第46話 舌戦は他所でやってください

 宗太郎さんの案内の元、俺たちは六郷官房長官の部屋に来ていた。


 六郷官房長官はマフィアのボスか何かかよ! といいたくなるような強面の男性だった。

 重々しい部屋の雰囲気がその怖さを助長している。


 物語なら、こういう見た目の人は実はいい人という設定が多いのだが、現実ではそんなことはないだろう。

 官房長官は何度もうなづきながら俺たちの話を聞いていた。


 圭一が部屋に入ってきたのは俺たちが一通り話を終えた時だった。

 官房長官は入ってきた圭一を睨みつけながら詰問をする。


「大泉さんから君が犯罪行為を置かしたという陳情を聞いたのだが、事実か?」


 圭一は顔を真っ青にしてしどろもどろに答える。


「そ、それは……」

「はっきり話たまえ!」

「ひっ!」


 案の定、圭一は切り捨てられたらしく、六郷官房長官は圭一を糾弾するように高圧的に対応している。


「やったのか! やってないのか!」

「や、やりました……。でも、……」

「動機などは取調室で聞く!」


 六郷官房長官が机の上の鈴を鳴らすと、サングラスをかけた屈強な男が二人部屋の中に入ってくる。


「そいつは犯罪者だ。取調室に連れていけ!」

「「は!」」


 男たちは敬礼をして圭一を両脇から掴む。


「そんな! 官房長官!」

「うるさい」

「きびきび歩け!」


 二人の男が圭一を連れて部屋から退室すると、バタンと扉が閉まる音とともに静寂がやってきた。



 その静寂を破ったのは六郷官房長官だった。


「おほん。確か柊桂馬くんと言ったか? 今回は大変だったね」


 優しい口調で俺に向かって話しかけてくる。


 俺はいきなり話しかけられるとは思わず、目を白黒させる。

 まさか俺に話しかけてくるとは思っていなかった。


 俺は突然のことだったので、思ったことをそのまま口に出す。


「え? いえ。実害はありませんでしたから」


 俺のセリフに官房長官は満足げにうなづいた。


「そうかそれはよかった」


 俺の答えに六郷官房長官は満足そうな顔をして、沙織と宗太郎さんは眉を潜めた。

 どうやら俺の返答は間違いだったらしい。


「ときに柊くん。今回のようなことがないように、これからは解放軍の九龍院くんと行動をともにするのはどうだろうか?」


 ニヤニヤとした笑顔を貼り付けて六郷官房長官が言ってくる。

 その顔から裏があることは明らかだ。


 俺がちらりとサオリの方を見ると、沙織は苦々しい顔をしている。

 沙織は何か知っているようだが、ここで助けは求められない。


「それはいいな。どうだ? 桂馬。レベルも同じだし、当分の間、沙織くんと一緒にプレイする気はないか? もちろん、お前が辞めたいタイミングでやめてくれていい」


 俺が困っていると、宗太郎さんがそう言った。


 どうして官房長官を擁護するのかという目で宗太郎さんを見ると、宗太郎さんはウインクを返してきた。

 サオリもどこかホッとしたような顔をしている。


 一方の官房長官は苦々しげな顔をしている。

 その顔を見る感じ、これは受けていい感じかな?


「こちらがいつでも解消していいというのであれば、お願いしたいです。レベルも同じで一緒にパーティを組みやすいですし」


 おそらく、そこがネックだったのだろうと思ったので、強調するように付け加えて答える。


 宗太郎さんと沙織は満足げにうなづく。

 官房長官は引きつった笑顔でうなづいた。


「こちらこそお願いするわね」

「そうだな。せっかく今上位メンバーが集まっているんだし、規定を作っておこう」


 宗太郎さんがそういうと、官房長官は苦々しげに宗太郎さんを睨む。


「それは性急すぎないかい? 大泉さん」

「いえいえ。せっかく集まるのですし、議題にあげるだけ上げましょう。あぁ。二人は帰ってくれて構わないよ」


 宗太郎さんがそう言ってくれたので、沙織は深々と頭を下げる。


「では失礼いたします」

「し、失礼します」


 俺は沙織と同じように頭を下げてそそくさと官房長官の部屋を後にした。

 これから始まるだろう舌戦に巻き込まれたらたまったものじゃない。



部屋を出ると、俺と沙織は大きく息を吐いた。


「はー。桂馬。お疲れ様」

「沙織こそお疲れ様。最後のあれはなんだったんだ?」


 沙織はキョトンとした顔をした後、俺がなんのことを言っているかに思い当たったのかにこりと笑った。


「あー。六郷官房長官は高レベルプレイヤーに監視をつけようとしているのよ」

「監視!?」


 唐突に出てきた不穏な単語に俺は目を見開く。


「そ。名目は犯罪に巻き込まれないための護衛だけどね。高レベルプレイヤーはお金も力も持ってるでしょ? だから、犯罪行為をしないように監視をつけるべきだって言ってるのよ。犯罪行為をしてるのは自分たちのくせに。それに、弱いレベルのプレイヤーを監視という名目で高レベルプレイヤーに引っ付けてレベリングしたいっていう目論見もあるみたい」


 苦々しげに沙織がいう。

 どうやら俺に沙織を付けることで前例を作ってしまうつもりだったようだ。


「でも、今回、桂馬が同レベルであることと、止める権利を高レベルプレイヤー側に持たせるっていう条件をつけたから、それを前例に護衛はそういうものというルールを宗太郎さんが作ってくれるはずよ。これでこの件は大丈夫でしょ」

「はー。解放軍も色々と大変なんだなー」


 俺が感心したように声をあげると、沙織は苦笑いを深める。


「おっきい組織になっちゃうとどうしてもね。本当は人類の解放のためにもっと一致団結するべきなんだけど。自分のために動く人がとても多いのよ」


 サオリのセリフに俺は苦笑いすることしかできなかった。

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