第5話 手がかりは
休憩室には他に2人おり、お菓子を傍らにスマホをいじっていた。
「可愛いお客さんだよー」
「わぁー。いらっしゃい。ここ座っていいよー。」
やはりいじくるつもりだろう。目がワクワクしている。
しかし、家族情報を得るには看護師さんが打って付けである。
「どうしたのー、寂しくなっちゃた?」
「うーん、元々ひとりでも平気だったのか、よくわからないです」
「そうかぁ、何かお話でもする?」
「はい、知っていたらで良いのですが僕に関する事が知りたいです。」
入院時の問診票や看護記録に少なくとも家族構成と職業、食の好みやアレルギー、親から見た性格位は書いてあるものだ。
「あー、個人情報だからなぁ。でも、本人に話すのはどう判断されるんだろう?ちょっと、御家族に聞いて見るね」
早速、電話をしてくれた。許可をとるだけなのに10分以上もかかっていた。
「お母さんから許可が貰えたよ。えーとね、家族構成、一つ上のお姉さんがいるねぇ。お母さんは会社役員、お父さんは会社経営だって。君の趣味は読書。豆腐が嫌いだけどアレルギーは特に無いみたいだね。それくらいしか書いてないかなぁ」
「あぁ、僕は何歳ですか」
「あっ、そっかぁ、ごめんねぇ。14才でもうすぐ中学3年生だねぇ」
小学生位かと思っていたが少し違った。
やはり、情報量は少ない。住所と会社経営そして歩ける状態になっても個室のまま。少なくともお金には困っていないと予測される。
そういえば、ベットサイドに居た少女は誰だったのだろう。
「あのー、4人家族ですか?妹がいたりしません?」
「えっ.....あー!認識してたんだぁ。女の子ね。あの子はご家族と一緒にいらしたけど、誰だろね」
「そうですかぁ、他には在りますか?」
「ごめんねぇ、このくらいしか分からないかなぁ」
「いえ、ありがとうございます」
「そうそう、さっき電話した時、お母さん、もうすぐ着くって」
「え......。あ、はい」
どうしよう、どう接したら良いのだろうか。
母親はなるべく傷口に触れないようにすることが多い。子供を守るすべが分からないということもあるだろうが、一番は気持ちの整理が出来ないからだろう。
しかし、今回は記憶喪失設定があり中身が本人ではない。よって、母親の心のケアをしつつ、なるべく沈黙を失くそう。まずは、普通に会話が出来るように。を目標としよう。
部屋に戻ると間も無く
トントン
「入ってもいいかな」
「ど、どうぞ」
「あなたの好きなお菓子を買ってきたの」
豆大福ときんつば。そして牛乳。しぶいねぇ。俺も好きだけど。
欲を言えばほうじ茶かな。しかし、今食べ始めてしまうと、
▫▫▫美味しい?
▫▫▫うん
▫▫▫よかったぁ
▫▫▫モグモグもぐ
沈黙
▫▫▫あっ、お母さん用事が有るからまた来るね
終了。となりかねないので、
「ありがとうございます。今、看護師さん達からお菓子をいただいたばかりなので、後でいただきます」
「あっ、うん。牛乳は冷蔵庫に入れとくね」
「はい」
「▫▫▫▫」
「あの、お、かあさん。記憶喪失の事は聞いてるの?」
「うん。先生から」
「なんかね、結構辛くないんだ。僕ばっかり忘れて申し訳無いとは思うんだけど」
「んーん。辛くないなら、良いことだよ」
「うん。ありがとう。あとね、みんなのこと分からなくて御免なさい。お母さんは辛いよね。でもね、僕が言うのも変だとは思うんだけど、相手の事を思いやってあえて隠し事をしてしまうと、解決しない事だってあると思うんだ。心の準備が出来たらでいいから、僕がこんなことをしてしまった原因に心当たりがあれば教えて欲しいんだ」
やはり、相当辛いのだろう。必死で笑顔をつくろうとしている。
話題を変えた方がよさそうだ。
「あっ、そうだ。昨日いた先生ね、凄く面白いんだよ。たくさんお話ししてくれて退屈しなかったんだ。またちょくちょく来てくれるって。なんかね、先生の話を聞いてたらやりたいことがいっぱいできちゃった」
少しわざとらしかったか、反応が薄い。苦笑いのような笑み。
よけいに気を使わせてしまったのかもしれない。
暫く沈黙状態となったが、母の顔つきが急に変わった。
「さっきね、ここに来る前に先生に会ったの。先生、言ってたわ。こわがらないで向き合った方が良いって。確かに、今のあなたを見ると、きっと大丈夫なのかもしれない。と思うのだけれど、どうしても、笑顔がまた消えてしまったらって思う気持ちが.....」
また涙で声がつまってしまったようだ。
この母親にとって子供は、自分よりも大事な存在なのだろう。
今日はこれ以上探りを入れるのはよそう。
「うん。わかった。気持ちの整理が出来たらでいいからね」
「▫▫▫▫▫」
話題、わだい、ワダイ。
「あっ、そうだ!女の子、先生達も知らないって言ってた子なんだけど。目が覚めた日に来てたって。誰なのかなぁ。」
わー、また地雷踏んだかぁ?母の表情がまた複雑になった。
「あー、知らないならぁ、いいや。きっと、なんだねぇ....」
難しい。今回の事に関わっているのだろうか。それとも、実は見える人にしか見えない存在だったのか。
少しすると、
「あなたの幼馴染みよ」
表情が固い。これ以上聞くのは止めよう。
「そうだ。僕はいつ退院出来るの?」
「数日もすれば。とは言われたけど、確定日は言われ無かったの。もう少しだけ様子をみたらって」
その後、好物などたわいもない話をし面会時間が終わった。
入院中にこれといった成果は得られなかった。
そして、退院の日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます