第2話 素質
耳が痛くなるほどの絶叫を響かせた
恒良から少し離れた位置に立ち尽くす佐京は、恐る恐る声をかける。
「お、おーい
「人違いだ! 俺はあんたの言う
「えっ、俺、苗字で呼んだっけ」
「あ」
自分の首を絞めるような言動に、しまったと表情を強ばらせた
そして、少し離れた所でそんな様子を見ていた
「……冷めた」
「へ?」
声を聞き取った
――変身した? いや、戻ったのか?
どこにでもいる学生の姿へと変身した――いや、戻った
「バカみたいだな、そいつ。知り合いに見られた如きでそんなことになって。ほんと、愚図だ。白側の魔法使いは……皆そんなやつなのか?」
「……それは言いがかりだ。
苦々しく吐き出された
「……帰ろう、ネグロ」
「おいおい、
狼が口にした『殺す』という単語に、一瞬
一方で、狼――ネグロの言葉に一瞬動揺した
「……流石に、4対1は厳しい」
「ほう、それは確かに」
姿が見えなくなって数秒、徐々に空気が緩み、
場所も、妙な異空間から街並みへと変化し、今立っている場所は通学路の途中にある公園だと理解する。馴染んだ場所に戻れたことに、静かに安堵の息を
いつの間にか雨足はかなり弱まっていた。パラパラとした小雨で、人によっては傘を差さずとも良いと判断するような降り方だ。空の薄暗さなどから、予想以上に時間が経っていた可能性を考えたが、時間よりも先に気にするべき事を思い出し、慌てて
「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございました……! すみません、ちゃんと言わなくて……」
本来ならば
対して
「あぁ、いいんだよ別に。あれが俺たちの役目なんだし」
「そうだよ。助けられて本当によかった! まぁ、君がまさか
そこで言葉を区切って、
続いて凛とした声を発したのは、手持ちスマートフォンで時間を確認していた
「
「あ、はい、そうです」
「今回は大変な目に遭ったし、怖い思いもしただろう。でももう大丈夫だから、今回のことは忘れてほしい」
「あ、あぁ、はい……」
「簡単に忘れられないって思うかもしれないけど、深く考えなくてもそのうち忘れるから安心して。もうわりと遅いし、気を付けて帰ってね」
「……はい」
そう思って歩き始めたその時、足に何か柔らかいものが当たったことに気づく。同時に聞こえたのは『イタッ』という甲高い声。もしかして遊んでいた子供にでもぶつかってしまったかと不安をよぎらせつつ足元を見てみると、そこにあったのは丁度サッカーボールくらいの大きさの、丸いもこもこした白い塊だった。
――なんだこれ。
「なにをするの、イタいじゃないか!」
「……は?」
「ちょっと! 『は?』じゃないよ!」
憤慨する塊が発した声は、先程聞こえた甲高い声と一致する。ならさっきの声はこの塊が発した声ということだろう。足元にいる塊はヒツジのマスコットのように見える。それなのに喋ったという状況に目を丸くした佐京は、恐る恐る確かめるようにそれを掴み上げる。
「な、なんだこれ、だ、誰かのおもちゃか……?」
「おもちゃ!? シツレイな! ボクはおもちゃじゃないよ!」
「えっ……!? しゃ、喋った!?」
「しゃべるオオカミはほぼスルーしてたのに、いまさらボクにオドロくのかい!?」
「えっ!? あっ、あれは、その、気を回す余裕がなかったというか……」
両手で持ち上げたヒツジが、可愛らしい目をつり上げて手足をばたつかせる。その光景に更に目を見開いたり、しどろもどろに返答したりする
「ブラン! ごめんごめん、びっくりしたよねふたりとも。えっとな、
「えっと、じゃあ、これ、なんです?」
「俺たちのことを助けてくれる友達、だな」
「友達……」
「――って、ナでられてるバアイじゃなかった! ダメだよヒナガ! カッテにカエらせたら!」
「なに、もしかして
「そう、そうだよ! カレはボクたちのナカマになれるソシツがある!」
「えっ、本当に!?」
「そうなの!?」
慌てた様子のブランの声に、少し離れたところにいた
――仲間? 素質? よくわかんねぇけど、俺もさっきみたいな格好して戦えるかもしれないってことかな……?
まだなにも詳しいことは教えられていないのに、そんなことを考えて僅かばかりの羞恥心を抱きながら、またブランの声に耳を傾ける。
「うん、サキョウはきっとリッパな『白い魔法使い』になれるよ! だから、もしよかったらハナシだけでもきいてほしいんだ!」
「…………ア、ハイ」
笑顔のブランに気圧されて頷いた
その前に、まだ誰も正式に名乗っていないことに気づいた
「ちょっとまって、まだ誰もちゃんと名前言ってないよね? 移動する前に一応名前くらいは言っとかないと」
「あぁ、そういやボクもちゃんとナマエいってなかったね。ボクはブラン、よろしくね」
「あ、
ぎこちなく名乗った
「改めまして、僕、
「は、はい、もちろん覚えてます。怪我治してくれてありがとうございました」
「いいよ別に、気にしないで!」
「あ、俺は
「…………自分は、その……
「
「……はい」
にこりと笑みを向けた
とりあえず彼の名前が分かったからいいかと考えながら、
「
「…………そうだな。無関係じゃなくなった」
「だからその、えーっと、そろそろ普通に喋ろうぜ。変なこと言ってたならそこは、謝るからさ」
まだ薄暗い空の下。小さな雨粒が頭に当たるのを感じながら、ゆっくりと彼に声をかける。
見られたくないところを友人に見られた
「別に……謝られる必要はない。……それに、その、謝るのは俺のほうだ。……人違いだのなんだの、騒いで悪かった」
「別にいいって。逆の立場なら俺もめちゃくちゃ恥ずかしくて騒ぐだろうし」
「……そうか」
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