第3話

赤紅色の夕日が俺を照らしてくるのがわかる、目深の下からでもその光は強く俺を呼ぶ。


誰かが俺を呼んだ。

見知らぬ声だ、結衣でもない『もどし屋』でもない。

耳をすませ意識を集中する。


「ゆ…う…優……ちゃん…」


人影が眩しい夕日を閉ざした。

チカチカする目でゆっくりと瞼を開けた。

見上げる先には女の子が立っているロングの可愛い女子高生が。

成長しててもわかる…


「おかえり…由奈……」


間違ない俺の妹の由奈だ、十年成長しててもわかる、その目付き全て俺とそっくりな妹。

ピンセットを付けているところなんて昔と全く変わっていない。

十年前の由奈がそっくりそのまま成長して戻ってきた。

感動の再会…十年越しの再会で妹が前にいるにも関わらず泣いた。

泣いてしまった、泣かないと決めていたのに大粒の涙を垂らし泣いた。

ずっと悔やんでいた、あのとき俺が動いていたら妹は死ななくて済んだ。

なのに救えなかった、それが以下に苦しいものだったか。

周囲からは同情の声、違う俺がして欲しかったのはそんなんじゃあない責めて欲しかった。

お前のせいで由奈は死んだ、お前が殺したと言って欲しかった、同情される度自分の無能感を味わいどうしようもなかった。

でも今は違う目の前にいる。

泣いているのか笑っているのかわからない声でひたすら泣いた。


「お兄ちゃんどうしたの?」


そんな俺とは反対に由奈は困惑していた、それはそうだろう。

妹からしたら十年以上一緒に過ごしているのだ、泣く理由が見当たらないに違いない。

俺には少なからず泣く理由はあった。


「もうお兄ちゃんったら…」


どうしようもなさそうな声で呟くと体を起こされた。

流れるかのように身を任せていると頭が柔らかい感触のところに当たる。

それどころで終わるはずもなく頭には優しい手つきでそっと撫でてくる。

ゆっくりと目を開けた。

見上げる先には由奈の顔が目の前にある、そして優しく透き通る声で耳元でボソッと小さく言う。


「大丈夫だからね…大丈夫……」


この言葉、どこかで聞き覚えがある。

それは由奈が死んだ翌月に結衣が俺にしてくれたことと全く同じ展開だ。

あのときも結衣は泣いている俺を見て膝枕をしてゆっくりと泣き止むまで付き添ってくれた。

今時間を超えてここで再現されていた。


そしてまた俺は意識という暗闇に落ちて行った。


また誰かが何かを言っている、由奈?

違う結衣ない。


この声は彼女の声だ。


「こんにちは優さん、妹さんを助けれた何よりです…」


暗い部屋に一つ椅子がある。

そこにはもどし屋が足を組み俺が来るのをずっと待っていたようだ。


「あぁありがとう…君のおかげで妹とは……」


「お礼を言われる資格はありません、それにあなたもそのうち何をしたのか気づきますから…」


「何をしたのか…?」


言い残すと暗い部屋に一つの光が差し込んだ。

そっと手を差し出し包み込むようにした。

光が周りを照らし、現実に戻った。


「おはようお兄ちゃん」


やっぱり夢じゃあない、確かに由奈はいる。

さっきと変わらずの体制で由奈は微笑む。

この笑顔も見ることはないと思っていた、今では当たり前のように見える。

体を起こし由奈の頭を何度も撫でた。

髪がボサボサになる心配より居るという実感を得たかった。


「ちょwお兄ちゃんやりすぎ…」


案の定怒られたが、これをやるのも十年ぶりか。


「ごめんごめん笑」


「もう笑」


夢のようだまた妹とこんな会話を出来るなんて、昔は毎日のことで気づかなかった、でも今は違うこの会話一つ一つが俺の十年間の苦痛を癒す水になった。

夕日が沈む、琥珀色の夕日が消えて月が俺たちを照らしてくる。

屋上から見える景色も変わり家の電気が一斉に光り始める。

今日が終わる…

長い今日が終わる……


「よし!帰ろうか!!」


今度こそ失敗はしない俺の命に変えても妹を守るという意気込みで胸はいっぱいだった。

そんな俺とは裏腹に由奈の顔は暗くなる。

夕日が沈み月が妹由奈の顔を照らす。

見えた先には悲しそうな表情で俺を見つめる少女がいた。


「お兄ちゃん、忘れてないよね…」


頭が白く染まっていく。


「今日…結衣お姉ちゃんの命日だよ…」


何を言っているのかわからない。

ただ俺の頭ではもう気づいてしまった。


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