第35話

 ──マリアさまのこころ、それはハマグリぃ〜♫




 そう、この世のすべては、マリア様のお心──すなわち、『はまぐりが見せている夢幻シンキロウ』に過ぎないのです。




 ──よって、マリア様のお心に背く者は、すべて、『世界の敵』なのです。


 ──生きる資格のない、異端者であり、異教徒なのです。


 ──むしろ、死を与えることで、救済すべき、咎人たちなのです。




 ──我々、聖レーン転生教団異端審問第二部直営、カサブランカ女学園『ハマグリ会』所属の『薔薇の使徒』は、この世から異物をすべて『浄化』することこそを使命とする、マリア様に最も忠実なる『殺戮の天使』なのです。




 ──異端者に死を。


 ──異教徒に死を。


 ──不信心者に死を。


 ──無法者に死を。


 ──売国奴に死を。


 ──大食、


 ──肉欲、


 ──強欲、


 ──憂鬱、


 ──憤怒、


 ──怠惰、


 ──虚飾、


 ──高慢、


 ──これらの大罪を犯した、すべての咎人に死を。




 ──そして何よりも、悪魔であり、魔女であり、化物であり、悪霊であり、堕天使であり、異形であり、人でなしであり、外道であるところの、







「──精霊セイレーンを名乗る、悪役令嬢どもに、今こそ、天の裁きを!」







 そして次の瞬間、教会の大屋根の上に陣取っていた、軍艦擬人化コスプレをしている精霊セイレーンこと、悪役令嬢の一団に向かって、ロケット弾の雨あられをお見舞いする、自称『薔薇の使徒』こと、当の教会付属の女学園の生徒たち。




「「「──どわああああああああああああっ⁉」」」




 全員見事に吹き飛ばされて、さすがに身軽な精霊セイレーンといえども、無様にも教会前の広場の地面へと、こっぴどく叩きつけられてしまう。




「……こ、このお! 『70年代SF少女漫画結界』のお陰で、死にはしなかったけど、教団付属学園の生徒を名乗りながら、自ら教会を砲撃するとかアリなのか⁉」


 全身が土くれや爆煙によって、すっかり黒々と汚れてしまいながらも、すぐさま果敢に立ち上がり、漆黒のセーラー服軍団に向かって食ってかかる、純白のセーラー服軍団のリーダー格である、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ嬢。


 それに対して冷ややかな口調で答えを返す、『ハマグリ会』のリーダー格の少女。


「教団に仇なす、不浄な汚物を浄化することは、何物にも優先するのです。──そのためには、たとえ教会自体を損壊させようが、信者の命を犠牲にしようが、何ら構いはしないのですよ」


「──くっ、この狂信者どもが⁉ そんな『山百○会』や『薔○様』があるか! いい加減にしないぞ、本当に怒られるぞ⁉」


「ふん、他ならぬ『艦む○』モドキのあなたたちに、言われたくはないですわね。何ですか、悪役令嬢のくせに、そのようなウケ狙いのコスプレなんかして」


「……いや、それはこっちの台詞なんですがねえ? さっきから気になっていたんだけど、あなたたち全員の頭に乗っているのって、『ヘッドドレス』だよね? ──メイドさんなんかが、よく着けている」


「もちろんですとも! まさしくこれは、我々『女王メイド隊』にとってのアイデンティティであり、たとえどのような姿キャラクター仮装コスプレしようと、これだけは外せないのです!」


「──こいつ、コスプレであることを、あっさりと認めやがった⁉」




 だったら、これまでの『山百○会』ムーブは、一体何だったのか?




 いや、原典オリジナルの『山百○会』はけして、どこかの吸血鬼漫画みたいに、『マリアさまのこころ』を口ずさみながら、異教徒や異端者を情け無用に屠っていく、カト○ック教至上主義の暗殺や闘争何でもアリの、『アサシンJK組織』なんかじゃありませんけどね!


 ……ほんと、この作品の作者って、頭おかしいよね。


 何なのこの、敵も味方も『コスプレ合戦』は?


 そもそも『悪役令嬢』と『メイド』が戦うこと自体が、すでに常軌を逸しているというのに。


 いやだって、普通なら、悪役令嬢とメイドって、主従関係にあるよね?


 もっと根源的な話をすれば、悪役令嬢もメイドも、戦闘用のキャラじゃないよね?


 それを何で戦わせようとするかなあ、この作者ときたら。


 しかもそれぞれ、『軍艦擬人化ヒロイン』と『カトリック系ソフト百合女学生』の、コスプレなんかさせて。


 普通の頭をしていたら、『艦○れ』と『マリ○て』とを、戦わせることはもちろん、一つのストーリーとして、掛け合わせようとしたりはしないよね?


 この作者はもう少し、Web小説における『悪役令嬢』と言うものを、見つめ直す必要があるのではなかろうか?




 ──とはいえ、




 そこはさすがに、『悪役令嬢』と『武装メイド』という、『キワモノ』同士。


 そういった『根源的狂気』は、見事にスルーして、今や一触即発の雰囲気をビンビンとかもし出しながら、にらみ合い続けていたのであった。




 ──まさにその時、ついに堪忍袋の緒が切れて、両者の間に割って入り、大声でまくし立てる、この場で唯一正気を保っている勢力の代表者。




「待て待て待て待て待てええええい! もはや何が何やらわけがわからないんだが、どっちでもいいから、現在の状況が一体どうなっているのか、俺に懇切丁寧に教えてはくれないか⁉」




 その中年男性の必死の形相に、さすがに無視して戦闘に入るわけにはいかなかったのか、メイド隊の代表格の少女が、さも仕方なさげにため息をつきながら、返事を返してきた。


「今更何をおっしゃっているのです、シブヤ・ゲットー治安維持部隊小隊長殿? まさしく我々こそが、畏くも女王陛下御自ら遣わされた、『援軍』でございますよ」


「──だから何で、『女王親衛隊』であるあんたらが、『山○合会』のコスプレなんかしているんだよ⁉」


「え、だって、今夜は、ハロウィンではありませんか?」




「ハロウィンだからって、治安を維持する側の戦闘部隊までもが、コスプレする必要はないだろう⁉ 先史文明の渋○だって、警察官や警備員は、コスプレなんかしていなかっただろうが⁉」




 教会前の広大なる広場にて響く渡る、小隊長の血を吐くような怒号。


 その気持ち、良くわかった。




 ……もはやこれって、『精霊○り』でも何でも無いよね?




【某少女漫画界のレジェンド生誕70周年記念企画】というお題目は、一体どこに行ってしまったのだろうか?




 ──このように、更に混迷を深めながらも、ストーリーはついに『決定的な出会い』が行われる、次回へと続いていくのであった。

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