第8話 幼馴染みー2

 次の日、夜中からだろうか少し雨模様であった。

 朝食後早速出掛けようとすると姉に止められた。

「ちー、千秋ちゃんはいつも午前中は勉強してるはずだよ。お昼過ぎにしたら」

「ありがとう。そうするよ」

 何もすることがないので、自室に戻った。窓の外をボーッと眺めていると千秋ちゃんがこちらをみていた。チャンスと思い声をかけるべく窓を開けた。

「あの!話したい事があるんだけど。今日、いいかな!」

 以外にもあっさりと了承された。しかも、こちらに来ると。

 少しすると、千秋ちゃんがやって来た。

「あの、千明くん。いいですか」

「あ、千明ね。大丈夫。部屋にいるからどうぞ」

 気を使ってくれたのか、姉は1階のリビングに籠っている。

 階段を上ってきている。凄く緊張してきた。

 トントントン

「いい...かな」

「どうぞ」

「あの............謝っても許されないよね。怒ってるよね。でも...ごめんなさい」

 頭を深く下げそのまま立ち尽くしていた。

 やはり、この子は何か知っている。

「いや、大丈夫だよ」

「ううん、私が悪いの」

「いや、そうじゃなくて」

「絶対、私が悪いの!」

 泣きじゃくる彼女。

「落ち着いて、話をさせて。とりあえず怒って無いから」

「ううん、そんなはずない!」

「いや、記憶喪失なので何もわからないの。本当に記憶がないので話をさせて」

 驚いた様子ではあったが、話ができそうだ。

「とりあえず、記憶が無いのは本当です。嫌がらせでもありません。本当です。信じてください」

「えっ、本当?記憶が無い?」

「はい。本当です。教えてもらった事以外わかりません。今のところ嫌な記憶は一切ありません」

「じゃぁ、私の事は....」

「家族に聞くまでわかりませんでした。幼稚園からの幼馴染みでよく一緒にいたこと、中学校は違う学校、半年くらい前から急に来なくなった。それだけです」

「それだけ?」

「はい。それだけです。だから、家族の知らない僕をよく知ってるかなぁ、と思い聞こうとしただけです」

 複雑な表情になっているようだが、話が聴けそうである。

「うーん。何でもいいから教えてくれないかな。話したくない事は話さなくていいからさ」

 しばらく様々に表情が変化していた。

「確かに....雰囲気が違う。別人みたい」

「そうみたいだね。家族みんなに言われたよ」

「うん。でも何でそんなに明るいの?」

 記憶喪失の仮説やこれから何をしようとしているかを話すと、姉と同じ反応をした。

「じゃぁ、元の学校にいくの?」

「うん。だから、知ってることがあれば教えてほしい」

「▫▫▫▫」

「すぐにじゃなくてもいいよ。話してもいいと思ってからで」

「▫▫▫▫」

「あはは......」

「そうだね。そもそも謝るつもりで来たんだし。じゃぁ、初めに。ごめんなさい。私が原因なの」

 彼女の話によると、近所に彼女と同じ私立中学に通う部活の先輩から告白を何度かされていて、すべて断っていた。するとその先輩に思いを寄せていた女子から嫌がらせをうけるようになり、エスカレートし、千明のところにも来なくなった。周りの話から、しつこく言い寄られ、かつ嫌がらせを受けている事を知り、理由はわからないが千明が下校時刻に迎に行った。他校の生徒なので当然目立ち、次の日には彼氏が来たと噂が広まる。そして千秋はその男子から彼氏なのかと聞かれ、そうだと嘘をついてしまった。すると、その男子が旧友の不良達にねじ曲げた情報を流し、同じ中学に通う千明が不良達からターゲットにされるようになった。虐めの内容は詳しくはわからないが、よく怪我をしていたとのこと。それでも登校し続けていたが、ある日突然屋上から飛び降り、偶然下がプールだったので助かった。と聞いているらしい。

 しかし、いくつか調べないといけない内容がある。何故迎えに行ったのか。飛び降りた下がプール。ねじ曲げられた情報と不良達とは誰かなどである。

「君は大丈夫だったの?」

「あの事件の日まではあったけど、今は無くなったよ」

「よかった。あと何故迎えに来たのかは聞いたの?」

「うん。聞いたけど黙ってた」

「不良達って」

「わからない。小学校の友達から不良達としか聞いてないの。何をされていたのかは少しは聞いたけど」

 定番の上履き隠しや教科書廃棄、SNS 利用。しかし、少ないが庇おうとする子達もいたからなのか、みんなのいるところでは暴力行為はなかったが、よく連れ出されていたとのこと。

「そうなんだ。庇ってくれた人達もいたんだね」

「うん。それに学校へはきちんと行っていたから大丈夫なのかと思って....」

「気にやむ事はないよ。君だって辛かったんだし。それに、自分から渦中に入って行ったのかもしれないしね」

「何で?」

「それはわからないよ。日記も何も見付けられなかったからさ」

「そうなんだぁ」

「あと、今の僕は気が漲っているというかとても元気なのです」

 やっと少し笑顔がみられた。

「なんか変だね。少し気が楽になったよ。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

「でも、やっぱりまだ信じられないよ。全くの別人物みたい」

「えっ、家族がみんな僕を千明って呼ぶから千明でしょう」

「そうだよね。千明は千明だね」

 やっと打ち解けたようだ。

「そういえば、僕達ってなんて呼びあってたの?キミって呼ぶのも変だしさ」

「ん。お互いに ちあき だから、私は あきちゃんって呼ばれてて、私は せん君って読んでたよ。家ではお互い ちー だけどね」

「では、あきちゃん」

「ん。せん君」

 なんか照れ臭い。純粋だった頃を思い出してこそばゆい。

 雰囲気も良くなったので、今日はこれ以上あの事には触れないようにしよう。

「ところで、僕には何て言うか、親密?的な人物はいたのかな」

「んー。私くらいかなぁ.....。あっ、違うよ。あくまでも幼馴染みだよ。うん」

 あはーん。千明の事をもしかしたらだったのかもな。美少年は得だねぇ。こんな時に何だけど、イタズラ心を止められない。

「そうかぁ。目覚めたとき、ベットの横にいたの、あきちゃんだったんだよね。周り全員わからない人達だったのに、何故か他の誰よりも気になって頭から離れなかったんだよね」

「えっ!どういう、こと、なの」

 顔を赤くしちゃって可愛いねぇ。青春だねぇ。

 いかんいかん。

「あぁー、なんだろね。勝手に言葉が出たっていうか、よくわかんないや」

 少しムッとさせてしまったようだ。反省。

「まっ、いいや。なんか腑に落ちないけど」

「ごめんね」

 可愛く言ってみた。また顔を赤くした。

 階段を上ってくる音がする。

 トントン

「開けてもいい」

 姉のようだ。

「お母さんがお昼一緒にどう?だって」

「ありがとうございます。でも今日は遠慮しておきます」

「ん。わかった」

「じゃぁ、そろそろ帰るね」

「うん。また」


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