第2話 ここは異世界ではないのですね

自分と思われる顔をあらゆる角度から眺めるのに夢中でいると

「僕は医者です。有り得ないとは思ってはいるのですが、とても変な質問をします。僕の住所は言えますか?」

あまりにも可愛らしい中性的な顔立ちに見惚れていた。

「これって男?女?」

「いやいや、聞いてました?」

「僕の住所は言えますか?」

ふと我に返り、答えた。

驚いた様子でさらに質問してきた

「今年の忘年会で僕が当てた景品は?」

「だから、さっき言ったクッションじゃん」

困惑しているのか、次々に質問を重ねてきた。

全て即答。正解するのは当たり前。

「せ、先輩...ですか?」

「何を言ってる。当たり前だろが」

「先輩?」

「そう」

しばらく沈黙。

「で、でも。中学生ですよ。せんぱい」

「あっ....男?女?」

「いやっ!そこじゃないでしょ!」

そうか、自分で確かめられるじゃん。

「あるし」

「だから、まずは現状をですね」

なんか、冷静になってきた。て言うか、楽しくなってきた。

「ここは異世界ですか?転生?あっでも召喚はないか」

「あぁーめんどくさい。先輩、気をたしかに。異世界じゃないですよ。現実です。夢でもないです。実際にもう先輩の葬儀は終わってますし」

「え、俺死んでるの?」

「落ち着いて聞いて下さい。整理しますよ。先輩は事故で死にました。当直明けに、新棟の鍵を渡したのに、旧棟に行ってしまったのです。耐用年数で取り壊す予定だった。不幸にも地震で床が抜け落ち、後は分かりますよね」

「んー、そっかぁ。そういえば新棟の当直室はうるさいから、誰も来ない旧棟に行った記憶が。まっ、苦しんだ記憶は無いみたいだから良かったよ」

「えー。良いんですかぁ。先輩らしい反応って言えばそうだけど」

「あっ!あれどうなった!ほらあれ。お決まりじゃん」

「本っ当~に先輩ですねぇ。はぁ~、お宝でしょ。あれは御両親に開かれる前に、僕のですって事にして持って帰りましたよ。それよりも、もっと心配する事あるでしょ」

「まぁね、でも生きてるからさ、評判のが気になっちゃうじゃん」

ちょっと可愛らしく言ってみた。

後輩君の耳が赤くなった。

「そんな...可愛らしく言っても、可愛いけど....今は。でも以前の先輩を知ってるからなんか複雑です」

「てかさ、何でおまえさ、この状況をすんなり受け入れてんの?凄いね」

「先輩だって...」

「いや、俺はさ、自分の姿を見ようとしないと見えないから。でも、お前からはこの愛らしい~姿が常に見えてるでしょ」

ノックする音が聞こえた

「先生、入っても宜しいですか?御家族が心配されてるのですが」

「あ~、ごめん。もう少しだけ」

気付けば結構時間が経っていた。心配するのも当たり前だろう。

「先輩!どうしましょう。何て言ったらいいか....分かりません」

「確かにどうしましょう。だよな。ふざけるのは止めにして策をたてないとな。ところで、さっきの人達の説明をお願いしたい」

説明によると、父親、母親、姉ははっきりしているとの事であったが、手を握っていた少女については分からないとのことであった。

「分かった。とりあえず記憶喪失と言うことにしよう。その方が俺もやりやすいしな」

「確かにそうかもしれませんね。ところで、この子の記憶は無いんですか?」

「まったくない。頭の中は以前のままだ。ところで自殺の動機は知ってるか?」

「いえ、そこまでは」

「そうか、あとはなんとかやってみるよ。何かあったら相談にのってくれよな。  ナデナデさせてあげるから」

「んぁ!またふざけて...よろしくお願いします」

後輩君は嬉しそうだった

心を決め、家族を入室させた。

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