第36話

 情け無用に飛び交うロケット弾とロケット魚雷(?)によって、今や原形を留めぬまでに瓦礫の山となり果てた、聖レーン転生教団シブヤ・ゲットー地区教会堂前の広場にて対峙している、軍艦擬人化ヒロインのコスプレをした『悪役令嬢』一味と、某『ソフト百合女学生』コスプレをした、ジパング王国女王親衛隊の面々。


 一触即発のピリピリとした状況下において、人数を始め武器のほうも質量共にほぼ互角であることから、かなりの激戦が予想されるところであったが、なぜか悪役令嬢側は、突然メイド隊が現れた当初こそ混乱をきたしていたものの、今や余裕綽々の表情となっていた。




 ──それも、当然であろう。




 彼女たちは悪役令嬢と言っても、その本性が『精霊セイレーン』という、いわゆる『新人類ニュータイプ』であるからこそ、排斥の対象になっているのであって、その名称が表すように、実は彼女たちには、『人にはあり得ない超常の力』が備わっているのだ。


 よって、現在のように物理的にはほぼ互角の状況にある場合は、むしろ絶対的に優位であると言っても過言では無かった。


「……まったく、私たち『精霊セイレーン』に、そんなロケットランチャーのような、『物理アタック』が効くとでも思っているの? それでなくても、お互いに『70年代SF少女漫画結界』によって、致命的なダメージはけして負わない『お約束』になっているというのに」


 そのように、自信満々の表情で嫌みったらしく言い放つ、純白のセーラー服軍団側のリーダー格の、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ嬢であったが、


 それに対する、漆黒のセーラー服軍団側のリーダー格の少女のお言葉は、まさしくそんな彼女の慢心を突くものであった。




「──あら、ご心配なく、ちゃんと『策』は、弄しておりますので」




「「「は?」」」


 思わぬ台詞を返されて、文字通り虚を突かれた表情となる、精霊セイレーンたち。


「ふふふ、まさかわたくしたちが、ただ単に『ハロウィンのシブヤ』だから、某『ソフト百合女学園作品』のコスプレをしたとでも、思っていたのですの?」


「な、何ですって⁉ それは一体、どういう意味よ!」


「あらあら、精霊セイレーン族の中心人物とも目されているアルテミスさんにしては、案外ものですわね」


「へ………………って、ちょ、ちょっと、みんな、どうしたの⁉」


 何といつの間にか、リーダーのアルテミス嬢以外の精霊セイレーンたちが、全員その場にうずくまり、苦悶の表情を浮かべていたのだ。


「これって、一体………ううっ、そういえば私も何だか、めまいがするような」


「……めまいだけで済むとは、噂通り、アルテミス、恐ろしい子……ッ」


「──そう言う、『常套句オヤクソク』は、いいから! 私の仲間たちに、一体何をしたの⁉」


 必死の形相でまくし立てる悪役令嬢のリーダーに対して、あっけなく驚愕の真相を明かす、メイド集団のリーダー格の少女。




「あら、先ほども申したではないですか? わたくしたちは、聖レーン転生教団異端審問第二部直営カサブランカ女学園、『ハマグリ会』所属の『薔薇の使徒』として、この世で生きる資格の無い『異物』どもをすべて『浄化』することが、マリア様から与えられた絶対の使命だと。──だからこそ、あなたたち精霊セイレーンの名を騙る悪役令嬢を殲滅しようと、この教会で待ち構え、密かに広場の周辺に神聖結界を張り巡らせて、まんまと網にかかったあなたたちから魔力を奪い、文字通り『無力化』したというわけですよ」




 最初、何を言われたのか、なかなか理解できず、呆けた顔でたたずむばかりのアルテミス嬢。


 なぜなら、今目の前にいる、ソフト百合系JKのコスプレをしたメイドさんの言葉は、あまりに予想外だったのだから。


「──ちょっ、何が『薔薇の使徒』で『浄化』に『神聖結界』よ⁉ あなたたちは確かに物理的戦闘能力では、この王国最強クラスの女王メイド隊かも知れないけれど、聖レーン転生教団直営カサブランカ女学園『ハマグリ会』所属の女学生であるのは、あくまでもコスプレに過ぎず、教団員ならではの聖なる異能の力なんて、持っていないはずでしょうが⁉」


「おやおや、精霊セイレーンのリーダー的存在ともあろうお方が、これは異なことを。もしかして、大切なことを、お忘れではないのですか?」


「大切なこと、って……」




「ここが、『原典オリジナル』のような、最終戦争後のポストアポカリプス的世界、異世界転生系Web小説ならではの、剣と魔法のファンタジーワールであり、何もデフォルトで超常的な力を使えるのが、皆様のような精霊セイレーンだけとは限らないということですよ」




「──‼」


 思わず言葉に詰まってしまう、他称『精霊セイレーン』の少女。


 そして、ようやく『何か』に気づいたようにして、顔を驚愕に歪める。


「……あ、あなた、あなたは、まさか──」


 それに対して、リーダー格の少女を始めとして、漆黒のセーラー服の集団の中から、特に小柄な少女たちが、六名だけ前へと進み出た。


「例えば、我らが女王陛下『白雪姫しらゆきひめ』様は、大陸最凶の魔女の実の娘として、その血とともに強大なる異能の力を受け継いでおられる」


「そのような偉大なるお方の護衛を任された、我ら『女王親衛隊』が、何の異能を持たないとでも、思っておられたわけ?」


「あなたは知らないの? 実の母親から毒殺されそうになった白雪姫が、隣国の王子を頼って国を出奔した際に引き連れていた、七人の凄腕の幼女傭兵団の伝承を」


「──俗に言う、『七人の小人』。物理的戦闘能力だけではなく、魔法にも長けた、ハイブリッド『突撃SA』傭兵隊」


「ロリコン王子様をたった七歳にして篭絡した白雪姫が、大国である隣国の軍勢を率いて、自分の生国に攻め込んだ際に、先頭に立って獅子奮迅の大活躍をした、伝説の『切り込み部隊』」


「その『狂戦士バーサーカー』ぶりには、かの白雪姫の母親である大魔女すらも恐怖して、配下の軍勢も瞬く間に戦意を喪失してしまい、たった半日のみでいくさの趨勢を決めたとも言う」




「「「「「「──それこそが我ら、女王クイーンズ親衛隊SS、『セブンリトルズ』なり!」」」」」」




 まさにその瞬間、落雷を受けたかのように、大ショックを受けるアルテミス嬢。




「──ど、どうして? 『七人の〜』とか『セブン〜』とか言っている割には、六人しかいないじゃないの⁉」




「「「「「「ショックを受けたのは、そこかよ⁉」」」」」」




 確かにかつて、「四天王なのに、五人いる……だと⁉」とかいったネタが、ラノベ界隈あたりで流行ったが、少々古すぎるのではなかろうか?


「……セブンリトルズ、そうか、あの伝説のハイブリッド傭兵団なら、このくらいの神聖結界を張り巡らせることも、十分可能か」


「「「「「「そうそう、その反応で、いいんだよ!」」」」」」


「──わたくしたちはメイドであるとともに、女王陛下の護衛でもあるゆえに、時には『影武者』として振る舞うこともございます」


「その他、規模があまりにも大きく危険度も高くて、特別かつ火急な対応が求められる、悪質な反政府組織等に対する、極秘の『潜入捜査』等においても、他人になりすますことが多々あります」


「その際は、単に対象の『外見を装う』だけでは、意味がありません」


「中身を伴ってこそ、真の『なりすまし』です」


「そうでなくては、王国に反旗を翻すほどの曲者揃いの対象組織の渦中にあって、すぐさまその正体を見抜かれてしまうでしょう」


「すなわち、たとえ相手がどのような異能の力を有していようと──それこそ、おのあるじであられる、大陸最凶の魔女の実の娘としての、強大な異能の力を秘めておられる女王陛下であろうとも、完璧に成り切ることができなければ、『メイドのプロ』としては失格でございます」




「「「「「「──だからこそ我々、真のメイドであるセブンリトルズは、どのような異能でも模倣コピーできる力を、身に着けているのでございます」」」」」」

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