第9話 建築をするかもしれない

 オプスがまず行ったのは、周辺に埋まっている○ゴプロックを全て探し出して、掘り出すことだった。


「思ったより重労働じゃな」


 大体が木の根に絡まっていたり、地面に埋まっていたり、中には木の枝によって梢の高さまで持ち上げられているブロックまであった。

 それだけ長い間ここに放置されていたのだと推測される。


 捜索しているうちに、生霧蛞蝓フォッグスラッグが発生していた理由も分かってきた。

 地面に埋まっていたブロックの幾つかに、招かれる板魔物がポンが嵌め込まれていたのだ。

 恐らく地面に埋まっていたブロックが何らかの要因によって地表に露出し、魔韻石が活性化したのだと思われる。

 まあ、野生動物に掘り出されたか、長雨や河川の増水で削られたかだろう。


 オプスは再び第6のアームを顕現させ、周辺の森を排除しにかかった。

 理由の1つにブロックの捜索も入るが、メインはNo.10の守護者の塔の土台を見つけることにある。

 幾らブロックを組み立てたところで、元となる土台がなければ守護者の塔として機能しないからだ。

 ついでに【召喚魔法】を使って、喚び出したものたちにブロックを捜索させる。

 召喚されたのはいずれも名うての悪魔が6体だ。


 まずは老木の肢体を持ち、ウロに髑髏が収まっている悪魔イクズデュキュズ。

 青い体に六本腕の巨体の竜人族ドラゴイドのドレクドゥヴァイ。

 体躯が20mもある骨の蛇の頭蓋骨から、ザンバラ髪の褐色の肌の女傑が生えているルーバンダイン。

 ツギハギでぶかぶかの服を着た小柄な人物。闇に覆われた頭部には3つの目が爛々と光っているンズクオゥ。

 クロアゲハの羽を背に、鼠の尾を垂らした扇情的な闇妖精のカルカンチュ。

 最後は下半身から長い百足の胴体が生えている無邪気そうな白髪の男の子、ブルスケッタ。

 6体とも魔界エリアで中ボスや、特殊領域ボスを務めていた悪魔たちだ。

 はっきり言って、土木工事にこれ程向かない人員はないだろうと思われる。


 彼らはオプスの「ブロックを掘り出して集めよ」という指示に、一部は不満そうにぶちぶちと愚痴をこぼしながら、一部は黙々と命じられた仕事に取り組み始めた。


「全ク、何デ儂ガコンナコトヲ……」

「久シブリニ呼ビ出サレタト思ッタラ……」


 ぶつくさ言いながらダルそうな態度なのは、イクズデュキュズとカルカンチュだ。

 イクズデュキュズはその今にも折れそうな枯れ木の腕でブロックを掴むと、障害物をものともせずに引っこ抜く。

 カルカンチュの方は、鼠の尾だけがずるりと長く伸び、自身の数十倍もある木に絡み付いて、重量を感じさせぬ動きで引き抜いた。抜かれた木はオプスが展開している第6アームの、吐き出す炎の前へと投げ込まれる。


「……」

「フム……」


 無言で黙々とこなしているのはンズクオゥとルーバンダインとドレクドゥヴァイである。

 ンズクオゥは光る3眼の位置をめぐるましく変えながら、ぶかぶかの服の袖を伸ばして集まったブロックを色ごとに纏めていく。

 ルーバンダインは巻き付きながら木に登り、上の方に持ち上げられたブロックを回収していた。一旦登れば木々の上にある物を確認してかき集め、下で待つドレクドゥヴァイに投げ渡す。

 ドレクドゥヴァイはその腕で、四方八方から投げ飛ばされるブロックを受け止める役だ。下に落ちたブロックは、その都度ンズクオゥが拾い集めている。


 そして一番騒がしいのはブルスケッタだった。


「キャハハハ! キャハハハ! キャハハハ!」


 百足の下半身で笑いながら、蛇行しつつ走り回る。ブロックを見付けたら両手を上げて喜ぶ。

 ブロックは土の噴水に打ち上げられて宙を舞い、ンズクオゥの元へ飛んでいく。

 そして土の噴水が発生するということは、他の者もそれを浴びるということだ。

 自力で障壁のような物を纏い土を浴びないようにする者。軽快に避ける者。無防備に浴びるが歯牙にもかけない者など、様々だ。


 ただクー並に体の小さいカルカンチュは、降ってくる土の量が自分より大きかったりすると、障壁ごと弾き飛ばされそうになり迷惑そうにしている。

 そのうち眉を吊り上げて、ブチキレるまでに至った。


「邪魔ダ! コノクソガキガ!」

「……ア」


 すぐ近くにいたイクズデュキュズが止めようとするも、少々遅かったようである。

 騒がしく蛇行していたブルスケッタがピタリと止まり、グルンと首がありえない捻り方をしてカルカンチュの方を向く。

 顎が右斜め上にあると言えば、分かりやすいだろう。

 おまけにその表情は、先程まで無邪気に笑っていた子供とは思えない程、醜悪で禍々しく歪んでいた。

 その眼光に捉えられたカルカンチュが震え上がる。


「ああ゛? 何だ貴様、何か文句があるのかテメエ」

「ヒイッ!?」


 カルカンチュは魔界エリア初期の中ボスだが、ブルスケッタは魔王に挑む前の中ボスだ。カルカンチュとはレベルも貫禄も違いすぎる。

 音もなく接近してきたブルスケッタは、醜悪な笑みを浮かべながらカルカンチュを鷲掴みにした。

 容赦なくアンコが出るくらいに力を込め、カエルのような潰れた呻き声を上げるカルカンチュのクロアゲハの羽を摘まみながら愉しそうに笑う。


「むしろうかな? 千切ろうかな? 燃やそうかな? それとも、バリバリ食べてやろうか」

「ぐぶっ」


 握り締めた指が腹を突き破り、カルカンチュがどす黒い血を吐く。羽虫の苦しむ様を見たブルスケッタが「ケラケラ」と笑う。

 そこへオプスが「遊ぶな、早く終わらせよ」と声をかけた。

 他の悪魔たちがオプスもカルカンチュと似たような末路を辿るんじゃないかと、幻視する。

 何故ならば相手が召喚者といえど、ブルスケッタのレベルは1200もあるからだ。


 だがブルスケッタは子供らしい無邪気な表情に戻すと、カルカンチュに興味を失ったかの如く、ポイと投げ捨てた。

 投げ捨てられたカルカンチュを拾ったのは、ンズクオゥから伸びた袖である。

 ツギハギの袖はカルカンチュをぐるぐる巻きにして取り込んでから、きっちり30秒後に彼女を開放した。

 そこには傷など全くない無傷のカルカンチュが浮かんでいる。

 カルカンチュは自身の体をペタペタと触って傷がないことを確認すると、泣き笑いながらンズクオゥに抱き付いた。

 抱き付かれたンズクオゥはというと、元から表情も何もないので感情は分からない。


 やがてブロックの数が300を越えたところで、ンズクオゥがオプスの肩を叩く。

 実のところまだ周辺からはブロックが見付かり続けているのだが、充分な数が集まったと判断されたのだろう。

 オプスの方も雑草と茂みに覆われていたエリアを発見したところである。

 そこは50m四方の敷地を白亜の壁に囲まれた場所だ。

 雑草を燃やしても焦げ跡すらつかない壁に、赤い薔薇が蔦と共に絡まり彩られている。守護者の塔の付属品であれば、神代運営の代物なので破壊することなど不可能だ。


 試しにブロックを1つ持って敷地内に踏み込むと、緑に光る点線が敷地内の中央部分を囲んだ。

 おそらくこの範囲内に作れと言うのだろう。

 ブロックの山と作成エリア内を見比べたオプスは、腕組みをして唸り始めた。

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