第7話 幼馴染み

 学校は春休み明けからであり、3月中にどちらかを選択することになっているらしい。

 まずは、身近なところからやっていこう。そう、姉である。食事をさっさと終え、自室にこもっている。

「お母さん。僕はお姉さんの事を何て呼んでたの」

「普通に、お姉ちゃん。って呼んでたわよ」

「話しかけても大丈夫かなぁ?」

「んー、どうだろう。かなり落ち込んでたから...。まぁ、一緒の家に住んでいるのだから一生話さない訳にもいかないからねぇ」

「そうだよね。じゃあ、話してみる」

 あえて返事は聞かず、姉の部屋へと向かった。

   トントン

「入っても良い?」

 なかなか返事がない。もう一度。

   トントン

「なに」

「少し話したいんだけど」

「なにを」

「何も分からないから、分からないことかな」

 わざとややこしい返事をし、興味を誘ってみた。

「えっ、分からないことって何よ」

「まずは身近な人かな。近所の人も含めて」

「そんなのお母さんから聞けば良いでしょ」

「子供同士が接するとき、大人がいるかいないかで、外からみえる関係性は変わるでしょ。だから、お姉ちゃんにも聞きたいの」

「▫▫▫なんか別人だね。わかった、入りな」

 姉の部屋は、いかにも受験が終わったばかり。という感じであった。床一面にプリントやら本が積み上げられていた。

「お姉ちゃん」

 あえて愛らしく、にこやかに接する事にした。

 拍子抜けした表情でこちらを見ている。

「なによ、本当に別人見たいじゃない」

「えー、今の僕にはこれが普通なんだけど。それに、前の事は何も分からないしね」

「あんた、心配じゃないの?これからの事とか、受験じゃん。それに、あれだって....」

「あれって、虐めの事? 実感無いし、憶測で悩んでも仕方無いし。あと、不思議と勉強したことは憶えてるみたいだから」

 そう、高校受験位楽勝である。受験生の入院患者に勉強を教えていたこともあったからだ。

「なにそれ....。都合がいいんだね!」

 姉が少し感情的になってきている。

「病院の先生が言ってたんだけど。多重人格に少し似ているのかもしれないんだって。多重人格の場合、別人格を把握せず、記憶も共有しない事の方が多いらしいけど、他人格が同時に存在することもあるし、様々なパターンがあってもおかしくないんだって。完全に解明されてるわけでは無いから。だから、今の僕が突然消える事もあるし、元の人格と同時に存在するようになる可能性もあるらしいよ。あくまでも多重人格の仮説が正解だった場合だけどね」

「じゃあ、今のちーと話したことを忘れることも有るってこと?」

 千明だから、ちーっ て呼ばれていたようだ。

「忘れるっていうか、思い出せなくなると言った方が近いのかもしれないけどね」

 なぜか姉は目を潤ませはじめた。

「ちーごめんね。お姉ちゃん、力になれなくって。受験で頭がいっぱいになってて、イライラして逆にあたっちゃて」

 仕方のないことである。真剣であるほど受験のときは誰しもそうなってしまうだろう。

「うん。受験のときはみんな自分の事で精一杯だよ。謝る必要はないよ」

「▫▫▫うん」

 姉はしばらくすると冷静に戻り話し始めた。

「ちーに何があったかはよく知らないの。お母さん達も心配をかけないように何も言わなかったし。ただ、急に暗くなって何も話さなくなって、さらに部屋に閉じこもるようになったと思ったら、あんなことに...。合格がわかった日に....。きっと、私の事を気にかけてくれてたのね。自分の事で精一杯だったはずなのに.....」

 弟をぎゅっと抱きしめた。


うおっ!なんだ、凄いぞ。イヤ、俺はロリコンじゃない。けど、甘えてしまおう!人類男女問わずこの誘惑には勝てない。


 黙って、顔をしばらくうずめておくことにした。

 残念なことに幸せは長くは続かなかった。


 少し気が楽になったのか、姉の表情がやわらかくなった。やはりこの子同様に美形である。スラッと背の高いスポーツ系美少女という印象。

「お姉ちゃん。お向かいの幼馴染みの子は知ってる?」

「うん、よく知ってるよ。よく遊びに来てた?というよりもちーの世話焼きしに来てたって感じだったけどね」

「僕との関係性は?」

「んー。幼稚園からの幼馴染みだけど、姉弟みたいな感じかなぁ。よく説教されてたし」

「どんな?」

「ちーが本ばかり読んでて、外に全く出ないから「目にも体にも悪いよ。外にでよ」とか、「体を動かさないからひょろいんだよ」とかかな。殆んど外で体を動かすように促す感じ」

「そんなに部屋に籠ってたの?」

「そだね。長期休みの時なんかは平気で2週間以上、部屋ートイレーダイニングー風呂の移動だけ。殆んど部屋のなかってのがよくあったからね」

「だからあんなに本があったんだね」

「いやいや、あれはほんの一部。母屋にあるものを合わせると何百冊ってあるよ。大部分がラノベだけどね」

 馴染んできたので、そろそろ。

「そうなんだぁ。そういえば、幼馴染みの名前は?」

「そうだよね。千秋ちゃん。あきの漢字が違うだけ。あの子も家では、ちーって呼ばれてた。引っ越してきたときに、ちーちょっと来てってあちらのお母さんが呼んだとき、呼ばれたと勘違いして入って行っちゃたのが最初だってさ。そして年少さんからずっと一緒。中学校は千秋ちゃんは私立だったから離れちゃったけどね。でも半年前位までは頻繁に来てた....」

「半年前までって?」

「てっきり、私の受験があるから遠慮して来てなかった。と思ってたんだけど、実はちーと何かあったからだったみたいね。細かくは知らないけど」

「そうなんだぁ。ありがとう。名前もわかったし、明日早速行ってみるね」

「えっ、大丈夫なの」

「わかんないけど、自分の事知りたいし。迷惑かもしれないから、無理矢理な事はしないよう気を付けるよ」

 

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