第11話 学校見学

「こんにちはー」

 小学生男子のごとく元気な声で琴音ちゃんが来た。

「あ、いらっしゃい。ちょうど千秋ちゃんが部屋で仕上げてるからどうぞ」

「おっじゃましまーす」

 ノックもせずにいきなり千明の部屋に入ってきた。

「琴音ちゃん。ノックは」

「あ、ごめーん。ワクワクしてさ。それとも良いとこだったぁー」

「そ、そんなことしてないもん」

「あれー、私は良いとことしか言ってないのにあやしいなぁ」

 千秋は耳を真っ赤にして下を向いてしまった。

 着替えは丁度終わったところであった。

「それは良いとして。いいじゃん!いいじゃん!やーかわいい」

 千秋が急に回復した。

「でしょう!いいでしょう」

「うんうん。良いー!」

 なんか二人で盛り上がっている。

「あのー、盛り上ってるところ悪いんだけど、本当に大丈夫なの?」

「もーぜんぜん。大丈夫」

「あ、服はどうしたの」

「あぁ、私の」

「やーらしい。今着てたやつぅー」

「違うもん。やらしくないもん」

「じょうだんよ。お化粧した方がいいかなぁって思って持ってきました。私がして良い」

 なんかマイペースな子だなぁ。

「あ、うん。私持ってないし」

「じゃぁ、早速」

 千明の発言件はないみたいだ。

「んー、やっぱり清楚系があってるかな」

 数分で完成。

「うん。いいね。どぉ?」

「え、わかんないよ」

「いや、千明くんにはきいてないの」

「あはは、いいんじゃないかなぁ」

 琴音は満足そうにこちらをみている。

「よし。今日の予定を発表します」

 千明の顔は小学校の頃の同級生がいるとバレてしなうので、琴音ちゃんと二人で行くことになった。見知らぬ顔が一人であれば、何とでも言い様があるからだそうだ。先ずは教室、体育館。そして先生に遭遇しやすい音楽室、保健室、最後に職員室と。また、先生に呼び止められた時点でダッシュで逃げ終了とのこと。

 学校までは徒歩15分前後で到着した。

「じゃぁ、入るよ」

「うん」

 思っていたより緊張しない。女装の効果であろうか実感がわかないような変な感覚に陥る。

「結構堂々としてるじゃん。時々女装してたのかなぁ」

「していません」

「あはは。ほんと、以前の千明君とはぜんぜん違う。女装とか関係なしにね。不思議」

「そ、そうなんだぁ」

「だって、二人で何かしたことなんて無かったし、いつも本ばかり見ててあまり喋らなかったしさ」

「なんとも言い様がないです」

「あ、ここが教室ね。あっ、三年になったら変わるから関係無かったね」

「あっ、そうだね。考えなかったよ」

「あはは、まっ取り敢えず次」

 前方から誰か来る。

「誰か来たよ。誰、知り合い?」

「うん。同級生」

「どうしよう」

「任せて」

「お、こんにちわ」

 こちらから話しかけた。

「お、ちわー。ん?誰」

「幼馴染みの子でさ、学校に忘れ物を一緒に取りに来たんだ」

「へー、何年生?」

「一学年下だよ」

「可愛いね。こんな可愛い子いたっけ?」

「んー、私のが可愛いでしょー」

「ハイハイ、琴音が一番可愛いよ」

「そう、私のが可愛いのです。じゃぁ、急ぐからまたねー」

「ん、じゃぁ」

 琴音は普段からこういうキャラらしい。

「次、体育館だね」

 階段を下りすぐにあった。

「結構大きいね」

「そう?普通でしょ。あとね、こっちが体育準備室ね。ボールとかいろいろ片付けるとこね」

 いろいろと備品がある。イメージ通り薄暗く、ヒヤッとした感じ。分厚いマットや跳び箱とか凄く懐かしい。思わず寝転びたくなる。

 懐かしさのあまり、跳び箱を叩いたり、マットに寝転んだりしているとドアを閉める音がした。

「どうしたの」

「静かに。先生が見えたの」

 確かに、こちらに歩いてくる音がする。

「こっち」

 琴音が手を引き並んだ跳び箱の後ろに隠れる。

「見つかったらダッシュね」

 しばらく歩き音が聞こえたが、遠ざかって行くようだ。様子を伺うべく立ち上がろうとしたとき、同時に立ち上がってしまい、ぶつかり横にあるマットに倒れてしまった。

 これが噂に聞く、ラッキースケベ?千明の上に琴音が押し被さる体制になっていた。着痩せするタイプのようで柔らかい感触が伝わってくる。さきほどまでとは打って変わり琴音が淑やかになった。

「あ、ごめん」 

「こちらこそ」

 琴音の表情が急に変わった。

「千明君、男の子なのに良い匂いするのね」

 琴音が千明の顔をそっと撫でる。

「ほんとに男の子なの」

 顔を近付け頬と頬が触れる。

「えっ....」

 顔が正面に来るとじっと見つめられた。

「女の子みたい....でも.....」

 少しすると先程の口調に戻り、背を向けた。

「ごめんね。何でもなーい」

 戸を開き誰もいないのを確認する

「じゃ、次行こっか」

 何事もなかったかのように歩き出す。音楽室は階段横にあったためすぐにわかった。そしてそのまま進むと保健室があり、更に進むと職員室が見えた。

「こんな感じ」

「うん、覚えたよ」

「あと、どこか必要かなぁ。あった。理科室を忘れてたよ。実験の時移動するからね」

 再び階段を上がり3階へ。

「あっ琴音ちゃん?」

 背後から声をかけられた。振り向くと男子生徒が一人立っていた。

「今日、部活だったっけ」

「んーん、違うよ」

「よかったー。サボっちゃったかと冷や汗かいたよ。ところで、その子誰だっけ?」

「あー、一年下の子で近所なんだ」

「そーなんだ。こんにちは」

「こんにちは」 

「部活は何をやってるの」

 ばれる前に早く切り上げたいのに。

「えーっと。帰宅部ですかね」

「そー、今日は何しに来たの」

「いや、その.....琴音ちゃん」

「いやー、私と遊んでたんだけど、忘れ物したことに気付いてね」

「そーなんだ。僕もこれから暇なんだ」

 んー?琴音狙いか、それとも?

「あー、でも他の子とも待ち合わせしてるから」

「あ、うん。じゃあ」

 残念そうに帰る後ろ姿が...、少し共感する。

 琴音は溜め息をつくと

「いやー、めんどくさかったねぇ。普段誘うようなことを言ったことないんだけどね。もしかしたら千明君に一目惚れしたのかな」

 ニヤつきながら言った。

「ははぁ」

「ま、いいや。じゃあ、帰ろっか」

 結果無事場所の把握はできた。

「一応、千秋ちゃんにも報告しに行こっか」

「えっ、あ、うん」

 何を報告するのだろう。すたすたと早歩きになり家の前に着いた。千秋宅を訪ねると、図書館に行ったらしく不在であった。

「のど渇いちゃった。千明君ち行こ」

「あ、うん」

「ただいまー。どうぞ」

「おっじゃましまーす」

 元気よくスタスタとキッチンにむかう

「千明君早く」

「あー、はいはい」

 冷蔵庫の前で手を後ろに組み待っている

「何があるかなぁ、あ、カルピスとリンゴジュース、どっちにする」

「あたし、カルピスー」

「はい、どうぞ」

「ねぇ、千明君の部屋で飲んで良い?」

 この家のルールをまだ把握していなかった。実家にいるときは、リビングかダイニング以外にもっていくと、よく怒られたが。

「あー、いいんじゃないかなぁ」

 またもやスタスタと先に部屋へと行ってしまった。自分はリンゴジュースをもって上がった。

「ねぇ、誰もいないみたいだね」

 そういえば、気配がない。おかえりなさいの返答もなかった。

「お姉さんはいるのかな?」

「え、何か用事があったの?」

「んー、ちょっとみてくるね」

 姉の部屋の戸をノックする音が聞こえた。

「お姉さん、いなかった。じゃあ、二人きりだね」

 またもや表情が妖しくなった。

 琴音は千明のストローを取り上げ、自分のコップに入れた。

「な、なに」

「一緒に飲む?」

 上目遣いで少し恥ずかしそうに言った。急に女の子全開モードに変わった。

「へ、いや......えっ....」

 更に女の子全開。

 いい年のおっさんであるがこんな経験はなく、というか頭が混乱してきた。

「恥ずかしがっちゃって可愛いの」

 だんだんとにじり寄ってくる。近い。

「え、ど、どうしたの」

「んー、べつにー」

 もう、密着状態である。左手を首に回し頬に鼻を擦り付けてきた。

「やー、ち、近いよ」

「そーかなー」

 耳元で囁かれている。ゾワっと震えた。

「あれーどうしたのー。震えちゃって」

「や、こ、琴音ちゃん、だって、どう、したの」

「んー、ホントにー、男の子か、ためしてるの」

「お、男だよ、危険だよ、ホントに、危険だよ」

「んふ、危険な子がー、震えるのぉー」

 頬を擦り寄せながら、ほぼ抱き付かれている。

「あ」

「あれー、変な声を出してる危険らしい子がいるねー」

 わけがわからなくなってきた。なんだか頭もぼーっとしてきた。

「おとなしいねぇ。危険な男の子じゃないのかなぁー。それとも女の子なのかなー。確かめないと」

 服が脱がされていく。力が入らない。

「あれー、胸はないみたいだねー。どれどれ」

 


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