第34話

「……やはりすべては、本作の作者が、第二次世界大戦の軍艦どころか、比較的には専門分野とも言える軍用機についても、一般的なレシプロ機についてはほとんど興味が無く、旧ドイツ第三帝国のロケット機やジェット機にしか関心が無いというところこそが、諸悪の根源だと思われますよね」


「まったくだよ! かつてドイツ海軍においては、魚雷にロケットエンジンを搭載していたなんて、相当なミリオタだって、知らないと思うぞ⁉」


 あくまでも常識人の見地に立って猛抗議する治安維持部隊コンビであったが、それを無情にも薄ら笑いを浮かべながら一刀両断に斬り捨てる、現在教会の大屋根の上に陣取っている、まさしく非常識の具現そのものである、『軍艦擬人化ヒロイン』に仮装コスプレした『悪役令嬢』。


「──ふん、負け犬が、何とでも言うがいい。こうして現在の状況は、こちらのほうが圧倒的に有利なんだしね☆」




「いや、確かに現状としては、そちらさんのほうが俄然優勢だろうけど、それって本当に『誇れる』ことなのか? ……そもそもさあ、『軍艦擬人化ヒロイン』がフル装備で、少々武装しているとはいえ、ごく普通の人間に対して、ガチで攻撃するとか、『アリ』なのかよ?」




「──うぐっ⁉」




 ある意味『軍人擬人化ヒロイン』作品を全否定しかねない、あまりにも危険極まりない治安維持部隊小隊長殿のお言葉であったが、確かに少なくともこの場においては『当然の理』であり、図星を指された『精霊セイレーン』の少女のほうは、あたかも心臓を刺し貫かれたかのようにして、胸を押さえて苦悶の表情を浮かべた。


 その様を見て取って、あたかもここが攻め時とばかりに、副官を始めとして絶好調に追撃してくる、治安維持部隊。


「──ええ、ええ、まったくその通りですよね! たとえコンパクト化しているとはいえ、オリジナルの軍艦そのものの威力を有しているのだから、こんな街中で、しかも対人戦闘に使用するなんて、文字通りの『気○いクレイジー沙汰』ですよ!」


「そんなにガチで軍艦ごっこコスプレがしたいなら、各『原典オリジナル』作品通りに、各『イベント海域』にでも行って、なんか白っぽい『未知の敵w』とでも戦っていろってんだよ!」


 一応理に適っているとはいえ、いかにも言いたい放題言われて、ついに我慢の限界に達して、余裕綽々だった仮面を脱ぎ捨てる、屋根の上の精霊セイレーン少女。




「な、何よ、頭が狂っているのは、あくまでもこの作品の作者であって、私たちじゃないわ! そもそも私たちは悪役令嬢にして、デフォで異能の力持っている精霊セイレーンなんだし、軍艦の攻撃力なんか必要とはしないんだから!」




「……うん、だったら、コスプレなんてしなければ、良かったんじゃないの?」




「えっ、いや、だってこれって一応、【ハロウィン特別企画】だし!」


「……それと同時に、【某少女漫画家生誕70周年記念】でもあるよな?」


「──うっ」


「だとしたら、もっと『精霊セイレーン』であることこそを、アピールすべきじゃないのか?」


「それなのに、わざわざ『軍艦擬人化コス』なんかして、何を考えているのでしょうね?」


「もはや『精○狩り』なのか『艦○れ』なのか『アズ○ン』なのか、判別不能だよな」


「しかも本作の基本コンセプトとしては、『悪役令嬢』モノでもあるのですからね」


「だから、せめて『プロット』を作成してから、小説を書けって言うんだよ」


「……ほんとに、この作者ときたら」


「まあ、こんな作品に踊らされてばかりいる、ヒロインにも同情の余地はあるけどな」


「ある意味彼女も、『被害者』みたいなものですしね」


「何せ、そもそも『悪役令嬢』であるというのに、当たり前のようにして『ロリ』として年齢設定されたこと自体がおかしくて、あまつさえ『ショタ』にTSさせられたり、そうかと思ったら『名探偵』や『裁判長』にされたり、現行の作中作シリーズにおいては『魔法少女』にされたかと思ったら『ジェット機パイロット』にされたり、とどめには今回の【ハロウィン特別編】においては、『精霊セイレーン』が『艦む○』のコスプレをさせられるって、もう俺、わけがわからないよ!(キュ○べえ並み)」


「これってもはや下手したら、『アイデンティティ』が崩壊してしまいかねない、レベルですよねえ……」


「……なあ、あんたらも、あんなアホ作者の言いなりにならずに、少しは文句を言ったり拒絶したりしても、いいと思うぞ?」


 そのように、敵対勢力である治安維持部隊から本気で同情されて、むしろ屈辱のために顔面全体を真っ赤に染め上げる、精霊セイレーン一派のリーダー格、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ嬢。




「──うるさいうるさいうるさい! このコスプレは、あくまでも私たち自身の意志で行っているんだから! たかが人間風情が、知った風な口をきかないでちょうだい!」




 そのように、逆ギレ状態そのものとなって、今度は対空機銃を事もあろうに、地上に向かって撃ち放ち始める、コスプレ軍団。


「うおっ、まだ武器を残していたのかよ⁉」


「しかも対空機銃を対地攻撃に使うなんて、完全に反則なのでは?」


「そもそも陸戦において、『軍艦』であること自体が、大反則だろうが?」


「ほんと、この作者って、こんなところで無駄に、『オリジナリティ』を発揮しなくてもいいのに」


「普通の神経を持っている人間が、『艦む○』に普通の人間を襲わせるなんていう、いろいろな意味で『絶対やってはならいない』作品を創ったりするか⁉」


 ついに公然と、作者批判までも始める、治安維持部隊であった。


「……しかし、こうして我々が大ピンチに追い込まれているのは、否定しようのない事実ですし、一体どういたしましょうか?」


「ううむ、シブヤ特区長閣下からは、じきに『援軍』がかけつけてくれるという連絡が入ったばかりなのだが、果たして、空中で魚雷をぶっ飛ばすなんていう、常識を度外視した、文字通り『イカれた連中』を相手にできるやつなんて、この剣と魔法のファンタジーワールド広しとはいえ、存在していると思うか?」


「そ、そう言われると、非常に困るんですけど……」


 そのように、今や完全に進退が窮まった治安部隊のトップと副官が、力なく会話を交わしていた、


 まさに、その時。




「──あら、イカれた相手には、イカれた者共を、対応させれば、よろしいのではございませんの?」




 唐突に、この大混乱の渦中にて響き渡る、新たなる声音。


 敵味方揃って振り向けば、今さながらに教会の扉が開かれて、十数名の少女たちが歩み出て来たところであった。




 旧帝国海軍の水兵を彷彿とさせる、純白のセーラー服をまとっている『精霊セイレーン』たちとは好対照に、漆黒の裾の長いワンピース型のセーラー服をまとっている、いまだ年若いほっそりと肢体。




 ──そしてそれぞれの手に携えられている、無骨な『ロケットランチャー』。




「な、何だ、おまえたちは⁉」


「もちろん、この教会に所属しております、『神の使徒』ですわ」


「へ? 神の使徒って……」




 そして先頭の、十代半ばほどのリーダー格の黒衣の少女が、屋根の上の白衣の少女たちに向かって、不敵な笑顔で名乗りを上げた。




「──我ら、聖レーン転生教団異端審問第二部『ハマグリ会』、教会に騒乱と破壊を持ち込む不届き者は、問答無用に『浄化』して差し上げますわ♡」

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