第3話 矛先は決まった

「先生、うちの子大丈夫何ですか」

やはり母親が第一声を上げた。

「あ~、体の方は大丈夫です。しかし、本人の記憶が、今までの記憶が全く無いようなのです。様々な方面から質問してみましたが、本当のようです。」

「えっ。じゃぁ....私達の事も分からない?ということですか」

「そのようです。先程も、本人から御家族の説明を求められました」

予想通りといえばその通りの反応。誰もが言葉を失いただベットに座る少年を見つめる。

見た目は男の娘?思考はおっさん。第一声をどうすべきか考えていた。

....明るく? 沈んだ感じ? 平静?

....自殺未遂だよなぁ。でも、記憶はない。んー

....この子の以前の性格も分からんし

....あぁーわからん!よし、視点を変えよう。

.....今俺が分かること。この子のは可愛い。いわゆる男の娘だ。

  自分の近くにいたら絶対に俺なら守りたくなる。

  じゃぁ、俺視点で守りたくなる反応にしよう。

  他の奴らの価値観何て知らん!はい、決めた!

「あ、あのぅ。僕が皆さんにとても迷惑をかけたということで....。ごめんなさい。先生達もありがとうございます」

....少し下を向き上目遣い。反省してるけど、緊張して顔を直視で

 きない。どうよ! 俺なら一発で落ちるね。

母親が顔を涙でぐちゃぐちゃにして抱きついてきた。

....あれっ、何か胸が痛苦しい。本当に申し訳無い気分に。

 涙も溢れ出てきた。 貰い泣き?それともこの子の記憶がか?


しばらく皆涙ぐんでいた。

....何十年ぶりだろう、こんなに大泣きしたのは。


やっと矛先が決まった。

「あのぉ、お母さん? お父さん? お姉ちゃん? でした よね? 思い出せなくてごめんなさい。でも、なんとか頑張っていくから宜しくお願いします。あと、ちょっと先生と二人っきりで話したい事があるので、いいですか」

「お母さん方宜しいですか。本人も気持ちの整理をすぐにとは厳しいとは思いますので、今日は休ませてあげましょう」

後輩君の言葉に従い、皆帰宅した。

「先輩、名演技でしたね。僕も貰い泣きしちゃいましたよ。」

「いや、自分でもよく分からなかったけれど、本気だったよ。あの感情は本物だと思う。記憶が残っているのか、眠っているのかどちらにしても、もしかしたら突然俺が消えることがあるかもしれないとも思ったよ。なら、この子が生きやすい環境を俺が創ってやろうとも思った。あぁ、これが親心ってやつなのかな。死んでからじゃ遅かったけどね」

「先輩」

「お前、何でまた泣いてんのよ」

「いえ、今だから言えますけど、ほんと、自分、先輩のこと兄のように思ってましたから」

「過去形かよ!」

照れ臭かったし、良い言葉がみつからなかった。

少し咳払いをし、いつもの雰囲気を取り戻すべく会話を再開した。

「んっ、早速だが君に頼みがある。この子の自殺の動機を探って欲しい」

「分かりました。業務上厳しいところもありますが、今回は記憶喪失と言うことになっていますので、心のカウンセリングをと言うことにして探りをいれてみます」

「宜しく頼むよ。じゃぁ、体もまだ本調子ではないはずなのでやすむ事にするよ」

後輩君も業務に戻り、眠ることにした。









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