第9話 お友達
今日は千秋ちゃんの友達に会えるよう頼んでみよう。午前中は勉強時間としているようなので、昼過ぎに聞いてみることにした。
まだ時間がある。何をしようか?よし、姉との親睦を深めよう。決して如何わしい気持ちはないのであります。
「お姉ちゃーん」
「ちょうど良かった。ちー電話よ。病院の先生」
どうせ後輩君だろう。午前中だっていうのにサボりかぁ。
電話を借りて自室に戻った。
「はい」
「あっ先輩。どうしたんですか不機嫌そうですけど」
「いいえ。何でもありませんー。ところで、なに」
「今日、お父さんと話す日なんですが、何か聞いておきたい事は有るかなぁと思いまして」
「今日だったのか、すっかり忘れていたよ。んー。虐めの時の学校の対応と主犯格、話がわかる教師、かな」
「わかりました。では何かありましたら電話ください」
やっぱり忙しそうだな。
「先生。何だって?」
「えっ、あー.....元気かなぁって心配してくれたみたい」
「そうなんだ。良い先生なんだね」
「あはは」
気分がそがれてしまった。親睦を深めるのはまたにしよう。
自室に戻り窓の外を眺めていると、見知らぬ女子が千秋宅に入って行った。
少しすると
「ちー。電話だよ」
また後輩君か?今度はなんだろう。
「あっ、せん君。私だけど今大丈夫」
「うん。全然暇だよ」
「うちに来ない。勉強、一緒にしない」
「えっ、あー、うん。わかった」
「じゃぁ、待ってるね」
どうしたのだろうか、とりあえず行ってみよう。
「あきちゃん」
「どうぞ上がって」
部屋に行くと先程の少女がいた。
「どうも、はじめまして。千秋さんの幼馴染みの千明です。読み仮名が同じなので、千秋さんの事はあきちゃんってよんでいます」
驚いた面様でこちらをみていた。
「本当なんだね」
「えっ?」
「ごめん。記憶喪失のこと、話したの。この子は私の親友で、せん君の同級生の琴音ちゃん。昨日話した事情を聞いた子だよ」
「あ、そうなんだ。ごめんね」
「んーん。記憶喪失って本当にあるんだね。嘘をついているようには見えなかったし」
どうやら事情を話したら、会って直接話したい。ということで来たらしい。
「あんなことになるとは思ってなくて、私で良ければ協力するね」
「ありがとうございます」
「かたいよ。同級生何だからさ」
「うん、ありがとね」
「それでよろしい」
「じゃぁ、とりあえず宿題からやっちゃいますか」
私立と公立では宿題の量がまったく違うようだ。倍以上はあるみたいだ。そういえば、自分には宿題は無いのだろうか。
「千明君。そういえば勉強の方は大丈夫なの?」
「あ、うん。なんか勉強の方は大丈夫みたいなんだ」
「そっか、それは良かった」
自分は何もすることがない。
「せん君、総復習の参考書貸したげようか」
「あ、そだね。ありがとう」
あの頃は凄く苦痛だったのに、今は懐かしく楽しく感じる。医学部の勉強に比べれば、中学の勉強は脳トレゲームみたいにかんじる。
暫く懐かしんでいると、琴音ちゃんが生物で悩んでいるようだ。
「あれー、私血液の循環って苦手なんだよね」
「どれどれ、あーこれね。覚え方としては、まず右に大静脈、左に大動脈、それを繋ぐ心臓と肺。これを基本として、静脈は心臓に血液を戻す管、動脈は心臓からの血液を送り出す管。と覚えます。そして、心臓から血液を送り出す部屋を心室、心臓に血液が帰ってくる部屋を心房と覚えます。すると、大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈。となります。動脈血と静脈血は離して考えた方が良いでしょう。いらなくなった二酸化炭素を多く含む静脈血、肺で二酸化炭素を排泄して酸素を多く貰った血液が動脈血。簡易化すると肺に戻る血液が静脈血で、肺から出ていく血液が動脈血。と別に覚えると間違えにくいよ。だから、肺動脈には静脈血、肺静脈には動脈血となるんだ」
「そっかー。確かに図を暗記するより迷わなくなるね」
そのあとも次々と質問に答えていった。
「凄いね。千明君って頭良かったんだね」
千秋が不機嫌そうにこちらを見ていたのに気付く。
「あっ、ごめん。あきちゃんも何かわからないところがあった?」
「別に無いですけど!」
急に敬語?やっぱりヤキモチなのか。
なんだかんだで一段落ついた。
「そろそろお昼だね。私パン種を作っておいたの。ママが焼いておいてくれてると思うんだ」
そういえば先程からパン屋のにおいがしていた。
「ちーちゃん料理得意だもんね」
「じゃあ、そろそろお昼にしようか」
ダイニングに行くと何種類ものパンがあった。
「せんはチーズウインナーとあんパンが好きだったよね。あっ、ごめん」
「んーん。好きだよそれにするね」
「あっ、私はツナとあんパンが良い」
「うん。どうぞ」
惣菜パンはフランスパン生地で、菓子パンはふわふわ生地で作られており、お店にだせるレベルだ。しかもあんパンのあんまで手作り。甘さも絶妙。ココナッツクリームあんとつぶあんの2種類があり、つい両方食べてしまった。
昼食も終わり、部屋に戻った。
「そうだ、千明君。私に聞きたいことがあるんでしょ」
「えっ、あ、うん」
「きっと直接聴きたいことがあると思ってたんだ」
「そうなんだ、ありがとう。実は今日頼もうと思ってたんだ」
「例の事でしょ」
「うん、キミからみて、僕の立ち位置はどんな感じだった」
「あくまで私個人としてのだけど、小集団の不良グループに絡まれているだけで、みんなからという感じではなかった。確かに、不良達に絡まれたくないから大部分の人は、見て見ぬふり。強要されて無視する男子もいたね。でも、少ないけれど注意したり、先生を呼んできたりした生徒もいたよ。だから、持ち物に害をなすのはみんながいないときが殆んど。あとは呼び出してって感じ」
「それだけ?」
「うん。私が知っているのはそれで全部だよ」
申し訳ないが、思っていたより酷くない印象だ。まだ、逃げ道も対処法もあるように思える。自殺するほどにも思えない。
「その不良達って何人位なの?」
「うちのクラスに2人、他クラスに4~5人位だったかなぁ。皆、例の先輩の子分だったみたいよ。今は無いらしいけど、先輩の兄が暴走族だったみたいで、そのつながりって噂されてた」
わぁー、まだそんな昭和な話があるんだな。確かに、今でも暴走族の衣装や暴走音等々センスも変わってないしな。ある意味伝統芸能だよな。
「そうだ、僕の記憶喪失のことを知っているのは、あきちゃんと琴音ちゃんだけ?」
「そうだよね」
「うん」
「じゃぁ、誰にも言わないでくれるかな」
「えっ、いいけど、何で?」
「その方が都合が良さそうな気がしてきたんだ」
二人とも腑に落ちない様子ではあったが了承してくれた。
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