第4話

 ──『白きオーク』族最強国家、アメリゴ合衆国、首都サクラメント。




 大統領府『白猪豚の小屋ホワイト・ピグスタイ』、最高幹部会議室。




「──どういうことだ一体、我ら『白きオーク』連合軍の完全勝利も目前に迫った、この段階において、いきなり東南エイジア一帯を、旭光シパング軍に指揮された原住民どもに奪還されるとは⁉」


「現地の黄色い鬼子イエロー・グレムリンどもは、すべて殲滅していたのでは無かったのか⁉」


「まさか、下等なヒューマン族などに、出し抜かれるとは!」


「こんな体たらくでは、誇り高きオーク族の名折れではないか⁉」


「ガリア戦線で魔族どもを相手に奮闘している、ブリトン連合王国からパシフィカ戦線を任されている身としては、どう申し開きすればいいのだ?」


「我ら海軍が、旭光野郎ジップどもの狂気の自爆テロ『ゴッド・ストーミング・アタック』に耐え忍びながら、広大なる制海権を維持しているというのに、陸軍は一体何をやっているのかね⁉」


「陸軍長官、何とか言ってみたまえ!」




「……うぐぐ、大統領並びに、最高幹部の皆様、このたびの我が陸軍の不始末の数々、誠に申し訳ございません。──しかし、これにはそれなりの、事情がございますのです」




「事情だと?」


「ほう、そんなものがあるのなら、言ってみたまえ」


「もちろん、さぞかし重大なる事情なんだろうな?」


「……あ、はい、どうやら原住民どもは、先史文明のオーパーツを隠し持っていたようでして」


「お、オーパーツだと⁉」


「先史文明と言うことは、すでに滅び去った、暗黒の『魔法時代』のものか⁉」


「して、どのような効果を持つ物なのだ?」


「さぞかし、兵器としても、超常的な性能を有しているのだろうな?」




「生存者によると、何でも幼い少女の姿をしながら、神聖帝国の駆逐艦相当の戦闘力を有しているとのことです」




「「「……………………………………は?」」」




「な、何なんだね、それは?」


「何で駆逐艦なのに、少女の姿をしていなければならないんだ?」


「先史魔法文明の旧人類たちは、一体何を考えていたのかね?」


「……いや、そんなことを、私に言われましても」


「まあ、いい、それでその、少女の姿をしているとか言う駆逐艦──ええと、『駆逐艦娘』? 『デストロイヤー・ガール』? ……うう〜ん、適当な呼び名が無いなあ」


「ええ、現時点における、最重要敵性体であることだし、確かに固有の『呼称』は必要ですよね」


「うかつに、『艦○す』とか『KANーS○N』とか、口を滑らせた日には、いろいろと問題ですからなあ……」




「──だったら、『ナデシコ』というのは、どうですか?」




「「「ナデシコ?」」」




「何でも旭光ジパングでは、女性のことを『ヤマトナデシコ』とも呼ぶそうですから」


「ああ、確か『ヤマト』というのは、旭光ジパング自体の古い呼び名だったそうだな」


「いいのではないかね? どうせここでしか使わない『仮称』だ」


「──ということで、その駆逐艦の力を持っている『ナデシコ』は、一体何体ほど揃っているのかね?」


「え、何体って……」


「はっきりしたまえ、敵の人員や兵装の数量を前もって把握することは、我々のような全軍的指揮官にとって、最も必要なことだろうが?」


「あ、はい……それが、現在確認されているところでは、一体ということです」


「へ?」


「一体、って、本当かね?」


「ええ、まあ……」




「「「──あはははははは、何だ何だ、それなら別に構わんではないか!」」」




「えっ、えっ、一体、どういうことなのです⁉」


「陸軍長官殿、貴殿は我が海軍に駆逐艦が、一体何隻あるとお思いなのかね?」


「え?…………ええと、50隻、くらい?」


「失礼な! それでは、桁が一桁、違いますぞ!」


「そうそう、確か『ラムダッチャー』級だけで、175隻ほど建造されているんですよね」


「ええっ、一つのタイプだけで、175隻ですって⁉」


「昨今人気の『ダッチャー』という名前のほうにしておけば、軽く200隻は超えていたよな」


「……その謎理論はともかくとして、たとえ少女の姿をしていようが、たかだか駆逐艦一隻程度の力しか持っていないのなら、何も問題は無いと言うことだ」


「で、でも、我が陸軍が誇る巫女巫女シャーマン戦車部隊が、そのたった一体の駆逐艦型『ナデシコ』に、撫で切りにされてしまったのですが?」


「それは陸軍が、不甲斐ないからでは?」


「おいおい、言い過ぎだぞ、参謀総長殿」


「左様、現地民と示し合わせて、ゲリラ戦を行ったのであれば、納得できぬこともありますまい」


「しかも、駆逐艦同等の戦闘能力を持っているとなると、ただの『民兵ゲリラ』というわけではありませんからな」


「──ははは、それだったら、大丈夫だな」


「……と、おっしゃいますと、海軍長官殿?」




「何せ海戦は、原則的に遮蔽物のまったく無い大海原において、集団戦で行うものですから、たった一隻の駆逐艦によるゲリラ戦法なぞ、何の効果もありませんよ」




「──おお、確かに!」


「むしろ、通常の海戦においては、駆逐艦なぞ、下位レベルの艦種ですしね!」


「では大統領、東南エイジア方面に、主力艦隊を即刻派遣するということで、どうでしょう?」


「……うむ、そうだな、海軍長官、ここはいつものように、我が国の誇る正規空母、『企業』を中心にして──」




「──お話し合いのところ、失礼いたします!」




「な、何だ、貴様は?」


「最高首脳による、会議中なのだぞ?」


「いきなり入室してきて、無礼ではないか?」


「警衛の者たちは、一体何をしておったのかね?」


「も、もとよりご無礼は承知ですが、緊急事態なのです!」


「……緊急事態、だと?」


「この我が軍が、連戦連勝の折にか?」


「はは、まさか、ワイハの『豚に真珠湾ピグス・パールハーバー』か、西海岸の『失楽園ロストエンジェルス』とかが、旭光野郎ジップによって爆撃でもされたとでも言うのかね?」


「それこそ、まさかだよ」


「超最先端マイクロ波レーダーにしろ、最新型迎撃機ペド38『ライトニングなのです!』にしろ、名実共に難攻不落の防衛システムが構築されておるのだぞ?」




「じ、実は、皆様のおっしゃる通りなのであります! 本日午前10時をもって、失楽園ロストエンジェルスが、この地上より消滅いたしました!」




「「「なっ⁉」」」




「……消滅、だと⁉」


失楽園ロストエンジェルスそのものが、消え去ったとでも言うのか?」


「そのような大規模な空爆や艦砲射撃による攻撃があったなどとは、報告を受けていないぞ⁉」


「と言うか、現在パシフィカ全海域の制海権と制空権を完全に掌握している、我が国の主要都市を破壊することなぞ、旭光ジパング帝国海軍を始めとして、どこの軍隊にも不可能なはずだ!」


「一体どれ程の兵員や航空機や艦船が、投入されたと言うのかね⁉」




「一人です」




「「「え」」」




「身体中に大砲や機関銃や魚雷発射装置等々を装備した、年の頃十四、五歳ほどの少女が、失楽園ロストエンジェルスの都市部から工業地帯に映画産業地域や高級住宅街に至るまで、すべて完全に破壊し尽くしたとのことです!」

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