してます」

「おっ!ちー、可愛いじゃん。これ、誰のコーデなの」

 姉が抱きつき擦り擦りしながら言った。

 しかし、琴音はどういう気なのだろうか。千明のことが好きなのか、からかって遊んでいるだけなのか、それとも....。

「あ、それお向かいの千秋ちゃんの服なんです。いろいろいじくって、いや考えて。あ、お化粧は私がしました」

「へー、凄いね。イメージ通りだよ」

 いったい何のイメージだよ。

「あのー、お姉ちゃん。そろそろ離れてくれない」

 名残惜しそうに離れた。

「あれ、千秋ちゃんは?」

「帰ってすぐに行ったんですが、留守だったんですよ」

「そうなんだ。ところで二人で何してたの?私もまぜて」

 琴音は返答せずに、少しニヤついた顔つきでこちらをみている。さー、どうするの?と言わんばかりに。

 返答に困っていると、姉がはっとした表情で

「あれ、もしかして、お姉ちゃんはお邪魔でしたか」

「え、いや、そ...そうじゃないよ」

 慌てた態度になってしまい、余計に誤解?を招くかたちになってしまった。

 琴音は恥ずかしそうに下を向くが、わざと誤解を招こうとしているようにしか見えない。思い過ごしなのだろうか。本当にはずかしがっているのかわからない。

「えっ。本当にだったの。でも、あれ、千秋ちゃんは、いや、ごめん」 

 慌てて部屋から出ていき、階段を下りて行った。

「私、帰るね。じゃぁ、ま▫た▫ね」

 頬に軽くキスをして出ていってしまった。

 いったい何が起こった。今時の子はこんなのが普通なのだろうか。今の今まで自分の年齢を忘れてしまっていた。いや、忘れさせられていた?琴音、恐るべし。

 やっと冷静になれ、考えるもわからない。こんなこと後輩君にも聞けない。しかし、今思うと自分の前世の事を意識しないで、思考することが多くなった?いや、千明の年齢の思考になってきているのだろうか。

 しばらくすると姉が訪ねてきた。

「ちー、いい」

「うん、いいよ」

 凄くゆっくりとドアを開ける姉。独り言だろうか、

「大丈夫だよね」

「え、何が」

「んーん、なんでもない。あれ、琴音ちゃんは帰った?のかな」

「うん、お姉ちゃんが出ていって直ぐに帰ったよ」

「あ、そうなんだ。ごめんね」

 やはり、そういう想像をしていたような態度である。

 しかし、一方的とはいえ完全なる誤解ではない。

 返答に困っていると、

「いや、いいんだよ。今は普通だって聞くし、お姉ちゃんは、まだ、いやあれだし....」

 かなり想像が膨らんでいる様子だ。気まずくされるのはまずいので、お茶を濁した方が良さそうだ。

「へ、何か誤解をしていませんか。服のボタンが後ろだったので、外してもらっていた所に、お姉ちゃんが来ただけですよ」

 まずい、たどたどしい敬語になってしまった。

「あ、なんだー。はは、気にしないで何でもないから。じゃね」

 一応、誤魔化せたのだろうか。

 すぐにまた、姉が入ってきた。今度は急にドアを開けて。

「あ、違う。千秋ちゃんが来たんだった。どうする」

「え、あ、行くよ」

 玄関に、何冊か本を持って千秋が立っていた。

「せん君。今日はどうだった」

 琴音から連絡が無かったのだろうか?

「うん。問題なかったよ」

「琴音ちゃんは、まだいる?」

「いや、少し前に帰ったよ」

「そっかぁ、琴音ちゃんに本を借りてきて欲しいって言われたんだけれど、なかなか見付からなくて」

 ん、琴音は、千秋が図書館に行っていると知っていたのか?ということは?考えすぎかな。

「そうなんだ」

「じゃぁ、帰るね」

「待って。服洗ってから返すね」

「あー、あまりにも違和感が無かったから忘れてたよ」

「あはは....」

「でも、そのままでも良いよ。おばさん達は知らないんでしょ」

「じゃぁ、お姉ちゃんが洗っておくよ」

 背後に居たとは気付かなかった。

「そうですかぁ、ではすみません。お願いします」

「わかった」

 千秋が家に戻っていった。

 自室に戻り、着替え姉に洗濯をお願いした。確かに姉の物とした方が両親への説明が省ける。

 夕方になり、後輩君から電話がかかってきた。

「あ、先輩ですか。連絡が遅くなって申し訳ありません。例の件ですけれど、親御さんは学校から▫▫▫」

 やはり、学校からは、虐めは無かった どうして自殺を図ったか検討もつかない。と、お決まりの言葉しか聞き出せなかったとのこと。よって、特定の人物などは出てこなかった。また、日記等は見付かっておらず、両親は普段の服の汚れや怪我等が頻繁になっていた事から、虐めが原因と考えたらしい。

「▫▫▫と、言うことなんです。結局振り出しです。お役に立てず申し訳ありませんでした」

「いや、ありがとう。僕もここ何日かで、少し収穫が得られたから大丈夫そうだよ」

「え、僕?」

「え、僕って言ってた?」

「はい」

「最近変なんだよ。時々自分が千明になっていることがあるんだ。ま、千明なんだけど。何て言うか、昔からこうだったみたいな、違和感無く自然?にしていることが多くなったみたいなんだ」

「先輩、記憶は大丈夫ですか」

「それは勿論変わりない。黒歴史まではっきりと思い出せるよ」

「そうですかぁ、大丈夫なら良いんですけど」

「ありがとう。また、何かあったらお願いするよ」

「わかりました。いつでも。では失礼します」

 後輩君に言われて、実感が持てた。最近のこのもやもやは、自分が千明になりつつある?感じだったのか?記憶は大丈夫だから時々客観視してみるようにしよう。

 


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