第4話 実感
調子悪いなら早く寝なさいよ、と心配する母親に短く言葉を返して部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。その傍らではブランが部屋を物色し、本棚を眺めていた。
「マンガばっかりだね!」
「別にいいだろ。……というか、あんたの姿は、父さんや母さんたちには見えてないんだな」
「カンケイシャイガイに見られたらコマるからねぇ。ぬいぐるみとしてごまかすにも、ダンシだとムリがあるバアイもあるし」
「あぁ……確かに、ぬいぐるみ持ってるっていうなら女子の方が自然だよな」
「そういうのがスキなダンシもいるけどね、キミたちはちょっとチガウでしょ」
「まぁ、そうだね」
ブランと話をしていると、机の上に置いていたスマートフォンが複数回短く音を立てた。つい驚いて肩を跳ねさせる。
「キミ、オドロキすぎじゃないかい?」
「別にいいだろ」
ブランにからかわれ少し気恥ずかしさを覚えながらスマートフォンの画面に目を向けると、そこに表示されていたのは
――そういえば、帰り際に
メッセージアプリを立ち上げると、彼から可愛らしいスタンプと短い文が送られてきている。やたらかわいいスタンプ使うんだな、と思いながら返していると、
『白側としてこれからよろしく』『戦い方は明日にでもちゃんと教えるからね』――
その後も送られてきたメッセージに一通り返信した
「俺、本当に、魔法使いとやらになっちまったんだな」
「なにをイマサラ」
ブランの高い声を聞き流し天井を見上げてから、自分自身の手の甲に刻まれた炎の紋様に目を落とす。左手に広がる炎を模した白い紋様。これはどうやら火を司る魔法使いであることの証らしい。因みに、この紋様は人によって現れる場所や柄が大きく異なるようだ。また、関係者以外に視認できないようだが、堂々とこんなものが刻まれていることを思うと、ファンタジックな漫画やアニメを直に体験しているようで気分が上がる。
「これで、なんかやれたりするのか? ここから火が出るとか、これ使ってなんか召喚するとか」
僅かに頬を綻ばせて聞いた
「イマのところはできないよ。それは魔法使いであることのアカシっていうだけのものだから」
「へぇ……」
「まぁ、魔法使いはムゲンのカノウセイをヒめているからね。それをシヨウしてなにかできてもおかしくはないさ」
コロコロとベッドの上を転がったブランが
翌日、ブランと共に登校した
『俺たちにそんな凄い力が……!?』
『ブランがいるからでもあるんだが……』
『だとしてもすげぇよ! って、そういやこれ、どのくらいの範囲なら会話できるんだ?
教室に足を踏み入れながらそんなことを聞くと、
『どのくらいの範囲かは分からないが……三年や一年の三人とも普通に話せるだけの範囲はカバーしてる』
「そうなのか?」
『
『あ、悪い』
それはともかくとして、不思議な力に感銘を受けた
因みに、脳内の思考が全てだだれ漏れという訳でも、常にテレパシーの会話を聞いていなくてはいけないわけでもないらしく、そのあたりは調整出来るようになっているのだとか。便利である。
「――と、いうことで、
放課後、学校の近くの公園に集まった
事実、仲間入りを果たし不思議な力が宿っていることを実感しているものの、今後については無策である。
「とりあえず、
「は、はい……」
「それで、役割としては俺が
「昨日の様子を見るに、多分、
先の言葉に続けた
己の役割について考える
「一応、属性は火、風、土、雷、水ってあってそれぞれ特徴もある。その中で
「はい、がんばり、マス」
「あと、相性については、火属性の
「そこは割と単純なんですね。このチームだと誰が有利不利に当てはまるんですか?」
「はーい。僕が水だよ」
「俺が風属性だな」
「ちなみにひーくんが土で
「全員バラバラなのか」
彼等の説明を聞き相槌を打ちながら、
一通りの説明を終えた
「それで今後なんだけど、初心者二人にはどんどん経験を積んでもらおうかなって思ってるんだよね」
「レベリングってことですね」
「そういうこと」
どうやら今までも
「俺もまだまだ、全然戦えないから、その、……まぁ、頑張ろうな」
「そうだな! 俺も頑張る!」
照れくさそうに口にした
思えば、こんな魔法使いだの属性だのいった話を堂々としていていのかと今更の疑問を抱いたが、たとえ聞いたとしてもゲームの話だと判断されるだろうと
一方で
「二人とも、この後まだ時間ある?」
「あ、はい。大丈夫です」
「俺も平気です」
「なら、折角だから、実戦前にちょっと色々練習してみない?」
「
なんでも、魔獣相手だとしてもいきなり実戦はハードルが高いため、こんなにも人数がいるのだからまずは
「相変わらず凄いな……ありがとうブラン」
「これくらいはアサメシマエさ!」
地面でうろつくブランに礼を言うと、彼は足を止めふふん、と自慢げに鼻を鳴らした。
ブランを軽く撫でから周りを見ると、皆もう特訓に備えて姿を変えていた。
まだ自分がこんな格好をしていることにくすぐったい気持ちを抱いていると、隣にやってきた
「まだ慣れないか」
「あ、うん。変な感じ。まさかこんな真っ赤になるとはって感じだし、うん、不思議な気持ち。あとあんたが緑一色なのもまーだ奇妙な感じするわ」
「そうか、まぁ……俺の緑色も含めて、
「だろうなぁ、うん、ありがとな
不器用な
「じゃあなにから始めるかって事なんだけど……そうだ、
「え、火の玉? そんなこと出来るんですか」
「うん、出来るはず。ねぇ
「――えっ、あっ、ハイ……以前会った、火属性の人が、火の玉出てた記憶が、あるので……」
「はぇー……」
暫し思い出すように口元に手を添えた
「強く、念じる……」
――火の玉、火の玉……指先に……。
言われた通りに集中しながら、指先をじっと見つめる。脳裏にごうごうと燃え上がる炎と指先に灯るような光景を思い浮かべるが、なかなか火が灯らない。
集中力が切れそうになり一旦ぎゅっと目を瞑り再度指先に注視する。火の玉の大きさや形状のイメージを具体的に、とアドバイスを受け、頭に浮かぶ映像を具体的にしていくと、指先が熱くなっていく感覚があった。その熱さに目を見開き集中力が乱されそうになったがなんとか注視を続けると、ボッという短い音と共に小さな火の玉が出現した。
「うわっ、うわ、うわ……!」
「わ、すごいね
「たっ、確かに凄いけど、凄いけど! なんだこれ怖すぎる、そんなに熱くはないけど怖い! つーかこんな風に出るんだな!? あっ、消えた……」
「凄いじゃないか
目の前の現象に理解が追いつかない
それはそれとして周りへの被害はないのかが気になるところだが、ブラン曰く、術者本人や一般人には無害だが、魔法使いであれば味方でも被害を受けるという。そのため十分に気をつけねばならないと改めて指摘された。
ひとまず火の玉を出すファンタジックなことができた。ならば次の戦いの練習に移ろうかとしていた頃、ブランが突如顔を上げた。続いて佐京を除くほかの4人も順にブランが見やった方に目を向ける。皆の反応に戸惑う佐京だったが、どうやら『魔獣』が出現したらしい。途端に佐京にも緊張が走る。
「魔獣……!?」
「うん、突然街中に現れて、放置しておくと一般の人達を攻撃するんだよね。だから、早く退治しないと」
「仕方ないけど練習は中止! ブラン、魔獣がいる場所を教えて!」
「わかった!」
「
「あー、まぁ仕方ないよな、わかった」
同時に、所謂自分の『初陣』がすぐそこに迫っている事実に、高揚感や僅かな恐怖と不安を抱いていた。
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