第4話
え、結衣の命日?
由奈が何を言っているのかわからない。
「由奈冗談でも言っていいこ…」
「何を言っているの!」
少女声が屋上に響き渡る。
思わず出しかかっていた言葉を引っ込める。
「なんで死因は…」
そう結衣が死ぬと思われる死因がなかった、あの日結衣は手術に成功した。
(これがあなたがやった過去改変の結果です)
過去改変の結果、その言葉に酷く動揺した。
思い当たる節があったからだ。
もどし屋はゆっくりと姿を表す俺の目の前に、だが由奈には見えてないらしい。
目の前にいるにもかかわらず由奈は唖然とした顔でこちらをずっと見ている。
「もう気づいているでしょ優さん…」
やめてくれ言わないでくれそれを言ったら俺は俺を保てなくなる。
気づかせないでくれ…
そんな俺の心とは裏腹に彼女は悪魔のような微笑みを見せ話し始めた。
俺が一番恐れていたことを…
「この改変絶対に二人とも助からないんですよ、二つに一つって言うことです。
あなたも気づいたでしょ?結衣さんが行った手術は臓器移植手術、そして手術は由奈さんが事故にあった後に行われた」
頼むやめてくれ。
「結衣さんの心臓は元は由奈さんの心臓だったんです、そして今日あなたが過去に行かなければ結衣さんはその事実をあなたに打ち明けるつもりだった」
「自分だけが被害者気取り?辞めてくださいあなたはただ自分を責めることで楽になっていただけです」
そうだ俺は自分を責めることで楽になっていた、自分が全てやったと思い込むことで現実から逃げていたんだ。
「あなたが殺したんです結衣さんを、あの男もそうあれは未来のあなた、そして今ここであなたはまた結衣を殺した。」
知っていた、だけど気づいてないと錯覚していたんだ、俺はどちらの道を選んでも二人のうちどちらかが死ぬ事に最初から気づいていた。
未来の俺がそうしたように俺も同じ道を歩いていた。
「一番苦しかったのは優でもなく結衣ですよ、十年間の間秘密を隠し続けそれでも笑顔だけは絶やさずに」
ごめんごめんごめんごめん…
今まで知らないフリをしてしまってごめんな結衣…
深く謝ったそれが俺に出来る最後のこと。
もう夢は覚めよう。
「由奈…ごめん…」
謝ったその理由は明確だ、夢はいつか覚める。
だからもう俺も夢を見るのはやめよう。
「そっか…もう終わりか。お兄ちゃんはもう決めたんだね」
全てを悟ったのか由奈は顔を赤くさせ静かに発した。
涙が流れるたとえ夢の中だとしても、俺の前には高校生の妹がいる。
叶うはずもない夢が今ここで実現している。
だけどこれは現実であって本物ではない。
「…あぁ決めたんだけどな…」
自然に涙がこぼれ落ちる、思わず膝を落としその場で顔を埋める。
夢だとわかってはいるだけどだけど今ここにいるのは紛れもない俺の妹だ。
夢から覚めるというのはもう一生会えないということ、ここは夢であり現実でもある。
一種の平行世界なんだ、ここにいる由奈ももちろん本物。
それを覚ますと言うのは由奈を殺すことに等しい。
「もうお兄ちゃん…泣かないで」
そっと由奈は胸に体を押し付ける。
「あの時の男の人ってお兄ちゃんでしょ…」
最初から由奈も知っていたんだ、俺が過去改変をしたことも結衣の死因が自分である事も全て。
押し付けてしまった俺は兄として一番してはいけないことをしてしまったのだ、妹の負担を背用兄が妹に助けて貰った。
兄失格だ……
「もう私は大丈夫……だから結衣お姉ちゃんを助けてお兄ちゃん…………」
耳元で小さな声で呟くと由奈は手を握り体を起こした。
「もどし屋さん…もう夢は終わりにしよう……」
何を言っているんだ由奈、やめろやめてくれ…
その言葉を合図に周りが光に包まれていく、当たりを包み込むかのように包んでいく。
次第に由奈の体も光に包まれていく。
「由奈!!」
「お兄ちゃん……遊んでくれてありがとう……一緒にいてくれてありがとう……助けてくれてありがとう……………」
一言言う事に由奈の体は光に変わっていく。
「それ以上言わないでくれ!」
そんな俺の思いとは裏腹に由奈は最後の言葉を告げた。
「お兄ちゃん……夢をありがとう……」
周りが全て光に変わり、そして俺は暗い海の中に落ちていった。
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