途中でお母さんは色んな意味で体力がないので置いてきぼりにして、ボクとフォーカスは一直線にシーフ様の元に向かっていた。

 ボクを見ながらフォーカスが聞いてきた。


「ねぇ、まだお父様は死なないよね?」

「分からないよ! だけどボクがやれるだけ治療してみるよ」


 宣言すると、シーフ様が倒れている場所に着いた。


 エルフたちがシーフ様を運ぼうとしているらしい。

 だが、魔力探知を使ってみると、魔族が関与していることが解った。


 魔力探知には二つの使い道がある。

 一つ目、人の魔力を探知するもの。

 二つ目は、人の魔力の流れで魔法が関与している場合、何処が悪いのか判明できることだ。


 効率が悪いと思ったのでボクは殺気を放ちながら叫んだ。


「何をやっているんだ?」

「見てわからないか? 運ぼうとしているんだよ!」


 ボクは身体強化でエルフたちからシーフ様を奪ってその場に寝かした。


「おい! 何をする?」

「ここで治療しないと、死ぬんだよ! 黙って見て!」


 急いでボクは回復魔法を施そうと思った。

 だが、呼吸も心臓も今にも止まりそうな状態であるので、ボクは叫びながら魔力元の心臓に魔法でショックを与えてみた。


「フォーカス! 呼吸ができていないからシーフ様の口にお前の口から魔力を入れてくれ!」

「え!? でも!」


 ボクが放った魔法でも魔力元の心臓は動かなかった。

 これは、口から魔力を流すしかないな。


 これは未来ではよくボクが直した病気でもあったので、すぐに分かった。

 疫病とよく間違えられていたのを思い出しながら、処置の方法を思い出した。


 原因は、魔族が飼っているエーゴという生物が、体の魔力を吸い尽くすことで起きるものであった。


「早くやれ! 原因は多分、体に入っているエーゴだ! それに、未来でケンゴさんに教わっただろう?」


 ケンゴというのは、ボクの仲間の一人で魔族の研究員でもあった。

 あまりケンゴは戦闘向きではなかったので、細かくはあまり思い出せないがエーゴのことだけを語っていた。


 フォーカスがやっと状況が理解したのか、やっとシーフ様の口に魔力を流し始めた。

 その時、お母さんが息切れしながらその場に着いた。


「な……、なんで、こんな……目に遭わないといけないのよ!」


 など言っていたが、無視してボクは指示を出した。


「お母さん! 着いて早々に悪いんだけど、ボクかフォーカスとどちらかと代わってくれる?」

「え、ヤダよ。何を勝手に……」


 ボクは殺気を放ちながらお母さんを見る。

 ビクッと体を震わせお母さんはヤケクソになりながら言った。


「分かった、分かったわよ! どっちと代われればいいのよ?」

「ボクの方は大丈夫だから、フォーカスの方に! お母さんの口からシーフ様の口に魔力を流して! そうすれば、意識が戻るかもしれないの」


 お母さんは一瞬固まる。

 もう一度聞いてきた。


「ゴメン、もう一度言ってくれる?」

「だから! 口に魔力を集中させてシーフ様の口に流してって言ったの!」


 お母さんは抵抗があるのかためらっている。

 動かないと思ったボクはフォーカスに言った。


「フォーカス、代わってくれるか? ボクはもう魔力がないから欠乏が起きているの」


 しかし、フォーカスは聞いていないかのように返事がない。

 もう一度叫んだ。


「フォーカス!」

「なに?」

「場所を替われ!」


 このまま続けてもキリがないと思ったボクは、残り魔力全てを使って蘇生しようと考えた。


 引かれた顔で周りから見られている気がしたが、ボクはフォーカスとは反対側に座った。

 フォーカスが目を見開いている時、ボクは人目をはばからず全魔力を口に集めて一気に流した。


 ボクは、段々息切れしながら魔力欠乏でその場に倒れた。


「ちょっ! だ、大丈夫、アレオ?」


 心配されたそうなフォーカスの声が聞こえてきた。

 すると、魔力が消えそうなので死にそうになってボクは再び悟った。


 ああ、まだ世界を救えていないのにな。

 こんなことで死ぬのか。

 世界を救いたかったな。


 後悔でいっぱいである瞬間、何か温かい物にボクの両手は握られた。

 突然、そこから魔力が流れてきてボクは息を吹き返した。


「ハッ! な、なんだ、今の?」


 ボクは混乱しながら周りを見てみる。

 片方はシーフ様、もう片方はフォーカスが握っていた。


 状況が理解できなくてボクはしばらく目を疑った。

 なにせ、人から人への魔力の受け渡しはできないから。


「え~と、これはどういうこと、ですか?」

「黙っててくれる? じゃないと、怒るよ。アンタはそこまで命を張る必要もないんだからさ。本っ当にバカ!」


 フォーカスが頬を少し赤らめながら横を向く。


 どうして顔を合わせてくれないんだ?

 それに、熱もあるみたいだしな。

 そういえば、前もこんなことがあったけど、何か邪魔が入った気がした……よな?


 昔の出来事を思い出していると、ボクは起き上がる。

 色々、聞こうとしていたら目の前にいたお母さんが耳打ちしてきた。


「ねぇ、アレオ? 今、動ける? ちょっと、後でフォーカスさんのことで話したいことがあるのだけど……」

「え? 今だとダメ……なの?」


 するとフォーカスがお母さんを連れていってしまう。

 すぐに終わったが、何やら話しているみたいだ。

 頭がくらくらして分からないが、シーフ様がこっそりボクに耳打ちした。


「少年、フォーカスは渡す気はないからな」

「……? あの……」


 シーフ様にも無視されてしまった。

 結局、よく分からないままボクはお母さんにおんぶさせられ向かってシーフ様の城に着いた。

 その道中、シーフ様には殺気のこもった目で見られたり、フォーカスには熱い目線で見られた。

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