ネクスト・ファンタジー~世界を救うのは誰だ?~

留野洸希

プロローグ

プロローグ

 お父さん、お母さん、仇は取ったよ。


 ボクは、刺した相手を封印することができる剣を手に、魔族の長であるルークに止めを刺そうとした。

 だが、後ろからボクと持っている同じ剣で自分の胸を刺された。


「え……?」

「ゴメンね、アレオ。私たちの神を蘇らせるために死んでね」


 アレオことボクは仲間の言葉を聞いて、ボクは気を失った。


 仲間に刺され死んだ。

 イヤだ、イヤだよ。

 ねぇ、これは夢だよね?

 いつものように目を開ければ、戻っているんだよね?


 最後に、死という概念から逃げたくて生きたいと無意識に心の中で願った。


 すると、何もない空間の中で意識だけが戻った。

 目が覚めたら、首の下から自由が利かない状態で仲間たちの姿が見えなかった。

 無意識にボクは何を言っているのか分からないが叫んでいた。


 刹那――。


「アレオ。死んで早々に申し訳ないが、もう一度過去に戻ってくれるかい?」


 聞いたことのある声。

 だけど、ボクにはその声は届かなかった。


 しばらくしてボクは声にやっと気付いた。


「お~い、アレオ! 聞いているかい?」

「うるさい!」


 感情が抑えきれず叫んでいると、後ろに人の気配がして殺気を向けながら振り向いた。

 自由に動けていたら、誰であろうが殴っていただろう。

 だが、その思考は一瞬で吹き飛んだ。

 何せ、背中に羽根があって飛んでいる一人の中年男性がいたからだ。


「え!? 神様?」


 驚きながらボクは思考が止まる。

 すぐに悟った。


 ああ、ボクは死んだのか。

 もうこれで楽になるな。


 神らしき者は純白のトーガらしきものを着ていて、頭には純白のシルクハットと手にはステッキを持っている紳士のよう。

 左の腰には大きな両手剣が入れてある鞘、背中には全身を覆うほど大きな盾がある。


 ボクは面影をどこかで見たことがあった。

 動こうとしても動けないでいると、神らしき者が問いかけてきた。


「やぁ、アレオ。落ち着いたかい? それより、もう一度君に頼みたい。多分これが最後だろう。過去に戻って世界を救ってくれないかい?」


 色々と疑問が頭に浮かびボクは首を傾げた。


 ボクが落ち着いて質問の意味を考えていると、神らしき者は指を鳴らした。

 瞬間、体の自由が利くようになり景色が見えるようになった。


 青空のような群青、その色が遥か彼方まで永遠に続いていた。

 群青の中には、青空の中にある雲と同じようないびつな形をしている白色も交じっている。

 その空間に二人は浮いていた。


 神らしき者は、動揺しているボクを見たのにも関わらず急かしてきた。


「アレオ、時間がないからさっきの質問に答えてくれるかい?」

「……神様、先程の言葉はどういう意味ですか?」


 少し間を開けてから彼はボクをじっと見つめた。

 神らしき者は、少し眉間にシワを寄せてイラついたような声を出した。


「アレオ。時間がないからさっさと質問に答えてくれないか? さっきも言ったが時間がもうないんだ」

「いや、その前にボクはあなたと会ったことありましたっけ? 英雄のフーゴさんと似た格好をしていますけど……」


 神らしき者がバカみたく口をしばらく開けていると、真面目な目で問いかけられた。


「本当に言っているのか?」

「……はい。だからあなたが何を言っているのか全くボクには解らないのです」


 すると、神らしき者が独り言をブツブツ言っていた。

 時間がないと言っていたのを思い出し、ボクも急かしてみた。


「神様、説明をしてくれませんか? 時間がないと言っていましたよ……ね?」

「あ、すまない。とりあえず、時間がないので。私は神ではない、正真正銘のフーゴだ。訳があって君を導く仕事をしている」


 ボクは英雄フーゴのことを思い出していた。


 遥昔、人間、亜人族、精霊族、魔族が存在した。

 その四種族が戦争をしていたが、それを止めたのがフーゴとその一行と言われている。

 だけど、邪神の信者であることが発覚し悲惨な最期を迎えてしまう。


 現在、フーゴさんは死んでいるのでボクは溜め息混じりの声で問いかけた。


「本当に英雄のフーゴさんなのですか? だったら証拠はありますか?」

「はぁ、証拠か……。ないな。もう時間がないのにどうしたもんかな」


 その後も、フーゴさんらしき人は俯いて何かをブツブツ言っていた。


 あの仲間たちのことは忘れよう。

 もう成仏したいな。


 フーゴらしき人が近付いてきていたことにボクが気付いた。

 すると、デコピンをされた。


「痛っ!」


 ボクが額を抑えていると、フーゴらしき人が言明した。


「どうやら君にも敵が接触したようだね。その影響で記憶が混乱しているようだ。徐々に思い出すようにしたから過去に戻ってくれる?」

「敵って誰ですか? 第一に、どうしてボクなのですか? 他の誰かに頼めば……?」

「君じゃないとダメだ!」


 フーゴさんらしき人の叫び声に驚いたボクは体を震わせた。

 あまりの迫力に声が出なかった。


 フーゴさんらしき人は座ったと思ったら、土下座をして頼んだ。


「まだ世界が変わっていない内に私が信仰している神が残した力を持っている君が、その他の力を持っている仲間を集めてくれ。そうすれば、世界は救われるんだ。お願いだ!」


 その言葉にボクは動揺して一瞬固まる。

 しばらく固まっていたが、冷静に色々と考えてみた。

 そのおかげでボクは踏みとどまる。


 ボクは死んだ。

 だから、ボクの役割は終わっているのではと思ってしまった。


 なので、ボクは強く首を振った。


「もうボクの役目は終えたのでしょう? ここにいる……」

「違う! まだ君の役目は終わっていない!」

「だったら! どうしてボクはここにいるのですか?」


 フーゴらしき人も大きく首を振って、ボクの肩を掴んできた。

 ボクは彼の手を退かせようとしたら、フーゴらしき人が何かに気付いたかのように辺りを見渡す。

 何かに亀裂が入った音をボクが聞くと、フーゴらしき人はそのまま頼んできた。


「ハッ、不味い、アイツが来る! お願いだ、もう一度過去を選んでくれ!」

「だったら、ボクの質問に答えてください」

「さっきも言ったが、君には君の役割がある。それが終わっていない。ただそれだけだ。直に思い出すだろう。だから早く決断してくれ!」


 意味が解らずボクは考える。

 フーゴさんらしき人が何かに怯えているのか分からないので、それも訊こうとした。

 その時、辺り一面に亀裂が入り黒いシミのような液体が流れ込んできた。


 ボクとフーゴさんらしき人が分断される。


 ああ、これでボクは成仏できるのか。

 やっと解放される、だけどなんでだろう。

 フーゴさんらしき人の言っていることは前に誰かに聞いたことあるな。


 その瞬間、夢のときによく声が聞こえてきた。


「アレオ、わたしからもお願いします。どうかフーゴの言う通りにしてください」

「過去に戻ったってもうボクにはもう信頼できる人は死ぬ運命にあるのでしょう? どうしろっていうんですか?」

「そのことなら安心しなさい。わたしの最後の力で本当の仲間ができるまでループできるようにしました」


 そんな馬鹿げたことができるはずがない。

 でも、それは嘘だとは思えない。


 そんな時、フーゴさんらしき人の声が聞こえてきた。


「アレオ、お願いだ! 君にしか頼めないんだ!」

「イヤです! もうボクは頑張ったんです! これ以上、何もしたくありません」

「君には大切な人がいないのか? その人たちと一緒にまた過ごしたくないのかい?」


 ボクは大切な人という単語を聞いて、その人たちのことを思い出す。

 助けられなかった人、自分のことを助けて死んだ人など。

 誰もボクにとっては大切な人、再び会いたいと思って叫んだ。


「そりゃいますよ。ですけど、未来は変えられないでしょう!」

「変えられるとしたらどうする?」

「え!?」


 その言葉にアレオは考え直す。

 でも、時間が巻き戻らない限り救えないと思って叫びなおす。


「そんなわけ……!」

「変えられる! 君に与えたのは力の一つで時間を跳躍する時間を与えたんだから、急いで過去に戻りたいと思ってくれ! それで新しい未来を作ってくれ!」


 だが、もし思うだけで戻れるならやってみよう。

 そう思うと、途端に景色が一気に変わり始める。

 まるで、ビデオが逆再生されているかのように時間が巻き戻されている。

 夜が来たと思ったら朝になる、その繰り返しを死ぬ間際にいた場所でループした。


 時間の感覚がなくなっていく刹那――。


「これで邪魔な邪神と英雄は消えた。後はアレオ。貴様だけだ!」


 その発言だけではなく、ボクは身の危険を感じて身をしゃがめて耳を塞いだ。


 フーゴと邪神?


 夢と同じく邪悪の力の片鱗に押し負けそうになったので、これ以上は何も考えられなかった。

 重圧に潰されながらもボクは身を任せた。


 力が遠ざかる、ボクの意識が次第に薄くなっていった。

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