第24話

「──キヨ、危ない!」




「くっ──⁉」




 次々と襲いかかってくる無数の砲弾を、どうにか避け続けていたところに、不意討ち気味に振り下ろされる巨大な『こぶし』を、間一髪飛び退いて避ける、我が忠実なるしもべ


 人里離れた荒野の岩石だらけの地面をゴロゴロと転がりながら距離をとるや、すかさず体勢を取り直してすっくと立ち上がる、旧日本海軍由来の軍艦擬人化美幼女。


「……集合的無意識とアクセス、大日本帝国海軍所属一等駆逐艦ゆうぐも型19番艦、『きよしも』の『武装情報データ』をインストール、主砲50口径127ミリ砲、発射準備」


 そのように、真珠のごとき小ぶりの唇がつぶやくや、幼い少女の華奢な右腕が、みるみるうちに禍々しい巨大な砲門と化した。




「──発射あ!」




『グオオオオオオオオオオオオオッ──‼』




 軍艦の艦砲射撃を至近距離で浴びて、堪らず吹っ飛ぶ『石造りの巨人ストーンゴーレム』。


 その巨体が同じく石造りの、聖レーン転生教団武装修道会騎士団麾下の、『移動要塞』本体と衝突するや、大轟音が鳴り響き、盛大に砂塵がわき起こった。


「──キヨ、大丈夫か⁉」


 慌てて駆け寄るものの、あえて確認するまでもなく、年の頃十歳ほどの矮躯は、文字通りの満身創痍の有り様であった。


 しかし──


「ああ、提督アドミラル、お気になさらずに。何度も申しておりますが、キヨは『軍艦』ですので」


 そのように、いつもながらの無表情のままで、さも何でもない風に答えを返すや、再び虚空を見据えて、不思議な文言を唱え始める。




「──集合的無意識とアクセス、すでに超自我領域にストックしてある、軍艦擬人化少女としての『清霜』の、『デフォルトの形態情報データ』のダウンロードを申請」




 その瞬間、僕は我が目を疑った。


 ……すでにわかりきっていたはずなのに、やはり実際に見せつけられると、驚愕せざるを得なかった。


 それも、道理であろう。




 見るも無惨に身体中に傷負っていた幼女が、まるで映像を逆回転させるかのように、元の軽い打ち身一つ無い姿へと立ち戻っていったのだ。




 下手すると右腕を切り落としかねなかった深い裂傷が瞬く間に塞がり、更には何とボロボロだった衣服さえも元通りになっていき、そのままため息一つつく暇もなく、いつものすべらかな素肌と、シンプルだけど可憐なる衣服とを、完全に取り戻したのであった。


「──魔素エーテルの充填も完了、体力も回復、これにて集合的無意識とのアクセスを終了します」


 そのように、提督アドミラル──つまりは、おのあるじである僕に報告する頃には、すでに戦闘用のエネルギーともなる魔素エーテルの補給すらも、すべて為し終えていた。


 ……しかし、すごいものだ。


 このように、ズタボロの状態になっていたとはいえ、けして一方的に『負けていた』わけでは無かった。


 何せ相手は、三階建ての屋敷ほどの大きさのある、巨大なゴーレムなのである。


 そんな文字通りの『怪物』と正面から相対していながら、幼く小さな少女が『互角以上』の闘いぶりを見せたこと自体が、そもそも尋常では無いのだ。


 ──それというのも、実は彼女は、ただの幼い女の子では無いのはもちろん、のだから。


 そうなのである、この大陸東部きっての錬金術師にして召喚術士である、僕ことアミール=アルハルが、考えられる限り『最強の存在』として召喚した彼女──通称『キヨ』は、小さな身体をしていながら、まさしく『あちらの世界』の第二次世界大戦当時の『駆逐艦』並みの強度と硬度を誇っているので、巨大なストーンゴーレムとガチの殴り合いをしようが、お互いに大砲で撃ち合おうが、戦闘継続が可能な『中破』程度で済み、致命的な損傷である『大破』レベルのダメージを負うことは無いのだ。


 しかも彼女の肉体は基本的には、不定形暗黒生物『ショゴス』によって構成されているのを始め、僕がこのファンタジーワールドならではのオリハルコンやミスリル銀等の魔法物質を付け加えて錬成した特別仕様なので、強度や硬度が実際の駆逐艦以上であるのはもちろん、そもそも元から決まった形態を持たないショゴスの変形能力により、少々の損傷くらいならほぼ完璧に自己修復が可能であった。




 ──つまり一言で言えば、この軍艦擬人化幼女ときたら、攻撃力だけではなく、防御力においても、まさしく『無敵』以外の何物でも無かったのだ。




「……そりゃあそうだろうな、本来なら自軍の戦艦や航空母艦を守るために、敵の戦艦や駆逐艦とガチで砲撃戦を行うための軍艦なんだ。攻撃力はもちろん、防御力もしっかりしていないと、過酷なお役目が果たせないしな」


 加えて、肉体そのものが不定形暗黒生物や魔法物質でできているので、身体の『比重』すら自由自在に変えることができて、ストーンゴーレムの全力のパンチや移動要塞の砲撃をいくら食らおうが、その場からほんのわずかにも移動せずにおられるという、まさしく文字通りの『不動』ぶりであった。




 ──しかし実はそれは、相手のほうも、同様だったのである。




「……提督アドミラル、みんなを下がらせてください」


 あるじである僕と、今回の移動要塞破壊作戦を主導している、反教団派のレジスタンス組織の面々、約十数名のほうを見やりながら、『警告』する我がしもべ




 彼女の正面では、要塞を巻き添えにして倒れ込んでいたストーンゴーレムが、まさしく『自己修復』を終えようとしていた。




 ──いやむしろ、要塞と一体化するかのように、『元の状態』に戻ろうとしているといったほうが、正確か。

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