第45話 名前は変えちゃダメなのに見た目は変えていいとか、偉い人の考えるルールは本当にわからない

「くそ! あの低能め」


 私は解放軍の総本部に来ている。

 あのケーマとかいうクソガキがアイテムを使った直後、私はあのクソゲーからはじき出された。


 終了処理のない強制排出だったため、VR酔いが発生し、十分くらいは体が動かず、恒久なベッドを吐瀉物で汚してしまった。


 VR酔いが解消してから、何度もログインを試してみたが、何度やってもログインすることはできなかった。

 どうやらアカウントは停止されてしまったようだ。


 あの見た目を作るのに一体いくらかかったと思ってるんだ!


 だが、いまはそんなことを感がている場合ではない。

 早く六郷官房長官にお会いして今後の相談をしないと。


 アカウントが停止してしまったせいで携帯などの連絡手段も使えない。

 ここまでくるのも、裏の運び屋に頼んで運んでもらう羽目になった。

 かなり足元を見られたが、背の腹は変えられない。


 クソガキ1人ならなんとでもなったが、あの場所には九龍院沙織がいた。

 解放軍でも発言力のあるあのメスガキは厄介だ。


 あいつらが動く前に対処しておかないと。


 私は官房長官室の前に立つと、ノックをする。


「六郷官房長官。圭一です。ご相談したいことがありきました」

「入りたまえ」

「失礼します」


 返事はすぐに帰ってきて俺は扉を空けて官房長官室へと入った。

 官房長官室には椅子に座った六郷官房長官と大泉宗太郎、九龍院沙織、そしてあのクソガキそっくりな男がいた。


 ***


 俺が官房長官室で六郷官房長官という人に事情説明をしていると、圭一がやってきた。

 やっときたかと思って扉の方を見ると、扉から入ってきたのはブクブクと太った背の低い男だった。


 え? こいつが圭一なの?

 ゲームの中ではすらっとした長身のイケメンといった雰囲気なのに?


 まあ、ASOは見た目を変更できるゲームだからそういうこともあるのかもしれない。

 しかし、相当お金がかかる上、見た目を変えると普段の自分とズレが発生して動きづらくなるからやっている奴は少ない。


 こいつはその少数派の一人だったらしい。

 解放軍で見た目を変えるのはいいのかよ! と思ったが、宗太郎さんも沙織も驚いていないこと所を見ると、別に問題無いようだ。


 俺としては本名を使うかどうかより、見た目をいじるかどうかの方が重要だと思うんだが……。


 まあ、ルールっていうのは作る奴の都合のいいように作るから、こういうこともあるのかもしれない。


 六郷官房長官は入ってきた圭一を睨みつける。


「圭一くん。大泉さんと九龍院さんから君がレッドプレイヤーと一緒に犯罪行為をしていたとの報告を受けたのだが、事実か?」

「そ、それは」


 よくいうよ。お前の手駒のくせに。


 俺はここにきた経緯を思い出した。


 ***


 ログアウトした直後、俺は解放軍の総本部へ来た。


「早かったわね」


 総本部に着くと、入り口のところにサオリが立っていた。

 彼女もちょうど今きたところのようだ。


「速攻できたからな。サオリも早かったな」

「こういうことは先に動いたほうが有利なのよ。まず宗太郎さんの部屋に行くからついてきて」


 沙織の後ろをついて宗太郎さんの部屋に行く。

 この部屋には何度かきているが、何度来ても緊張する。

 俺の心にやましいところがあるからかもしれない。


 宗太郎さんは俺たちの様子を見てにこりと明るく笑う。

 見る人が見れば裸足で逃げ出しそうな怖い顔だが、いまの俺にはとても安心できるものに見えた。


「二人とも無事なようで何よりだ。詳しい話を聞かせてくれるか?」


 俺たちはコクリとうなづいて今日起こったことを一から順に話した。


 話を聞いた宗太郎さんは重苦しく唸る。


「むー。難しいな」

「チャンスじゃないですか? 六郷さんの犯罪行為を立件す流きっかけになるじゃ無いですか!」


 沙織がそういうと、宗太郎さんは重々しく首を振る。

 六郷さんが誰かわからない俺は黙るしか無い。


「いや、圭一は捨て駒だろう。こんな話をすれば切り捨てられるに決まっている」

「そんな」


 沙織は残念そうに項垂れる。


「今回は圭一を排除できてよかったと思うしかないな。あいつは解放軍内部でもいろいろなところに手を出してきていて面倒だったのだ。いつか何かのミスをするだろうと思っていたがこんな形になるとはな」


 宗太郎さんはそういいながら立ち上がる。


「とりあえず、六郷官房長官のところへ向かおう。沙織くんからの緊急連絡は奴の方にも言っているだろうから対策は立てているだろうが、先に圭一から詳しい話を聞いて綿密な計画を立てられても面倒だ」


 宗太郎さんはそう言って部屋を出て、その六郷官房長官の部屋へと向かった。

 俺は沙織と一緒にその後をついていった。

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