好きすぎて

あすか

好きすぎて

好きという想いが強すぎて苦しんだことはありますか?


4月、春の桜が咲き誇り、新たなる出会いの予感に期待していた。

私、音無楓は今日も新たな恋を探している。


「楓ちゃん!!おっはよ~!!め~ちゃいい朝だね!!こんな日にはお花見でも行かない?」

朝の挨拶と共にそんな提案をしてきたのは、親友の結衣。いつも朝に私を発見すると、飛びついてくるから、少々腰が痛かったりもする

「もう!結衣、朝から元気すぎるよ!!よくそんなハイテンションでいられるよね。」

「あはは、なんでだろう~!!私にも分かんないや。それでどうする??行く?」

「う~ん、じゃあ行こっかな。新しい出会いもありそうだし」

少しだけ行くかどうか悩んだものの、お花見にはたくさんの人が来るはずと不思議な確信が私の頭の中に生まれたので、行くことにした。


お花見には、私と結衣のほかにサークルで仲のいい里香ちゃんの3人で行くことに

「楓、誘ってくれてありがと。私もお花見したいなぁって思ってたところだったから、ちょうどよかったよ!!」

「どういたしまして。綺麗なものは共有したいからね~」

「ってそんなこと言ってる楓ちゃんだけど、ほんとはね、私が誘ったんだよ~」

もう少しで自分の手柄になりそうだったのに、すかさず結衣に阻止されてしまった。

そのまま桜が咲き誇る公園まで、3人笑顔のまま春休み何してたかだとか、今年は何がしたいかだとか、そして肝心の今年は彼氏ができるかといった他愛のない話をしていた。

「今年こそはいい男を見つけて、キャンパスライフを楽しく過ごしたいなぁ」

「そうだよね~!!去年はなかなかいい人見つかんなかったもんね~!!っていうかうちの大学の男子ってレベルが低すぎて、なんかそういう対象に見れないんだよね~。」

「あ、それよくわかる!私たちのサークルの男もなんかもさいのばっかりで、あ~!かっこいい後輩君が入ってくれないかなぁ。」

「う~ん、でも私は年上の方がいいかなぁ。なんか同い年だとデートの時とかも、ファーストフード店とかで済まされそうだし、金銭的にも、ね~。」

3人で集まって話をしていると、いつもこういう話になってしまう。

まあ、でも私たち3人とも好きなタイプが違うから、同じ人を好きになるっていうことはないから、その点はすごくいいと思っている。

私は基本的に5歳くらい年上がタイプで、里香は同じ年がいいみたいだけど、大学の人は眼中にないみたい。結衣は年下の子がタイプ。

「「「はぁ、お花見にいい人いないかなぁ」」」

同じことを思っていたのか、3人はもったようにそんなことを言ってしまい、お互いに顔を見合わせて、笑いあった。

楽しい会話をしているうちに、公園についていた。


「うわ~!!予想以上に綺麗だね~。」

「だね!!めっちゃ綺麗。写真撮ろっと!」

「こんなにきれいな桜を見たのはいつぶりだろう。結衣が誘ってくれたおかげだね。ありがとう」

「ほんとそれね。ありがと!!結衣」

「えへへ、二人とも照れちゃうじゃん。私も二人と一緒にこれてよかったよ~」

あまりにもきれいな桜を見ることができたため、私と里香は結衣に感謝し、結衣は顔を赤くしていて、なんだかいつもよりかわいく見えた。

そして、私たちはずっと立っているのも疲れるので、どこかゆっくり座って桜を見れる場所はないものかと場所を探すことにした。

「あ!あそことか良さそうじゃない?」

真っ先に結衣がいい場所を見つけたのか、その場所に向かって走り出していった。

私と里香はその後を追いかけていくと、そこはさっきまでの場所よりは桜の数は少ないものの、いい感じにスペースが開けていて、周りを桜が囲んでいるという幻想的な場所だった

「なんだかとても幻想的ね。きれ~い」

そうして、この場所にシートを敷いて、お花見を楽しもうとしていた。


「あともう少しでたどり着くからお前ら、もう少し頑張れよな!!」

「はぁ、はぁ。先生。さっきの場所でも良かったじゃないっすか?十分、綺麗でしたよ?」

「本当に宗司の言うとおりです。こんな奥までくる必要なかったと思うんですが…」

「まあまあ、宗司も真一もそんなこと言うなって。あの光景を見れば、お前たちも「あ~、先生についてきて本当に良かったです。こんな場所を教えてくれてありがとうございます。今度彼女と来ます」って言わざるを得ないと思うぞ。はは」

「先生は本当に先生なのですか、発想が馬鹿すぎます。そもそも彼女なんて勉学の妨げにしかならないので、いませんよ」

「大和先輩の言う通りっすね。もう足も疲れました!!どんなにいい景色があったとしても、これだけ疲れてまで見る価値はないと思うんすよね~。俺も彼女いないんで、自慢する相手いないですし。」

「はぁ。本当にお前ら若者はどうしてこう、疲れた先に感動できることがあったら、何倍も感動できるということを分からないんだ?まあ、着いた後にお前たちの価値観は変わるだろうけどな…」

彼ら3人は、楓、結衣、里香のいる場所に向かっていた。そこに先客がいるとは知らず

3人は楓たちの通う大学に近い大学の講師と生徒で、お花見に来ていたのだが、講師の榎本がもっときれいな桜が見れるからついてこいと半ば無理やり、二人の生徒を一緒に連れてきていたのだ。

最初は二人とも乗り気だったものの、一向に目的地に着かずかれこれ1時間ほど彷徨っており、疲れがピークに達していた。

そんなこととは露知らず、榎本はどんどん進んでいった。そしてやっと

「お前ら。あそこだ!!よし、走るぞ~!!」

「「はぁ!?」」

榎本は目的地を見つけた途端、子供のようにその場所目掛けて走っていき、二人はストレスを感じながら、その後を追いかけていった。



シートを敷き終わって座っていると、何かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。

「何の音だろう?なんか人が走ってきているような…」

そして人が来たのかもしれないと身構えていると、視線を向けていた方向から3人の男が飛び出してきた。

お互いの存在を認識した途端、6人そろって驚いた。

「先生、先客がいますけど・・・」

最初に声を発したのは、見るからに勉強ができそうな青年だった。

冷静な声音で近くにいた20代後半くらいの男性に声を掛けていたのだが、なぜだか少し顔が赤かった。

「あ、ああ、そうだな。しょうがない。違う場所に行くとするか」

「え~!!また歩かせるんすか!?もう歩きたくないです!!行くって言うなら先生、おぶってくださいよ!!」

先生と呼ばれていた男性は、先客がいたことでその場を離れようとしていたのだったが、もう一人の生徒らしき青年、こちらは少しかわいい系はもう動きたくないと言わんばかりに倒れ込み、そんなことを言っていた。

3人とも、すごく疲れているようだ。


私たち3人は顔を見合わせながら、少し話し合い、ある提案をした。

「あ、あの、もしそっちがよろしければ、一緒にお花見しませんか?」

彼ら3人は少し驚いていたが、すぐに満面の笑みを浮かべていた。

こうして私たち3人と彼ら3人でお花見を楽しむことになった。

この提案には少しだけ思いやりというものがあったものの、大半は彼らの顔がとても整っていて、3人の好きな男性のタイプと完全に一致しており、こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないという邪な想いも介在していた。


「いや~、それにしてもきれいな桜の下できれいな女の子たちと話せるなんてラッキーだなぁ。なぁ、お前ら!」

「はぁ、先生は本当にろくでもないですね。そんなんだから、独り身なんじゃないんですか。まあ、言いたい気持ちはよくわかりますけど・・・」

「まあ、そうっすね!!先生がろくでもないことはもうみんな周知の事実ですけど、言っていることはわかります」

「そうだよな~!ってお前ら、ひどくない!?こんなきれいな子たちの前でいじめないでくれよ~。」

彼ら3人は笑い合いながら話をしていて、とても仲が良さげだった。

私たちはというと、顔が赤くなっていた。


「あ、そうだ!ここであったのも縁と言うことで自己紹介でもしませんか?」

里香、ナイス!!と心の中で叫んでしまった。

この里香の提案に彼らも応じてくれて、軽く合コンのような雰囲気で自己紹介をすることになり、言い出しっぺの里香が最初にすることになった。

「西園寺里香です。名城大学に通っている20歳です。趣味は読書で、特に心理学に関する本を好んで読んでいます。」

里香の自己紹介は簡潔だったが、見るからに勉強のできそうな青年はなぜか感心しているかのようにうなずいていた。そして青年はおもむろに立ち上がった。

「丞相大学に通う大和真一と言います。このたびはうちの講師と後輩が迷惑をおかけして申し訳ありません。私も趣味は読書で、様々な本を読み知識の向上を心がけてます。よろしくお願いします。」

私たち3人はとても感心した。こんなにもしっかりした大学生もいるのだなと。

ちらりと、里香の顔をのぞき込むと、案の定好きなタイプとドはまりだったのか、目をきらきらさせていた。

続いて、結衣が自己紹介をすることになった。

「里香と同じ大学の水谷結衣です!!学年は2年だけど、まだ誕生日来てないので19で、この3人の中では一番若いよ~!!私は~、里香と違って勉強とか読書は苦手で動くことが大好き!!だからテニスサークルに入ってて、毎日楽しんでいます!あ、あとケーキとかも大好きです!!」

「へ~、そうなんだ!!俺も甘いもの大好きだし、スポーツも好きだな」

結衣の紹介が終わるやいなや年下っぽい青年はにこりとしながら同調していた。

なんだかかわいい感じの彼を見ていると、3人は温かい気持ちになった。

「あ、改めてきっちりと自己紹介するね。俺は神橋宗司。みんなからは宗司って呼ばれてるから、君たちも宗司って読んでくれると嬉しいかな。年は今年大学に入ったばっかりでまだ誕生日も来ていないんで、18!!さっきも言ったけど、スポーツは全般好きで運動が好きって言う子が好きなタイプかな!ま、こうやって出会えたのもなにかの縁ってことで、よろしくね。」

そう言いながら、メルアドの書かれた紙を一人一人に渡していく彼に対して、私は少しチャラそうだという感じを抱いたのだったが、結衣の目はもうすでに獲物を狙う虎のようになっていた。

(そういえば、結衣ってチャラい子もタイプだったなぁ)


そして結衣のタイプを思い出している間に、ついに私の番が来た。

なぜか期待のまなざしを向けられながら。

「え~っと、なんだか緊張しちゃいますね。私の名前は音無楓って言います。二人と同じ大学で、年齢は里香と同じ20です。趣味は音楽鑑賞することで、イヤホンはいつも常時しています。私は里香や結衣とは違ってあんまり勉強も運動も得意な方ではないけれど、日々楽しく生活してます。こういう機会もあんまりないので、この時間をめいいっぱい楽しみたいです!!」

私はかなりの早口でさっさと自己紹介を終えて座ったのだが、早くも後悔にさいなまれた。

(固い!!固すぎるよ。私!!なんか本当に合コンのような挨拶になっちゃったし、あ~!!恥ずかしいぃ!)

そうして顔を赤くしながら上げられずにいると、なぜか私の頭に手が乗せられたような感触がした。

その感触に驚いた私は思わず、顔を上げてしまうと、彼も驚いていた。

「あ、悪い。なんだか君の頭を無性に触れたくなってしまって。気に障ったのならすまない」

そう言って私に頭を下げてきたのは、先生と呼ばれていた男性だった。

「ちょっ!!先生、手出すの早すぎません!?」

「そうですね。俺もあまりの行動の速さに呆れてしまいました。前々から思っていましたが、それは最低ですよ。先生・・・」

大学生の二人は男性のことを軽蔑しているかのような表情で批難しているのだったが、私としてはドキドキが止まらなくて、さっきまで抱えていた恥ずかしさは別の恥ずかしさへと完全に置き換わってしまった。

「ああ、まあ、本当に申し訳ない。なんか自己紹介どころじゃなくなってしまったな。しょうがない。簡単にだけしておこう。俺は榎本樹。大学で講師を任せられている。年は27だ。お願いだからおっさんとだけは呼ばないでくれよ。傷つくんだからな。」

榎本さんは本当に簡単な自己紹介をした。隣からの厳しい視線を受けながら

その光景を見ていた里香と結衣はくすくすと笑っていた。


自己紹介も終えたので、私たち6人はお花見を楽しむことにした。

榎本さんは自分の鞄からスマホを取り出すと、桜に向けて次々と写真を撮り始め、大和さんはなぜだか鞄の中から本を取り出すと、木に寄りかかりながら読み始め、神崎さんはシートの上で寝転がりだした。

(なんだかタイプが全然違う人たちだなぁ。まあ、3人で固まられてるよりは話しやすいからいいけど・・・)

私たちはお互いに視線を合わすと、自分たちの考えを伝えるかのようにアイコンタクトを送った後、それぞれのタイプの男性のもとへと向かった。


「あ、あの、え~と、榎本先生?」

私は思い切って榎本さんに声をかけた。

すると榎本さんはにこりと微笑みながら、こちらを見てくれた。

「確か、君は音無さんだったね。どうかしたのか?俺のような年上の男に話しかけても何も面白くないぞ?どうせなら宗司や真一と話した方が年も近いから話も合うだろうと思う。気遣わなくてもいいから、ほら行っておいで。」

榎本さんは私が自分を気遣ってこちらにいやいや来て話しかけてきてくれたと思っているのか、同年代の方に行くように勧められた。

しかし私はさっきの自己紹介の時から、先生にしか目がいかなくなってしまい、正直同世代の彼らには興味がわかなかった。

それにもう既に結衣は神崎さんに話しかけに、里香は大和さんに話しかけに行き、それぞれ趣味が合っているからなのか、話を弾ませていて私に入り込む隙間は存在しなかった。

「あ、大丈夫ですよ。私は先生とお話をしたくて、自ら望んでこっちに来たので」

「そっか。俺と話してもあんまり楽しくないと思うけれど、それなら君の気が済むまで話をしようか、何か聞きたいことはあるか?」

そこからの時間は幸せ、そのものだった。

先生の趣味や好きな食べ物、特技、なんで先生になろうとしたのかなど様々なことを聞けたし、私の話もたくさん聞いてくれて、これこそが大人の包容力なのかもしれないと思わずにはいられないほどで、どんどん先生について知っていく内に、早すぎると言われるかもしれないが、恋に落ちた。

恋は突然やってくるという言葉があるように、私は先生の話を聞くたびにどんどん愛しさが募っていき、それに比例するかのように時間も早く過ぎていった。

気が付けば、肌寒い時間になっていたようで少し震えた。

「あ、もうこんな時間か。君と話をしているとすごく早かったな。俺たち案外気が合うのかもしれないな。ははは。お~い!お前ら、もうそろそろ戻るぞ~」

先生はそんなことを言った後、大和さんと神崎さんを呼んだ。すると、どうやら彼らもまた里香と結衣と完全に気が合っていたようで、離れたくないようなそぶりをしていた。

その気持ちは私も同じで、いつの間にか先生のことを見つめてしまっていた。

「ははは、なんだかそんな顔で見つめられると離れられなくなるな。でももう今日は終わりにしよう。」

先生から終わりという言葉が出た瞬間、私は悲しくなった。

すると先生はポケットから何か紙を取り出すと、私に渡してきた。

それは先生の名刺で電話番号が書かれていて、驚きを感じながら顔を上げた。

すると自己紹介の時にされたように、頭にポンッと手の平を乗せられたかと思うと、優しく頭を撫でられた。

「だからな。また会おう。そこに書かれている電話番号に掛けてくれたら、俺に繋がるから。君のことはなんだか放ってはおけないんだ。じゃあ、な」

先生は、それぞれに別れの挨拶をしていた大和さんと神崎さんの方へと歩いていき、名残惜しげにこちらを振り返ると、にこりと微笑み、彼らの大学へと戻っていった。

そして私は、これから始まる先生との恋愛に胸をときめかせながら、里香と結衣の方に行った。二人も同じ気持ちになったようだ。

その後、3人で彼らの良かったところをそれぞれに話して、自宅への帰路へと着いた。

ただただ幸せだったな。という漠然とした想いと共に・・・。


そこからの記憶はない。

気が付くと、そこはベッドの上だった。

(あれ?私なんでベッドで寝ているんだろう。って、え・・・)

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

この全然記憶にない状況に加えて、私は全裸で縛られていたのだ。

「な、なんで私こんな格好で縛られているの!?それになに、この痛み。お腹の奥底からずきずきする。痛い。うっうっ」

もう何が何だか分からなかった。

この今までに体験したことのない痛みもそうだけど、この状況。

もう涙を流すことしかできず、ただたださっきまでの幸せな時間を思い出すしかなかった。

すると突然、かぎが開けられたような音がしたかと思うと、ドアがそ~っと開いていった。

その隙間から顔を出してきたのは、私と同じくらいの年齢の男性で、私が目を開けてこちらを見ているのに気が付くと、ドアを完全に開き、気味の悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。

「あ、やっと起きたんだね!!フフフ、このまま起きなかったらどうしようかと思ってたんだ~!あ~!!心配したなぁ。本当に。さてと今、君はこう思っているでしょ?「この人は誰!?ここはどこ!?私、なんで裸なの!?」って。フフフ、その顔はアタリってことだね!やっぱり僕と君はお互いの気持ちがわかるんだよ?フフ、嬉しいなぁ。これだけ相思相愛で、加えて君は美しいなんて!!あ~、なんて最高なんだろうか!!最初からこうしておけば、君が他の男と話すことなんて1回もあり得なかったのに。まあ、でもあれのおかげで君には僕しかパートナーはいないってことが分かったよね?ね?そう考えたら、我慢した甲斐があったなぁ!!あ、そうだ!!さっきの君の質問の答えに答えてあげるよ。ちょっと待っててね。フフフ」

男はそういうと、足早に部屋の外へと出ていくのだったが、いまだに何が起こっているのか理解することができなかった。

しかし、体は正直だったようで今までに感じたことのないほどの震えと寒気が私を襲い、すぐにこれは恐怖によって引き起こされたものであることを自覚した。

いつの間にか私の脳裏には「怖い」という文字で埋め尽くされ、本能的にこのままではやばいという警鐘が鳴り、どうにかしてここから逃れなくては。という想いに至った。

しかし、そう思って必死に体を捻じったり、腕や足をばたつかせても、ベッドにきつく縛られているせいで、更なる痛みが襲うだけで逃げることなど到底できそうになかった。

そうして暴れている間に、いつの間にか男性は部屋に戻ってきていたようで、私の暴れた姿を確認すると、どこからか取り出した注射器を手に持ちながら、こちらへと1歩ずつ恐怖を植え付けるかのように近づいてきて、私のそばに立った。

そして勢いよく私の手をつかむと、注射器を振りかざした。

本物の恐怖がそこにはあった。

この注射器を刺されたらもう終わりだとそう感じた。

そのため、ベッドに縛られている男性が握っている方とは逆の手をこれでもかと言わんばかりに強い力で抜こうとした。

(お願い、お願いだから外れて!!い、嫌、こんなところで死にたくないの!!誰か助けてよ~!!)

どんどんと私の腕に迫ってくる注射器の先を見つめながら、祈っていた。

しかし、その祈りが通じることはなく無情にも注射の針が私の腕に刺され、中に入っていた液体を流し込まれた。

その瞬間、私はどうしようもない眠気に襲われた。

男性は、というとなにやら独り言のようにぶつぶつ何かを言っていて、私は失われゆく意識の中、必死に耳を澄ませて男性の言葉を聞いた。

「あ~あ、本当はこうするつもりはなかったんだよ?でもしょうがないよね?君の綺麗な体をそのまま残して、僕との愛の結晶を産んでもらうには、これしかなかったんだよ。フフ、これからは君と僕の時間が、ここで始まるんだ。たとえ君の意識がなくなっててもね。あ~、好きすぎるって本当に罪深いよね!!ね?か・え・で?」

その言葉を最後に私の意識は完全に消えた。


もうベッドの上にあるのは音無楓というこれからの人生に希望を抱いて、新たな出会いに胸をときめかせていた大学生の女性ではない。

そこにあるのは、歪んだ愛のはけ口とされるであろうただの肉の塊なのだ。



fin

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好きすぎて あすか @yuki0418yuki

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