モノクロウィザーズ
不知火白夜
第1話 遭遇
その日は朝から生憎の雨だった。
朝の登校時に玄関から見上げた空の色は僅かに灰色がかっており、パラパラと小雨が降り注いでいた。薄暗い空を己の黒い瞳に映した
一日教室で授業を受ける最中もずっと雨は降り続けていて、午後になるにはゴロゴロと黒い空に稲光が鮮烈に走るようになっていた。
教室から雷に対して驚きや悲鳴を上げる声が聞こえる。特に女子生徒の悲鳴がきゃあきゃあと響く。
下校する生徒や部活動に向かう生徒たちで賑やかな放課後。学生服姿の
そんな優等生な彼は、当初
二人で雑談をしながら複数の生徒とすれ違い、美術室の戸を開けた。そこにいたのは数名の女子生徒と、二年生の男子生徒。彼等は入ってきた
「こんにちは、お疲れ様です」
「こんにちはー雨すごいな」
「よぉ
生真面目に挨拶をした
それから数時間後。下校時刻であるという放送を耳にした部員達は、区切りのいいところで手を止め片付け始める。
佐京もスケッチブックに滑らせていた鉛筆を置いて、大きく伸びをした。
スケッチブックの紙面には、鉛筆で描いた下書きがいくつも並んでいる。まだ期間はあるため何度も描き直すことは問題ないのだが、こうもしっくりこないのは嫌になってくる。明日また頑張ろうと気持ちを切り替えた
「おーい
ついさっき放送がかかったばかりなのに、もう彼の姿が見当たらない。あまりの早さに思わず驚きの声を上げると、近くにいた同級生が言葉を返す。
「
「えっまたか。ならしゃーないか。ありがと。なら俺帰るわ」
「うん、じゃあな」
教えてくれた同級生に礼と別れを告げて、佐京は一人で昇降口に向かう。
以前もこういうことがあったな、とぼんやり思い返しながら靴を履く。
ここ最近の
――せめて一言言ってくれりゃいいのに……。
何においても真面目である
アスファルトの上に大粒の雨が降り注ぎ、道のあちこちに大きな水たまりができている。極力それを踏まないよう気を付けながら、自宅までの道を歩く。
雨音、車道を走る車の音、通り過ぎる学生たちの話し声などをぼんやり聞き流しながら歩く。そうすると、頭の中は今現在プレイしているゲームのことでいっぱいになっていた。あの敵はどう倒そうか、どの武器を使えばいいのか、キャラは誰にすればいいのか……そんなことを考えているうちに、ふとおかしなことに気づいた。周りの音が消えているのである。
最初は、考え事に没頭したせいで周りの音が聞こえていなかったのだろうと思った。しかし我に返り周囲を見回しても、なんの音も聞こえない。いや、それよりもおかしいのは風景だろうか。一見いつもと変わらぬ通学路だが、壁や道の色や形状が、普段とは大きく異なっている。ぐにょぐにょと
「……なんだ、これ」
突然怪しい場所に迷い込んだ
「……謎の世界に巻き込まれた主人公って、こんな感じか……?」
恐怖にバクバクと心臓を高鳴らせながら、独り言ち、歩きにくい道を歩く。視界に妙なものが映る度に傘を下ろしたり構えたりしながら、震える足でなんとか前に進む。これは夢か現実か。夢ならなんてときに見ているのだと内心で自嘲した。
それから数分後。相変わらず不気味に静まり返る異様な風景に囲まれながら歩いていた佐京は、背後より何者かの足音を耳にする。
気がふれそうな程の静寂の中やっと聞こえた音は、まるで救いのように感じられた。すぐさま振り返った佐京は、その先にいた人物の姿に目を丸くする。
何故なら、黒い袴を身に着け、オレンジ色の短髪を整えた一人の少年が、狼のような謎の動物を連れていたからである。ここがなにかのイベント会場ならともかく、普段、袴姿の少年なんてなかなか見ることはないだろう。髪色と傍らの妙な動物の存在も相俟って、まるでコスプレのようで、声をかけていいのか悩む。思わず、傘を持つ手に力が入った。
すると、
「……お前、どこから入った」
「え、えっと、気づいたら、ここにいて……」
びくりと肩をはねさせた
それを聞いた少年は、そう、と小さく言葉を返し、続けて右の掌に煙を纏わせた。
何をしているのか理解できない
「……まぁいい。どこから入ったとしても関係ない。君にはここで死んでもらって、
「は、はぁ!?」
「運命だと思って、諦めろ。いいじゃないか、
「……いや、誰だよそいつ……。つか、それ、下ろしてくれませんかね……? 偽物でも、なんか、怖いんですけど」
傘を下ろし腕にかけ、恐る恐る両手を上げてか細い声を絞り出した。その言葉が
「っ……!?」
少年の足元にはコロコロと薬莢が転がり、何故かゆっくりと霧散する。その様に一瞬で理解した。彼が持つ銃は決して偽物ではないと。空薬莢が消失するという怪現象は起きているものの、これは本物だと。
突然突きつけられた現実に、サァ、と血の気が引いていく。衝撃と恐怖から腰を抜かし尻もちをつく
「偽物じゃなくて本物だ。分かっただろ」
「
「悪い。でも、一発二発撃つくらいいいだろう。こいつで補給する」
「そうか、ならいいんじゃないか」
長い尻尾を揺らした動物は、どうでもいいように呟き、
――あ、これ、俺死んだわ。
しかし
ただ、なんとなく家族や友人のことを思い浮かべ、これが走馬灯かなどと漠然と考えながら、全てを受け入れるように強く目を瞑った。
直後、大きな音が聞こえて終わったと確信した
「……は?」
理解できぬ光景に目を丸くする。ひとまず自分は助かったらしいとは分かったが、この円形のものが何なのか、何故それの手前で弾丸が止まっているのか。なにも分からない。正面では
「みっちゃん! どう!? 間に合った!?」
「大丈夫だよ、ひーくん! さっきの子は無事みたい!」
名前を呼び合いながら慌てた様子でやってきたのは、中学生くらいの男子二人。鋭い目つきとオレンジの髪が特徴的な少年と、青い髪をもつ童顔の少年は、白を基調としたジャケットを羽織って
「みっちゃん、この子怪我してないか見てあげて。俺は、そいつを何とかするから」
「分かった! えっと、君、大丈夫? ちょっと待っててね」
「あ、あぁ……はい……」
みっちゃんと呼ばれた青い髪の少年は、薙刀のような武器の柄で床を叩き、何かを書くように指先を動かした。途端にドームの外に青い光が広がって、頬の怪我があっという間に治っていく。
「これで大丈夫。ちょっとそこで見ててね」
「……はい」
穏やかな声に押されて自然と頷いたが、
とりあえず命の危機を脱したことは理解したが、だからといって落ち着けるわけもなく。槍や薙刀を持った少年だとか、今自分を覆うドーム状のなにかとか、正直ついていけない。夢なら覚めろ、謎のコスプレ会なら帰らせてくれと考える
放たれた銃弾や
「
「
「はい、俺も、加勢します!」
聞き馴染みのある声に、よく知った名前に思わず目を丸くする。恒良、ツネナガと彼は呼ばれた。武将や中高年以降の男性のような名前だが、力強く言い切った声は幼く、
恐る恐る目を向けた先には、装飾の多い白いジャケットに緑のスラックス、そして何故か髪が緑色になっている少年がいた。手に輪の様な大きな武器を持つ彼は、どう見ても、数十分前まで同じ美術室で部活動に励んでいた
「…………あ、つ、
「えっ?」
驚愕するままに喉を震わせると、緑髪の少年が
「やっぱり、
「……えっ、さ、
戦闘していた
「あー、もしかしてその子、
それは、
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