当直明けに爆睡し、目覚めたら見知らぬ中学3年生になっていました。

亜熱

第1話 何故か病室にいました

 「んぁっあ~、もう7時かぁ。今日も変な患者に振り回されて一睡も出来なかったなぁー」

 「先輩、お疲れ様です。後は引継ぎますので仮眠室使って下さい。鍵はとっておきましたので」

 「おっ気が利くねぇ。じゃよろしく」

いつものように医局の仮眠室に向かった。普段はナチュラルハイ状態でなかなか寝付けないのだが、珍しくこの日は意識を失うかのようにベッドに吸い込まれていった。


....んっ....何か騒がしい?ぞ.....瞼が重い....なんとかあきそうだ

自分のまわりに40代前後の男女、高校生位の女の子、そして自分の手を握る少女? 皆、泣いている?

一斉に何やら話しかけてきている様子である。

「んぁっ」

上手く声が出せない。少し息苦しい。

気管内挿管されている。そして、デクスメデトミジン(α2作動性鎮静剤)が投与されているようだ。

少しすると、聞き慣れた声がする。

「目 空きますかぁ  深呼吸してぇ  手を握って」

目を開けると、後輩じゃねぇか!!

「口を開けて下さい  管を抜きますよ   はい深呼吸」

管は抜かれたが上手く発声出来ない。

回りの様子が徐々にみえてきた。後輩君が身体を診察している。

「バイタルも安定したし。んっ、大丈夫でしょう。では何かあったらコールして下さい」

後輩君が行ってしまった。

辺りを見回すと病室に居るようだ。壁紙などの特徴から小児病棟の個室だとわかった。

しばらくすると体は重いながらも動き、発声も出来そうであった。

「あのぉ.....自分はどうしたのでしょうか?」

「何であんな馬鹿な事をしたのよ」

涙ぐんではいるが、複雑な表情でおばさんが答えたのを皮切りに次々と話し掛けてきた。

「ちょっ、ちょっと待って下さい。誰ですか皆さん」

静寂に包まれた。そしてすぐに先程のおばさんが憤激し大声になった。

「お前はまだ。そんなことを言うか! 自分が何をしたかも分からないの! お母さんだって....」

回りの人達は皆混乱しているようで訳が分からない。とりあえず、後輩君を呼んで説明してもらおうと枕元にあったナースコールのボタンを押した。少しすると後輩君がやって来た。

「どうしました?」

「先生!この子が不貞腐れてるのか変なことを言ってるんですよ」

「そうですかぁ。診察するので皆さんすこし部屋の外で御待ちください」

傍らにナース1人を残し皆出ていった。

「ちょっと眩しいよぉ」

ペンライトをこちらに向けてきた。

「おい!ふざけるにしても大掛かり過ぎじゃないか。いくら何でも挿管までしてさ。それともなんだぁ、本当に俺に何かあったとでも言うのかよ。あぁっ!」

「自分の名前分かりますかぁ」

いつもこいつは涼しい顔して救急外来をしている。どんな酷い患者が来ても。

少し冷静になり、この流れにのることにした。

嫌みを込めて自分の名前だけではなく、所属科そして次に聴くであろう現在地、電話番号そしてとどめに郵便番号も付けて住所を早口で言ってやった。

キョトンとしている。俺が本気で怒っているのが分かったのだろう。涼しい顔が崩れている。この表情は本気で困った時のだ。

少し待つも、何も聞き返してこないので、仕返しも兼ねて後輩君の恥ずかしい過去を看護師さんに聞かせてやることにした。

「あぁーそうだ。お前研修医2年目の時なのにさ、急外で左下腹部痛なのに虫垂炎だ!白血球とCRPもすごい!緊急OPEだぁ!って騒いで、俺に相談なく麻酔科とOPE室に連絡して麻酔科から、本当に左かって何度も確認されても言いはって、虫垂は右だよ!って怒鳴られたよな。結局糞詰りだったし」

ナースは少し笑って後輩君を見たが、まだ黙りをきめている。

なんだかのってきたので

「あとさぁ、お前ここではクール気取ってるけど家ではすみっ○ぐらしのとかげ巨大クッションを抱っこしながら美少女系アニメ三昧だよな。...俺も一緒に観ることあるけどさ」

驚いた様子でナースは後輩君を見つめている。

「ちょっと待って。何で君が」

普段の彼に戻った

「何を言う。長い付き合いだろが」

「ちょーっと、出ててくれる」

「えっっ。先生何でです」

「大丈夫だから。とにかく、確認したいことがあるから、お願いだから、何かあったら呼ぶから」

しぶしぶ出ていくナース。廊下が少し騒がしい。

「じゃあ、説明してもらおうか」

「君は自殺を謀って運ばれてきました。一命を取り留めてここにいます」

「だから、ふざけんな」

「もう一度、真面目に聴きます。真剣です。あなたは誰ですか」

本気だ、こいつはふざけてない。表情で分かる。

「だから...お前と大学時代の部活からの先輩 でしょ... ちょ ちょっと待って。お前本気で言ってるんだよな。本気の時の顔だし」

もう一度、名前と住所を言った。今度は真面目にゆっくりと。

後輩君は黙ってスマホをよこした。

知らない顔がある。動かした方向に動いて見える。

「この子....誰....」

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