第4話 アバター

 登録はすぐにできた。名前は昔やっていたMMOのキャラネームにした。由来はいつ頃だったろう、確か高二の頃に読んだフランツ・カフカの小説の主人公が元ネタだった。最近はそんなネトゲをすることも無くなっていた。

 トップページに並んでいるゲームも色々あるみたいだけれど、先輩が言ってたゲームが何だったかは忘れてしまっていた。


 色々いじってみると、自分のアバターが見える。初期のアバターは白いTシャツ一枚でなんともみすぼらしかった。確かに見た目は大事だと先輩が言うのもわからんでもない。服に興味が無いわけでもないけれど、高い服を好んで着たいとも思わない。ブランドとかよくわからないし、必要とも思わない。


 ゲーム内のアバターも現実と同じで良いものが欲しけりゃ金を出せと言わんばかりにガチャによって手に入るらしい。初回無料とかあるのでとりあえずやってみたが、見た感じ普通のものしか手に入らなかった。こういうのはMMORPGでもよくあるもので、廃課金者ほど派手な格好をしていたりする。要は金があると見せびらかしたいがためにいい服を着ていて、それは現実世界となんらかわらない格差というものだ。


 ブランドに興味がないのもそれが理由で、二四歳の若造がハイブランドのエルメスやらプラダなんてものを持っていても滑稽なだけで似合うわけがない。それ相応の身分と年の人が持ってれば良いんだと思っている。ジジくさいとまでは言わないけれど、高級志向なんてものはよく知りもしないけれど、テレビで見たバブルってのがあった頃の古臭いイメージしか無い。

 

 とりあえず、カーキのカーゴパンツと黒いジャケットに変えてそれらしく見えるようにはしておいた。我ながら趣味は悪くないと思うけれど地味感は否めない。


 プロフィール設定画面なるものもあった。趣味だとか住んでる場所だとか結構細かい項目があった。一言欄というものもあって、デフォの「よろしくね。」の一文字も寂しかったので、「こんばんは。とりあえず登録してみました。どうぞよろしくお願いします」に変えてみて、別に読む人が夜だとは限らんだろうなと思って、こんばんはを始めましてに直してふと何やってんだと思い、カチカチと音を立てて携帯をいじっている手を止めた。

 

 消すのも折角文字を打った労力が報われないのから一応保存をしておいて、携帯の画面をパタリと閉じてポケットの中に突っ込んだ。

 十一月にもなると肌寒くなってきた。存外ポケットにつっこんだ手が冷えていて外に出すのも嫌になり、前傾姿勢のまま歩くことにした。見た感じ独り者の寂しい若者に見えるだろうが暗い夜道の中一人歩くのに、そんな事を気にしても仕方のないことだった。

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