2章

 ボクとお母さんは熱帯雨林のように熱い中を歩いていた。

 生い茂る草や木々の中、目印になるものはなく方向や時間帯も解らない。


 我慢の限界が来たらしく足を止めたお母さんが叫んだ。


「ねぇ、アレオ! この状況、どうにかならないの? 喉も乾いたしお腹も空いた」


 溜め息をつきながらボクはお母さんに向かって、自分の最後の食料と水を渡す。

 お母さんは、すぐにそれらを口に含んで一気になくしてしまう。


 やっぱり、こうなるじゃん。

 だけど、これからどうしたらいいかな?

 前はエルフの仲間がいたから苦労もなく来られたのにな。

 ボクもあまり覚えていないからな。


 お母さんが手を差し出してきた。


「アレオ。ある分だけ頂戴!」

「お母さんが街を出てからヘマするからこうなったんだから我慢して!」


 そう、あれはボクたちが街から出てきたときのこと。


 魔法を使って難なく街からは出られた。

 だが、その後が大変だった。


 何せ、夜でも街の外では魔族の疑いをかけられた人たちが大勢いたのだ。

 その人たちが食料や水の取り合いが起きていた。

 その所為でボクたちもそれに巻き込まれ、大量に持っていた荷物は半分ほどになってしまった。


 それだけならまだよかったが、お母さんが残っていた大事な食料をどこかに落としてしまう事件も起きた。

 なので、ボクたちは三日程ほとんど食べていない。


 頬を膨らませながらお母さんは、その場に座り込み文句を言い出した。

 ボクはお母さんを引っ張ろうとしたが、子供の力ではどうにもならないのですぐに諦める。


「ねぇ、お母さん。ボクたちの目的覚えている?」


 ボクが頭を抱えながら聞いた。

 お母さんは即答した。


「家に帰ることでしょう? 違う?」

「違うでしょう? お父さんを探すこと」


 何が不服なのか、お母さんはプイッとする。

 溜め息混じりの声でボクは、色々と整理するために口に出した。


「お母さんが“ライジング”の力を持っているということは、お父さんも持っている可能性があるでしょう? それを確かめにお父さんが出張で出向いているエルフの村に行く? 違う?」


 ボクの説明が不満に思ったのか、お母さんはその場に寝ころんでわざとらしいいびきをかき始めた。

 ボクがお母さんをどうやって動かそうか考えている時――。


 肌に感じるほどの威圧感や魔力を感じた。

 魔力探知を使ってみると、エルフらしき魔力と魔族が戦っているのに気付く。


 エルフ――獣人という種族と違う森に住んでいる種族。

 一番の特徴は、耳が尖っていること。

 人間より力と技術はないが、罠や魔法でそれらを補っている。

 罠や魔法を日常的に使っているので、どの種族よりも魔法の動作が早いと言われている。


 ボクは魔族が出たことでお母さんを起こそうとした。


「お母さん! 魔族がエルフたちと戦っている! 早く戦いに加わろうよ!」

「そんなのどうでもいいよ、早く家に帰りたい! ああ、もう! どうして、あの人は肝心な時に何っ処かに行っているのよ?」


 怒鳴りながらお母さんは寝たまま暴れ始めた。


 その時、大きな怪鳥がボクに向かってきた。

 ボクは魔力探知を使っていたので、簡単に怪鳥の攻撃を避けることに成功する。

 だが、お母さんに咄嗟のことだったので言うのを忘れていた。

 お母さんがいる場所を見てみると、そこにはいなかった。


「お母さん!!」


 身体強化を使って急いでボクは鳥を追いかけ始めた。


 怪鳥は太陽の光に当たると、虹色の羽根が神々しい色を出している。

 光っていてあまりよく見えないが、複数いるようにも見えるような蜃気楼も出せる。

 その他のことはあまりよく解らない。


 未来の世界ではよく人間に悪さをして、退治していた怪鳥だったのでボクは覚えている。

 名前はレインボー・バード。


 この時期だと、ヒナが生まれてエサを探しているはずだ。

 魔力探知を使いっぱなしにしていると、あることが解った。

 それは、魔族がいる場所に向かっている。


 ヤバい、どうしよう。

 このままだと、お母さんもボクも……。


 不吉なことをボクが考えていると、魔法を使おうと思った。

 命には何物にも代えられない。


「フレイム・タワー」


 ボクは、レインボー・バードの羽根辺りに炎の柱を立てた。

 野生の勘が働いたのか、怪鳥に避けられる。

 そこでボクはあることを思い出す。

 あの怪鳥は魔力反応ができる。


 確か、灼熱魔法なら効いたよな?

 でもどうしよう、今のボクだと灼熱魔法を一日二回くらいしか使えない。

 使ったとしても、エルフや魔族に気付かれてしまう。

 それで三つ巴の戦いにしたくないな。


 お母さんを助けるためには使うしかないが、その後もことも考えないといけない。

 なので、ボクはやり直したいと願う。

 しかし、フーゴさんらしき人と出会った場所には戻らなかった。


「え!? どういうことだよ? どうしてあの場所には戻らないんだよ?」


 自問自答していると、ボクは仕方なく灼熱魔法を使った。


「ドラゴン・ブレス」


 一番強い灼熱魔法を放つと、怪鳥が驚いたように大きく仰け反りお母さんを落とした。


 今の魔法でボクの魔力が大分減ってしまった。

 すぐに魔力欠乏の症状が出てしまう。

 目がくらくらして立っているのがやっとの状態。


 その時目の前を見てみると、魔族とエルフの戦っている現場に着いていた。

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