第25話
元々ストーンゴーレムは、この目の前の自律可動型の無人要塞の一部だったのであり、キヨとレジスタンス部隊が攻撃を仕掛けた途端、操作を担っているような教団の人間なぞ誰一人見当たらないというのに、無数の砲門が稼働し始めて反撃を開始するとともに、その一部がストーンゴーレムとして分離し、こちらの主力であるキヨに向かって襲いかかってきたのだ。
しかも、要塞自体もキヨ同様に、オリハルコンやミスリル銀とは行かないまでも、ただの石材なぞではなく、魔法鉱物によって構成されているようで、今やすでに一体化したゴーレム共々、損傷部分を修復し終えようとしていた。
「──くっ、これでは、キリが無いぜ」
どうやら攻撃力と防御力は、キヨのほうが上回っているようではあるものの、とにかく要塞自体が巨大で、しかも損傷した部分から次々に修復していくので、その修復スピードを上回る攻撃を重ねていく場合においても、完全に破壊し尽くすには、かなりの時間を必要としそうであった。
……そうなると、『じり貧』であるのは、むしろこちらのほうであろう。
キヨ自身については、大気中に含まれる
……くっ、こんな何も無い荒野では、身を隠す場所すらも見当たらず、逃げ出したところで、要塞の無数の砲門の的になるだけだ。
このままでは、僕の魔導力が切れて防御障壁を張れなくなった途端、キヨ以外の全員がお陀仏になりかねないぞ。
そんな自分の
「……
「──うっ。そ、そうだな、情けない限りだが、もって三十分てところかな」
「そうですか、どうやらとても、間に合いそうにありませんね」
……まあ、そうだろうな。
あの巨大なゴーレム一体だけでも、散々手を焼いているというのに、要塞全体を機能停止させるには、下手すると
「……一応伺いますけど、レジスタンスの皆様をお見捨てになるという、選択肢はございませんか?」
「──馬鹿言え、ここで彼らを裏切ったら、本当にこの世界において、味方が誰一人いなくなってしまうぞ?」
ただでさえ大陸中に信徒を有する、文字通りの世界宗教組織たる、聖レーン転生教団と敵対しているのである。
より正しく言えば、『味方がいない』のではなく、『敵しかいない』状態になってしまいかねないのだ。
そんな中で共に闘ってくれる『同志』である、反教団のレジスタンス組織の皆さんを、ここで見捨てるという選択肢があるはずは無かった。
そもそも今回、この強大なる移動要塞とあえて正面から闘う羽目になったのも、おそらくは僕らが、このレジスタンス組織に加わったせいだと思われるのだ。
この移動要塞は、平時においては教団にとっての重要拠点の極地防衛を、有事においては敵対勢力の重要拠点への重点的攻撃をと、無人でありながら強大な攻撃力と堅固なる防御力とを活かした、大規模戦闘時にこそ本領を発揮すると同時に、レジスタンス等の抵抗組織の拠点潰しをも主要な任務としており、何らかの方法で僕とキヨとの行方を掴んだ教団の異端審問部が、移動要塞を直接管轄している武装修道会に依頼して、こちらのレジスタンス本部を強襲させたものと思われた。
とはいえ、一応要注意観察対象である移動要塞の動きは、レジスタンスのほうでも随時掴んでおり、直接本部を襲われる前に僕とキヨを含んだ迎撃部隊を出動させて、人気のほとんど無い国教沿いの荒野にて待ち伏せすることができたものの、移動要塞の攻守にわたる予想以上の戦闘能力に、こちらの切り札のキヨ以外は手も足も出ないまま、防戦一方となってしまっていた。
──と言うか、間違いなくこれはレジスタンス組織ではなく、『キヨ』こそを主な対象としての、計画的な攻撃に違いなかった。
確かに、対人戦闘と言うよりも大規模集団戦を目的にして開発された、旧大日本帝国海軍の『駆逐艦』そのものの力を秘めたキヨに対しては、人間主体の部隊を投入するよりも、このような無人要塞やゴーレム等をあてがったほうが、よほど効果的と思われた。
……つまり教団においても、キヨに対しての研究分析が進み、いよいよ本腰をあげて潰しにきたってところか。
そのように、僕が胸中であれこれと思案を巡らせていた、まさにその刹那、
当の駆逐艦の擬人化幼女が、これまでに無い毅然とした声音で、思わぬことを言い出した。
「──わかりました、それでは、『最終手段』をとらせていただきます」
え。
「な、何だよその、最終手段て」
「誠に申し訳ございませんが、この瞬間をもちまして私キヨは、提督からのいかなる命令も拒絶させていただきます」
「はあ、僕の命令を受け付けないって…………つまり、軍艦擬人化兵器が、自律行動をとるつもりなのか⁉」
おいおいおい、間違いなく世界最強の存在が、人間によるコントロールを自ら排すなんて、世界征服でも始める気か⁉
「……己の
「な、何だと、一体、何をやるつもりなんだ⁉」
「──自爆です。私の主動力源である『
……何……だっ……てえ……。
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