第6話 はじめての我が家
退院の日。平日だったこともあり、母親だけが迎えに来た。
「ごめんねぇ、お父さんもお姉ちゃんもこれなくて」
「いえ、平日ですから。」
「お母さん、悲しくなっちゃうから、そろそろ他人行儀はやめてわがまま言って良いのよ。」
「あはは......」
▫▫▫▫俺にとっては、どうしても患者の家族。って感覚なんだ
よなぁ。うー、俺は女優、女優?いや男だから、男優、
男優?なんか卑猥にきこえる。あっ、俳優!俺は俳優。
言い聞かせながらタクシーに乗った。
20分位だったか家に着いたらしい。結構大きい。屋敷と言った方が近いかもしれない。母屋と離れ、建物も入れて敷地は500?いや、700坪位は有りそうだ。この住宅街になんとも贅沢なかんじである。
離れの方に入って行く。
「おじゃましまーす」
「ただいま。でしょ」
「あっ、はい。ただいま」
やはり他人の家、緊張する。リビングで立ち尽くしていると、ニコニコしながら
「あなたの部屋は二階でしょ。掃除をしておいたから」
階段を上がると広いサンルームがあり、扉が5つあった。
また、立ち尽くしていると、
「こっちよ、はい」
扉を開けると、以外とこざっぱりした感じであった。平机、本棚、ベット、そしてクローゼット。本棚には本がびっしり。ジャンルに富んでいた。
「いっぱい本があるんです、あるね」
「いつも部屋にこもりっきりで本ばかり読んでたもんね」
「あはは.....」
道路側に面した部屋のようだ。5~6m道路の向こう側にはびっしりと家が並んでいた。一番近い家の2階の窓からこちらを見ている人がいた。母も外を見ていたようだ。
「あの子でしょ。あんたの事心配してたのよ」
例の幼馴染みの子であった。会釈をすると、部屋の奥へと消えた。
「いつからの付き合いでした、だっけ」
緊張してよそよそしい話し方になってしまう。
「幼稚園からよ。同級生ね。あの頃は、毎日のように3人で遊んでたわね」
「3人?」
「そう、隣の子。一つ上の女の子で、半年位前に引っ越しちゃったけどね」
「そうなんだ」
そう言われても全く分からない。しかし、姉がいて、友達も女の子。おとなしい子だったかもしれない。
「僕の記憶喪失の事は知ってるのかなぁ」
「先に帰ってしまったし、あれから話す機会も無かったから知らないとおもうよ。じゃあ、お母さんは下に行くから何かあったら呼んでね」
あの子についてもふれない方が良いのであろうか?
早速手掛かりとなるものを探そう。まずは日記だよね。
部屋中隈無く探すも見付からない。もともと書いてなかったのか、掃除の時に整理されてしまったのか?記憶喪失ということにしなければ、あったのかもしれない。とも思ってしまうが今となっては分からない。聞こうにも整理されていたのならば、心労を与えてしまうことになるだろう。
誰か帰ってきたようだ。下で声がする。姉が帰宅したようだ。部屋の外で待つことにしよう。
母と会話をしているようだが良く聞こえない。少しすると2階に上がってきた。
「あ、お帰り」
避けるように自室へと入っていった。仕方がないので父親の帰宅を待つことにした。
18時過ぎに父親が帰宅した。夕食もそれに合わせてなのか、間も無く呼ばれた。
「お父さん、お帰りなさい」
少し明るく声をかけてみた。
「お帰り。まずは夕食にしようか」
いつもなのかは分からないが、食事中は会話無く静かであった。
メインの食事が終わり、デザートになると父親が声をかけてきた。
「食事中悪いが、早速おまえの希望を聞きたい。学校の事だが、自分と母さんは転校の方が良いのではないかと考えている。本来であれば、受験を控えて環境を大きく変えるのは得策とは言えないと想うのだが、今回は事情が違う」
やはりそうなるだろうとは思っていた。本人にとってどうしようもない環境になってしまったからの結果だから。
「それって、どこの学校なの」
「調べたけど、今さら私立への編入は不可能にちかいから、通学距離としては今より遠くなるが、通えない程ではない所にある。本当はもっと離れた学校を希望したのだが、通学方法が厳しいだろうからってな」
どうやら、公共交通機関では難しく、自転車通学は禁止されているとのこと。また、特例にしてしまうと同じ結果を引き起こしかねないと言われたようだ。
しかし、この情報化社会。ひとりでも共通項があれば、海外や何百キロと離れた所に行かなければ、どこに行っても同じ気がする。結局虐めを平気で出来る奴等は探しだそうとし、その前に確固たる人脈を形成しなければ好転はしないだろう。
「僕としは、変わらない気がするんだ。今はSNS が有るから。だから、もう一度同じ学校に行って駄目だったら、少しばかりの時間稼ぎという意味で転校を考える。というのでは駄目かなぁ」
凄く驚いた表情をしていた。こういう事を言うタイプでは無かったのだろう。
「でも....」
母は凄く心配というかんじで父を見た。予想通りの反応である。
「んー。上手く言えないけど、記憶無いし。それに、高校に行って、また付きまとわれても嫌だしね。解決とはいかなくても、緩和しておきたい」
「そうかぁ。確かに、おまえの言うことは正しいと思う。しかし、また同じ様になるかもしれないと思うと、怒りでお父さんは犯罪者になってしまうかもしれない。そもそも、あの学校の先生達は全く駄目だぞ。隠蔽体質で」
「入院中、先生に今の虐め事情についていろいろ聞いたんだ。カウンセリングの先生にも。そしたら実際に行った対処法をいろいろと教えてくれたし、先生達も協力してくれるって。携帯番号を教えてくれた先生もいるよ」
後輩が口裏を合わせてくれるようになっているし、実際に自分も実体験だけではなく、臨床においていろいろと携わる機会も結構あったので自信はあった。
「そんなことがあったのか。何も聞いて無かったけど」
「本当だよ。だから、先生のアドバイスでやってみたいんだ」
姉は話の途中でいなくなっていたが、今は両親を説得する事が優先される。
「じゃあ、一度お父さんがその番号の先生と話してから、もう一度話すのでいいか」
「ありがとう。早速先生にお父さんと話してもらえるように頼んでみるよ」
自室に番号が書かれたメモがある。ということにして、携帯電話を借り自室に戻った。
今日は、ちょうどいつものアニメを見ている時間だ。緊急がなければ電話にでるだろう。
「もしもし。俺だよ。オレオレ。詐欺じゃないよ」
「大丈夫ですよ。先輩の言った通り、電話番号はカルテから登録しておきましたから。例の件ですよね」
「そうそう、やっぱり父親が話したい。ということになったよ。都合の良い日を幾つか教えてくれよ」
「先輩、父親と直接話して決めましょうか?」
「そうか、そうしてくれるとありがたい」
リビングに行き、携帯を父親に渡した。すんなりと日時が決まった。少し予想外だったのは、父親がひとりで行くと言い出したことだが、逆に都合が良いかもしれない。後輩君に事情を細かく聞いて貰えるだろう。
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