第4話 慎重にいこう
昨日の出来事は本当に夢では無かったようだ。
数日間、清拭はされていたみたいだが、さすがに頭が痒い。
それに臭い。幸い個室なのでシャワーがある。自分にそのけは無いはずだが、何だか緊張する。
「すんませんねぇ」
誰もいないのに、つい声が出てしまった。
シャンプーなど一式が揃っていたので助かった。
「ボサボサ髪でも可愛らしかったけど、きれいにするとますます女の子みたいだよなぁ。 ついてるけど。」
少しイタズラ心が芽生え、後輩君が来る前により女の子っぽくなる方法を探っていた。
トントン 誰か来たようだ。
返事をしてないが入ってきたので後輩君だろう。
温泉番組の女性レポーターによく見る大きなバスタオルで胸から下を隠す姿で飛び出してみよう。反応が楽しみだ。
「あっ!ごめんなさい」
看護師さんが慌てて出て行ってしまった。
「あぁ、検温の時間か。間違ったぁ」
トントン
「入りますよぉ」
「いや~!エッチー!」
「御免なさい!」
後輩君が慌てて出ていった。そしてすぐに戻ってきた。
「先輩ふざけないでください」
「テヘッ」
「て言うか、エッチ!とか、テヘッとか古いですよ。今時の子はそんな反応しませんって」
「何、お前詳しいの、そんなシチュエーションを実体験してんの、誰か~、ここに犯罪者がいますよ~」
「▫▫▫▫」
「ごめんね」
可愛くいってみた。後輩君は頬を赤らめた。
「まぁ、いいですけど。んん、それより先輩。例の件ですけど。昨日担当看護師の班に聞いたのですが、虐めみたいです。原因はわかりませんが」
「そうかぁ、どういった類いの虐めだったのか分からないと対策がたてられないなぁ。日記とか手掛かりになりそうなものが無いか調べてくれないか。きっと両親はその件に関してこの子に話そうとはしないだろうからさ」
「そうですね、大概は転校させたりと傷口に触れないようにする事が多いですしね」
「そうだよなぁ、実は俺さ小中高と虐めにあってたんだ。程度の大小はあるけど。だから、大学以前の友人が一人もいないんだよね」
「嘘でしょ、ローテーションできた研修医達からはかなり評判良いですよ。面白いし、教え方も上手だって」
「事実だよ。大学に入る前は、ずっと事情を知ってる先生達が目の届くようにって、席は教壇前だったし、休み時間も職員室にいた。ほとんど同級生とは話さなかったし。まっ、ずっと成績が学年トップだったから先生達が可愛がってくれたんだろうけどね。でも、逃げだよな。だから、大学入学式の日に、成りたい自分を創って演じようって決めたんだ。そしたら、いつの間にかそれが自然になって考え方、感じ方も変わって今の自分の出来上がり~。てね」
「▫▫▫▫」
「おい!何涙ぐんでんだよ」
「いえ。分かりました。そんな先輩だから、この子のために最善の選択が出来るように準備したいんですね。行ってきます」
自分の時代とは虐めの質が違うのだろうか、自分の時代はSNSなんて無かったし、携帯電話すら無かった。やはり手掛かりは欲しいところだ。虎穴に入らずんば虎児を得ず なのか。
考えても分からないものは分からない。
「取り敢えずこの体に慣れておくか」
噂好きの看護師。大好物のネタが2つもあるこの子はきっと餌食になっているだろう。などと考えながらナースステーションに行くと、やはり視線が集まりざわつき始めた。
ここの病棟は比較的若い看護師が多いのでなおさらだった。
勤務歴は長かったので、他科病棟でも雰囲気や人物像をだいたいは把握していた。
「あれー、どうしたのー」
「あのー、身長と体重を量りたくて」
「じゃぁ、踵をつけてまっすぐ立ってねー。うんっ、155cm 。次はこっちね、やー羨ましい、41kg。はい、いいわよ」
「ありがとうございました」
「どうしたのー、きゅうにー」
「えっ、あっ、体を鍛えようと思って。あのー、散歩とかに出てもいいですか?」
「あー、ごめんねー、誰かと一緒じゃないとダメかなー。」
小児病棟なので、迷子や逃亡、誘拐そして自殺予防など危機管理が厳しくなっている。やはり子供単独では無理であった。
「じゃぁ、看護婦さん達の休憩室来る?私も今から休憩だから」
「えっ、あー」
「まーまー、おいでよ」
少し強引につれていかれた。
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