「おいおい、頼むから嘘だって言ってくれよ」


 ボクはエルフや魔族の視線の的になっていた。

 刹那、お母さんが上から降ってきた。


「アレオ、退いて!」


 お母さんが下に氷の滑り台を現す。

 滑り台の上には、大きな水でクッションみたいなのも出して、落ちてくる勢いを消した。


 今すぐお母さんを連れてこの場から逃げたい。

 どうしたら逃げられる?


 ボクが考えを巡らせていると、魔族が逃げる反応を見せた。


「待て!」


 追いかけようとしたが、エルフたちがボクの目の前に塞がった。


 エルフたちは狩人みたいな動きやすそうな服装。

 緑を基調にしているので、広い場所でないと草や木と間違えてしまうだろう。

 腰には矢筒(やづつ)があり、背中には短い槍がある。


 リーダーみたいに胸に勲章を付けている男が、ボクに向けて訊いてきた。


「どうして貴様みたいな人間たちが魔法を使える? 答えろ!」


 ボクが答えられずにいると、お母さんが答えた。


「私は神族のミクサ・ファンスタです。訳合ってここに来ました」

「では……このガキも?」


 お母さんと同じようにその問いに答えようとしたら、聞いたことのある甲高い声が聞こえてきた。


「コイツは魔族の手先かもしれないからアイツと一緒の独房に入れてくれない?」


 声のする方向を向くと、未来の世界でボクの仲間になったエルフの一人がいた。


 そのエルフは、緑のアットゥシのような服装で脚まで隠れているが、下は緑のショートパンツ。

 ただ、脚はツタが絡んでいてどうなっているか分からない。


 勲章をつけているエルフがボクの仲間だったエルフに問いかける。


「どうしてですか、フォーカス様?」

「簡単な話よ。そいつは魔族と隠密行動をしているのを見たからよ。仲間はそいつを見捨てたみたいだけどね」

「もし仮に囮だったらあまり情報を知らないのでは……?」


 一瞬、間が空きフォーカスが付け加えた。


「基地の居場所や人数くらいは知っているでしょう。だから、村に帰ったら拷問するわよ。異論はある?」


 エルフたちはフォーカスに敬礼をする。

 ボクはフォーカスを追いかけようとしたが、即座に周りにエルフたちに囲まれる。

 エルフたちの背中にある槍でボクの首に突き付けてきた。


「フォーカス様! あの神族はどうしますか?」

「客人として迎なさい。何か事情があるでしょうから丁重に扱いさない」


 お母さんに助けを求めようとしたが、ボクは動いたら殺されると思い動けないでいた。

 なので、ボクは聴力強化の魔法を使って周りの状況を把握しようとした。


 風魔法でボクはエルフが担がれる。

 しかも、手や脚には鎖で繫がれてしまった。


 お父さんが何処にいるのか、お母さんがどんな会話をしているのか、フォーカスがどんな会話をしているのかを聞こうとした。

 だがその時、フォーカスが後ろにいることに気付かなかった。


「あ、そうそう、あなたには眠っていてもらうわ」


 そのような言葉が聞こえたと思ったら、ボクは意識を失ってしまう。


                  □■□


 光が差し込んできたのでボクは目を覚ます。

 背伸びをしながらお母さんを探そうとしたが、誰もいなかった。


 目を擦りながら起き上がると、そこは何も見えない場所にいた。

 悪臭がしたので、鼻を塞ぎ周りを見渡した。

 やはり、何もないので溜め息をついた。


 もしかしてまた死んだのかな?

 だけど何でボクを照らしている光が徐々に弱まっているんだ?


 疑問で頭がいっぱいになっていると、突然だれかの笑い声が聞こえ始めた。


「誰だ!」


 ボクが叫ぶと聞こえなくなったが、耳の中では何度も声が反響している。

 耳を意識しないようにしながら、散策しようと立ち上がろうとした。


 その途端、下には何もないはずなのに動き出しバランスを崩す。


「痛っ!」


 いつの間にか、光が差し込まないところまで落ちた。

 辺りは何も見えず叫ぼうとしたその瞬間、暗くて顔が見えない人間の手がボクの手と脚や首を掴んできた。

 更に下に押し込まされそうになったボクは、抜け出そうと足掻いた。


 イヤだ、イヤだよ、どうしてボクはこんな目に遭うんだよ。

 世界を救おうとしているのに、どうして……?


 このままだと死ぬと思ったボクは更に激しく体を動かした。

 刹那、大きな光がボクたちを照らした。


「! 眩しいっ」


 手で眼を覆いながら光が弱くなるのを待った。

 光が弱まることはなく、徐々に慣れてきたので手を退けると、そこにはボクの仲間になる人たちがいた。


「え!? 一体、どういうことだ?」


 動かなくなった死体を見てボクは絶望した。


 これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ。


 思い込もうとしてもボクは落ち着かなかった。

 その時、聞いたことのある甲高い声が聞こえてきた。


「アレオ、もう時間がないわ。早く本当の仲間を見つけて世界を救いなさい」


 ボクがその声に話しかけようとしたら、怒りで我を忘れている叫び声が聞こえてきた。


「真の神を復活させるために身を捧げているのに、どうしてわたしの邪魔をする!」


 叫び声には闇の力が含まれている所為か、力に呑まれそうになったボクは自我を保つのに必死だった。


 だが、光が再びボクを照らし一瞬で見えている景色は変わり薄暗い場所の中に居た。


「ハッ!」


 ボクはたまらず飛び起きた。

 服を見てみると、汗で濡れている。


「うわぁ。気持ち悪~」


 脱いで絞ると水滴が落ちる。

 だが、一瞬で体が冷えている所為もあるのか肌寒く感じた。

 すぐに着なおすも、それでも寒かった。


「坊主、これを羽織りなさい」


 横にいる誰かが厚手の布を渡してくれた。

 人の温かさに感謝を言葉にしてすぐにそれを羽織る。

 布が温かくて慕っていると、ここでボクは現実に戻る。

 ここはどこだと思いながら辺りを見渡した。


 集団の独房の中のように思える。

 二段に積んでいるベッドが二つあって、トイレや最低限の生活はできるような物は揃っている。


 あの野郎、本当にボクをここに入れたのか。

 だけど、これからどうしよう。

 お父さんの顔を知っているのは、お母さんだけなんだよな。


 その時、布をくれたオジサンが問いかけてくる。


「なぁ、坊主。どうしてお前はここにいる?」

「その前にここはどこなの?」

「何も知らずにここ連れてこられたのか?」


 ボクは頷くと、驚いた顔をしながらオジサンは続けて言明した。


「ここはエルフの村のハージだ。坊主には解らないと思うが、独房といって悪い人を拘束する場所にオレたちはいるんだ」

「え!? 嘘だろう?」


 パニックになってボクは牢に触ろうとする。

 だがその時――。


「止めろ、坊主!」


 何かに反応したのか、大きな音が鳴り始めた。

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