1章
起
「僕、大丈夫かい?」
声とともにボクの肩に誰かの手が置かれた。
恐怖と反射的に手を払いのけて、ボクはどこかに走り去ろうとした。
しかし、ボクより大きな相手に跳ね返って尻もちをついてしまう。
「痛っ」
誰にぶつかったのか見てみると、そこにはボクより大きな人がいた。
え!?
どうしてボクより大きな人が目の前にいるの?
混乱して辺りを見渡す。
そこは人込みが盛んな街。
祭りでもいているかのように、暖簾が垂れている出店ばかり。
木材で出来ている家、石材で出来ている地面、水が流れている噴水の上の一部分。
ボクの周りには大勢の大きな人がいて、その中心にボクはいた。
「あれ? ここは……?」
昔、母親と買い物に行ったときの風景と一緒だった。
大きな人たちに心配されているが、アレオは頭がついかない。
ボクは手で自分の頭を抱えようとすると、手が小さくなったのか感触も小さいことに気付いた。
手を見てみると、先程までと違って手が子供のようになっている。
上着を見てみると、ボロボロの白いワンピースのような服装をしていた。
「え!? 一体、どういうこと?」
「僕、お母さんと離れちゃったのかな?」
ボクは首を傾げると、ボクのお母さんの声が聞こえてきた。
「アレオ~? どこ~?」
話している言葉は人類が主に使っているものだよな。
ということは、どういうことだ?
フーゴさんらしき人が言ったことは本当で過去に戻ったのか?
ボクの周りにいた人の一人がお母さんに叫んだ。
「こっちに来てくれますか? お子さんか分からないですが、迷子ならここにいますよ」
「あ、はい!」
ボクが半場無理矢理、人の輪に出されるとそこにはお母さんがいた。
亜麻色の髪を全体的に左に纏めている。
三十代とは思えないほど肌が綺麗で華やか。
足まで隠れる鮮やかな赤のジャンパースカートを穿いており、装飾がない純白の手袋やカフスをつけている。
ボクは母親の声を聞くと、懐かしくて涙が出てしまった。
アレオの反応を見ていた周りの人が聞いた。
「僕、もう迷子になるんじゃないよ」
誰かにボクの頭をクシャクシャにかき乱された。
無表情のお母さんを見てボクは彼女に抱きついた。
「お母さん!」
近付いたらお母さんはボクの頬をつねった。
懐かしい痛さが来ると、お母さんが姿勢を落として訊いてきた。
「どこに行っていたの? 私から離れるなってあれほどいったでしょう?」
「ごべんなさい。いつの間にか離れちゃっていたの」
お母さんは溜め息をついて抱き着いた。
「何にせよ、無事でよかったわ。さぁ、あなたのお洋服を買いましょうね♪」
「別にいいけど、あんまりボクを人形にしないでよ?」
お母さんは頷くと、ボクの手を強く握って歩き出した。
先程の言葉は自然に出たことに、やっと気付いたボク。
まるで本当に幼い頃に戻ったかのようであった。
なのに、過去で起きた出来事が全く思い出せない。
疑問を抱いてしばらく考えていると、突然お母さんの足が止まる。
彼女の視線の先を見てみると、オーダーメイドの服屋に着いた。
何故か、中に入った後に言われる言葉が自然に頭の中に入ってきた。
『君がアレオ君かな? ミクサさんが寂しがっていたよ。これからはあまり迷子にならないようにね』
ミクサこと、ボクのお母さんの様子を言ってくれた。
店の中に入ると、店員さんが座っていて何かの雑誌を見ている。
その矢先、アレオが思い出した通りに言った。
驚きながらアレオは、頭を働かせてトイレに行きたそうなフリをした。
「ボク、トイレに行きたい」
トイレに行くまでの間、店自体に防御魔法を貼った。
もしここが過去なら何かが起きると思って、勝手に体が動いていた。
何もなかったら店に出るときに消せばいいかなと思った。
トイレから出ると、ボクは服の採寸をさせられた。
昔から好きではないが、今になっては懐かしい気がした。
鏡の前に立たされ、ボクは現在の姿を確認する。
少し丸みを帯びた頬、ぱっちりしている目、少し薄い唇。
ワンピースのような長いシャツには土埃や油などで汚れている。
その瞬間、思い出せなかったが、一度ボクはあのフーゴと名乗った人に会っていることを思い出す。
会話を思い出そうとしても、パズルの一ピースがないように一部分しか思い出せなかった。
『君に二つの力を与えた。一つ目は時間を跳躍する力。二つ目は……』
本当に言っていたんだ。
だとしたら、もう一つの力は何なんだ?
その他にも何かを言っていた気がしたが、徐々に思い出すと言っていたので放っておくことにした。
時間を跳躍する力。
もし、ここが過去なら何か起きるのかな?
など考えている内に採寸が終わり、視線を移してみると人払いの結界が貼りなおされていたことに気付いた。
あれ、こんな結界を貼っていないよな?
振り返ってみても、貼った記憶がないがそのままにした。
他にお客さんが来たら面倒くさいと思ってしまったからだ。
アレオは頭を切り替えるため首を横に振った。
対策を考えるため、これから起きることを必死に思い出そうとした。
その時、お母さんが目に見えないはずの人払いの結界を消したのを見てしまった。
この時代では、魔法は人間にとって未知の存在であり使える代物ではなかった。
非現実的なことを目の当たりにしてボクは頭を抱えた。
現在の人間にとっての存在を思い出して、ボクはお赤さんの元に行った。
「ねぇ、お母さん」
「うん? なに、アレオ?」
結界が消されていることに追及しようとした瞬間――。
外で鶏の鳴き声が聞こえてきた。
無視してボクは話を進めようとした矢先、上空から大きな魔力反応を感じた。
この魔力はもしかして魔族?
どうしてピンポイントでここを狙っているんだよ?
防御結界が消されている今、攻撃されたら悲劇が起きてしまう。
ボクはお母さんの手を引っ張って外に出ようとした。
だが、時すでに遅しで手遅れだった。
出たときに魔族が魔法攻撃をしてきた。
直に魔法を喰らってしまい、ボクは死んでしまった。
目を開けてみると、フーゴさんらしき人と話した場所に戻っていた。
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