第2話

「おわああぁぁぁああ!?」


落ちる。ただただ落ちていく。

さっき転生させてもらったばかりの俺は今、絶賛落下中だった。

転生って俺の間違った知識がなければ異世界で生まれ変わることを一般的に意味するんだよね?なんで落ちてんの?コウノトリは?

頭の片隅で現実逃避をしながら、空中で何か掴むものがないか必死にもがく。

だが、周りには雲しかない、掴むのは不可能だった。


助かろうとひたすら思考を巡らせているうちに雲の中を抜け、視界が開けた。

まず目についたのが広大な森林。その次に曲がりくねった川。

その中でも一番興味を引いたのが、大きな城とその城下町だった。

本当に異世界に来たんだなぁ。

って景色に目を奪われている場合じぁない!

今も刻一刻と死が近づいてきている。

もう一度滅茶苦茶に宙をかいてみるが意味なし。

そうだ川だ!水なら多少の衝撃を吸収してくれるはず!

一縷の望みにかけて平泳ぎで少しでも川との距離を縮めようとするがこれもダメ。

もう地面が直前まで迫っていた。


「ひぬっ!ひぬっ!?いやだあああ!」


情けない声を出しながら助かろうとない知恵を振り絞っていたそのとき、みるみる落下がゆっくりになっていく。

その現象は地面スレスレの十数センチの高さで止まって滞空状態にはいった。


「ひょっとしてこれがまほ…うべぇ!?」


俺が勝手な考察を立てている間に滞空時間も終わり草の生えている地面に全身で突っ込んでしまった。少し土が口の中に入った。

うえぇ、じゃりじゃりする。

全身についた汚れを落としながらながら辺りを見渡してみる。

俺は森のど真ん中に着地したらしく周りを木で囲まれている。耳を澄ませば小鳥のさえずりが聞こえた。


「本当に来ちゃったんだなぁ、異世界」


息を深く吸って空気を肺いっぱいに取り込み、全て吐き出す。場所が森だからか空気が妙にうまかった。


「よしっ」


両頬を両手で叩き異世界生活の第一歩を踏み出そうとした瞬間、ガサガサと何かが近くの草むらで動きはじめた。

途端に身構えた。まだ揺れ動いている草むらを一点に見つめ、警戒する。

そして飛び出してきた何かの正体は…


「ご、ゴブリン…」


小柄な体軀、薄緑色の肌、嫌悪感を催す醜悪な顔、腰には汚らしい布を巻いている。

どこからどう見てもフャンタジーでは定番のモンスター、ゴブリンだった。

ゴブリンはこちらを目で捕捉すると、その醜い顔を嗜虐心溢れる笑みで歪ませながらジリジリとにじり寄ってきた。

どうする!?ゴブリンは最弱のモンスター、一体だけなら倒せるかもしれないけど、この世界で自分の常識は通用するのか…?

俺が逡巡している間、先程の草むらからもう一体ゴブリンが現れた。

二体目も俺を捕捉するや否やゆっくりと迫ってくる。

そんな状況に俺は…


「さらばだ諸君!また会おう!」


俺は全力で逃げ出した。

は?根性なし?うるせえ!

ちゃんとこの行動には理屈がある。ゴブリンは基本群れで行動している。二体目が出てきたなら三、四体目がいる可能性がある。

このまま増え続けたら俺に勝ち目はない、数の暴力でリンチにされてゲームオーバーだ。

もうひとつはこのまま走り続けたらさっき空から見た城にたどり着く、そこで助けを求めてゴブリンが追いかけてきていたら一網打尽にしてやろうという魂胆だ。


それよりも走っている最中なのだが腰辺りに違和感を感じる。具体的に言えばすごく重い。

まるでベルトに石の入った袋でも装着されているかのようだ。これせいで俺の全力を出すことができない。


「うおわぁ!?」


顔の真横を何か黒っぽい物体が凄まじい勢いで通り過ぎた。間違いない、それは中くらいの石だった。ゴブリン達が追いかけながら石を投げつけてきたのだ。


「とっぷぅぎああああぁぁ!」


さらにスピードを上げ、振り切ろうとダッシュした。そこからは死に物狂いで走っていたのでよく覚えていない。

ゴブリン達からの投石も止み、後ろから追ってくる声がなくなったことで足を止め、四つん這いでへたれ込んだ。

こんなに走ったのは昼休みに家まで体操服をとりに帰ったとき以来かも…

完全に振り切ったかはわからない、今はとにかく差を広げなくては追いつかれる。

走り過ぎて痛む脇腹をかばいながら、しばらく歩き続けていると、遂に森を出た。


突風に襲われた。尻餅を着かないように前傾姿勢になり、反射的に両眼を腕で守る。

風が止み、腕を両眼の前からどけるとそこにあった景色は異世界だった。


広がる草原

その先にある物々しい城壁

極め付けには現代日本では見られない中世ヨーロッパ風の城


心臓の鼓動が高鳴るのがわかる。

改めて実感している、ここは異世界なのだ、と。


城の門には馬車が長蛇の列を為している。

逃走劇の疲れも忘れ俺はその門へ走り出すの

だった。

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