第10話 姉の友達

 受験も終わりのんびりと毎日を過ごす姉。珍しく朝早くから起き出して何やら騒がしい。もう少し寝ていたかったが絶妙なタイミングで眠りを妨げる。

「お姉ちゃん何してるの?こんな朝早くから」

 サンルームに何やら普段着とは思えない奇抜な衣装やらウイッグ等が散在している。

「あーおはよう。ごめんね散らかして。踏まないでねぇ」

 よく見ると姉の部屋にも同様に広げられていた。

「今日ね、友達が来るからその準備だよぉ」

「準備ってこんなに散らかして?」

「違うよ、揃えてるの。ちーもやる?」

「え、ごめん、わかんない。何をするって」

「あーそうか、ごめんごめん。わかんないよね。コスプレ撮影会やんのよ。よくやってたんだよぉ」

「はい?」

 どうやら自宅で撮影会をやるらしい。公共の場でする勇気は無いので、この広い庭と家のなか限定で。ちょうど、両親の趣味がガーデニングとDIYということもあり、壁のモルタル造形と組合わさり、かなり面白い庭になっている。家も外壁だけではなく内部造作にもこだわり、ペンションのようになっている。確かに撮影するに困らない。

 姉の朝食が終わった頃を見計らったかのように友人達が来た。

「おっはよー!」

 元気な声で挨拶をしながら二人の友人が訪れた。

「久しぶりだねー。相変わらず女の子みたいですねー」

「おはようございます」

「あれ、今日は逃げないんだねぇー。珍しい」

「へっ?」

 いつもは逃げていたのか?

 あわてて姉が近寄り耳元で、

「あの件と記憶喪失のことは知らないから、なんとか今日は合わせといてね」

 そう言うと二階に上がって行った。一応うなずきはしたものの、どう合わせればよいのかわからない。それに逃げていたとはどういうことなのか。とりあえず、朝食をとったら自室に戻ろう。

「おっ!今日は逃げないだけでなく、堂々と覗きですかい。少年」

 まさか、サンルームなんかで着替えているとは思ってもいなかった。他の家からは見え難くはなっているが完全ではない。

「ごめんなさい」

 慌てて逃げようとしたが捕まってしまった。

「んー。これは犯罪ですなぁー。どうしましょうか」

「そーですね。どうしますか」

 恥ずかしがりもせずに下着姿でニヤニヤと何やら企んでいる様子。

「お姉さん。ちーちゃんが色気付いてますよ。罰をあたえなければなりませんねぇー。どうでしょう」

「ハイハイ、どうせ捕まえてするつもりだったんでしょ」

 友人二人が千明の服を手慣れた様子で剥ぎ取った。

「んなぁ!何をするつもりですか!」

「いいから、いいから」

 逃げないのかとはこの事だったのか。おそらく来る度に襲われていたのだろう。羨ましい事のように思えるが、実際に自分がその立場になると抵抗してしまう。こんなシチュエーションがあったら抵抗するふりをして、なんて妄想したことはあったがそんな余裕は無かった。下手に抵抗して怪我をさせてしまったらと考えると尚更思うように動けない。

「あら、今日はいつもより抵抗しないじゃない。やり易いからいいけど」

 もともとスウェット上下だったこともあり、あっという間に下着姿に、調子にのって下着まで脱がされそうになったが死守した。なんだかんだで、色々と柔らかい感触も味わえたので良しとしよう。

 自分もやっていたスマホゲームの少女剣士キャラの衣装を着せられたようだ。

「お化粧しなくてもいけるじゃない。素材が良いと楽よね」

 鏡に写った自分の姿に見惚れてしまい、無意識にポーズをとっていたった。

「おっ!珍しく乗り気だねぇ。化粧もいっとくか」

 確かにここまで良いと化粧もしてみたくなる。しかし、自分からは言い出しにくい。提案に肯定はしなかったが、否定もしていなかった。

「否定しないって事は、良いのかなぁー」

 返事を渋っていると、誰かが二階に上がってきた。

「せん君!?」

 驚いた表情で千秋が立っていた。

「えっ、うそ、いいかも.....」

「ごっ、誤解しないで!無理矢理脱がされて、いや着せられて」

「脱がされた!ぜ、全部」

「全部じゃないよ、下着までは大丈夫」

「下着は自分のなの」

「うん。下着は自分の」

「そんな趣味が......」

 複雑そうな表情でこちらをチラチラ見ている

「ん....違う!下着は男物だよ」

 少し安心した表情になった。

「でも...何でせん君以外下着姿なの」

 なんて説明したら良いのだろう。覗いてないのに覗いたことにされ、脱がされた?何か違う誤解を受けそうだ。

 返答に困っていると、姉が口を開いてくれた。

「皆で罠にはめただけだから、大丈夫よ」

 訳のわからない返答であったが理解してくれたようだ

「わかりました。あんまりからかっちゃ可哀想ですよ。でも、いいかも」

 姉達もまあまあ満足したらしく、解放してくれた。

「あきちゃん、助かったよ。ところで、何か用があったの」

「あ、そうそう。記憶喪失のことを隠しておきたいなら、学校の事を前もって知っておいた方が良いかなって、琴音ちゃんが電話してきたの。それで相談ってことで」

「そうだよね、教室の場所すらわからないのって不自然だしね。でも、知り合いに見付かって話しかけられたらまずいよね。どうしよう」

「そうなの、そう思って相談っていうか作戦をと思ってね。でも、解決したよ」

「えっ?」

 楽しそうな表情でニヤニヤと見上げてきた。

「それ、それ良いじゃない」

「はい?」

「女装よ」

「はぁ?」

「ばれないと思うよ。少しお化粧したらなおね」

「た、楽しそうだね...」

 返答せず、ニヤニヤしている

「な、なんでしょうか」

「私が、してあげよっか。ううん、させて」

 本当に楽しそうな表情をする。今の子達の感覚はわからない。そもそも、すんなりと受け入れられるのが普通なのだろうか。とりあえず任せてみよう。

「じゃぁ、任せよっかな」

 すっごく嬉しそうだ。

「さっそく、して良い?」

 なんか、いやらしい感じがする。意図して言っているのか天然なのか。

 道具を姉達から借り、ぎこちない手つきで始めた。

「化粧なんてする事あるの?」

「もう、黙ってて」

 姉達も再び参戦。あれやこれや言いながら完成したようだ。

「はい、どうぞ。どう」

 鏡を見せられると、そこには女性と疑わない姿が映っていた。同時に、今まで感じたことがない感情が生まれてきそうになった。

「これならバレないでしょ」

「う、うん」

 姉達がキャーキャーうるさい。

「それよりお姉さん達、何か着てください」

「はぁーい」

「せん君、琴音ちゃんに写メして良い?」

「え、うん....」

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