第8話 問題を発見するかもしれない
あえて報酬の話をせずに村を後にしたオプスは、貧しい村からむしりとる物の算段をしつつ、森の奥へ踏み込んだ。
この辺りも霧に覆われているが、様々なアクティブスキルを駆使すれば目を瞑っていても行動に支障はない。
野生の獣の類いは
なので動いている物体は全て
オプスの口元に獰猛な笑みが浮かぶ。
「ククク。間抜けがおるわ、おるわ」
幾つかの動体反応を目指していると、獲物の方もオプスに気付いたようで接近してくるのが分かる。
当然オプスも自身の存在を全く隠蔽していない。
分かりやすく動き回り、森に迷った哀れな獲物っぽく見えるよう、蛇行して進んでいた。
「久々にあれを解き放つか、それとも……。っと、やれやれ。話し相手がおらんと、独り言ばかり増えて嫌になるのう」
悪鬼羅刹も真っ青と言わんばかりの凶悪な笑みを浮かべていたオプスだったが、ついつい口走っていた独り言に我に返った。
無表情に戻して肩を竦め、一瞬前の自分の行動を反省する。
ケーナと違って、オプスは体内にサポートキャラなどは飼っていない。
かといって無言で蹂躙などしても格好がつかないと思っている。
「この場合、漫画などであれば見栄えにあった台詞があるのだがのう」
再び独り言を吐き出している自分に気付く悪循環に、苦い顔になる。
この行き場のない憤りは
やがて獲物の姿が霧の向こうに見え隠れしながら、
並べてみればぴーちゃんといい勝負が出来るだろう。
何故だかスキルマスターのうちの一人を思い起こし、オプスは少し変な気分になった。
ひらひらと動く背びれからは今も霧を吐き出している。
不敵に構えるオプスを、恐怖で身動きの出来ない哀れな獲物と認定した
だが逆に轟音と衝撃に襲われたのは
「PIGIEEEEEE!?」
「頭が高いぞ、雑魚め」
頭に2本ある触角を震わせて断末魔の悲鳴を轟かせる。
土を掘り起こすバケットなどよりもっと凶悪な見た目で、鷹の脚の如く鋭い爪が3本飛び出ている。
「相変わらす無駄に生命力だけは強いのう」
不敵に構えるオプスの隙をついた、とばかりに横合いから別の
だがそれはオプスの間合いに入る前に、上から降ってきた電信柱のような杭によって体を地面に縫い付けられる。
甲高い悲鳴を上げて身をよじるが、胴体に突き刺さった太い杭は地面にめり込んだまま動かない。
更にオプスの背からは第3の腕が顕現し、馬車も両断出来そうな
無い知恵を絞って背後から強襲した
この時点で漸く
「PIEEE!」
「PIEEE!」
「ハハハハ! このドン亀共よ! 歓迎してくれるのではなかったのかね! いまさらぶぶ漬けで追い返そうなどとは、虫が良すぎるのではないか!」
第6のアームは機械で出来た竜の顎の如く。ギザギザの牙を有する口から放射されるのは、滴の垂れる粘着質の炎だ。
直接炎で炙られなくとも、機械竜の顎が首を振って飛び散った滴を浴びれば、付着した場所から炎が伝播する。
燃やされ、
切り刻まれ、
串刺しにされて、
切り裂かれる。
「なんじゃ、全く。まだ手の内を全部晒してはいないというのに。もう終わりか……」
暴れ足りなくて残念そうなオプスの背後の空間からは、猛威を奮った6本のアームが姿を現していた。
それらは役目が済んだことを知ると、徐々に姿を薄れさせていく。
現れた時と同じように、音もなく気配もなく。
その内の1つ。雄叫びを上げるかのように炎を吐き出したまま、機械竜の顎が空を舐める。
その軌道に沿って霧が燃やされて、視界が通るようになっていった。
ついでに燃える滴も四方八方に撒き散らされ、辺り一面灼熱地獄のような有り様である。
ケーナが見れば卒倒するような火事現場だというのに、オプスの顔色は一切変わらない。
霧の漂いもこれといって気にならない程度に薄まると、第6のアームは姿を消す。
代わりに現れたのは、先端に子供のおもちゃのようなラッパがくっついた第7のアームだ。
それはオプスの頭上で開口部を上に向けると全てを否定するかの如く「ブー!」と鳴らした。
その音量たるや、例え知っている者が隣に立っていても吃驚して飛び上がる程である。
そして音と共に、周囲で熱波をバラ撒いていた炎は綺麗サッパリ消え失せた。
残ったのは灰となった燃えカスや黒く焦げた木肌、燃えた箇所が炭化した木々である。
「久々に使ったが、たまには役に立つもんじゃのう」
オプスの背後に現れていたアームこそが【
趣味の造園から戦闘まで、パケットを切り替えることによって、色々な用途に使える総勢9本の機械腕である。
アームである限り近接戦闘オンリーなので、オプスもゲーム中は片手で数えられる回数しか使ったことがない代物だ。
そうして見渡してみれば、周囲の木々の根っこに何処ぞで見慣れたものが目に付く。根や蔦に絡み付かれているのは、赤や緑や青の立方体だ。
中には地中に埋まっている物もあり、それらは土の上に立方体の一部を露出させていた。
「んん?」
どれもオプスが1つ抱え上げるのが精一杯の大きさの立方体である。
オプスはルーンブレイドで近くにあった木の根を切り払い、1つを取り出してみた。
素の立方体は上面に幾つも並ぶ丸い凸部分に、下面側は凹の穴が開いている。
ぶっちゃけてしまえば、立方体の正体は地球で子供たちの遊び道具としてありふれた○ゴであった。ただ1つが大人の一抱えもある巨大なものである。
オプスはこの物体があるということに該当する建物を知っていた。
それはこれらを使って建物を作れば、望むスキルが得られるというスキルマスターの試練。つまりは守護者の塔である。
「
昔を懐かしむかのように呟く。が、このあとに生じる面倒な作業に思い当たり、うんざりした気分になるオプスであった。
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