第44話 偉い人の考えることってよくわからん

 俺がGM権限をオフにすると、強制転移が発動した。


 転移した先は俺たちがレッドプレイヤーと出会ったところだ。


 隣を見るとサオリもちゃんと居る。

 よかった。


「サオリ。大丈夫か?」

「ケ、ケーマ?」


 サオリは驚いたように瞬きを何度もしている。

 そして、やっと自分たちが助かったことを納得したのか、大きく息を吐く。


「はー。あんなもの持っているなら先に言っておきなさいよね」


 落ち着くと、さっきのことを思い出したのか、腰に手を当てて俺の方を睨んでくる。

 俺は苦笑いしながら頬をかく。


「悪いな。何も無ければ使わないつもりだったんだよ」


 嘘ではない。

 実際、あそこまでやばい状況にならなければ俺はGM権限を使うつもりではなかった。


 まあ、さおりの言っているのはアイテムのことだろうから、ちょっと内容は違うが、本当のことをいうわけにはいかないんだから、勘違いしておいてもらおう。


「それもそうね。……あんなもの使っちゃって大丈夫だったの?」


 サオリは不安そうに問いかけてくる。

 まあこれがもう手に入らない有用アイテムを使ったと思ってるんだから、この反応は当然か。


「……大丈夫。ではないけど、あそこで使わなければどうせあいつらに取られてたんだし、仕方ないさ」


 俺はそれっぽく返す。

 サオリはまだ気にしているようだ。

 これ以上この話を続けるとぼろが出そうだ。


「えーっと。そうだ! 宗太郎さんのところに行って圭一のことを報告しておかないと!」

「あ! そうだった!」


 サオリはそういうと、自分のコンソールを手早く操作する。


「何をやったんだ?」

「解放軍の緊急連絡を送ったの。この連絡を受ければ、解放軍の上位のメンバーがリアルで集まることになってるわ」

「へー」


 リアルで集まるっていうのが解放軍らしいな。

 俺だったらゲーム内で会議をして終わりにしそうだ。


「じゃあ、私はこれでログアウトするけど、ケーマも来る?」

「そうだな。……宗太郎さんはいるのか?」


 俺も行くことはいやではないが、知っている人が沙織しかいない状況に飛び込んでいく勇気はない。

 解放軍の上位陣の集まりということはおそらく、宗太郎さんもいるだろう。


「えぇ。宗太郎さんは解放軍の創設メンバーの一人だからね」

「そっか。じゃあ行くよ。場所は解放軍の総合本部であってる?」


 解放軍の総合本部はリアルにある。

 かつては首都の警察庁庁舎だった場所だ。


 俺がそう聞くと、サオリは驚いた顔で俺のほうを見る。


「あってるけど、解放軍の総合本部の場所を知っているの? トップシークレットなのよ?」

「宗太郎さんとはリアルでも知り合いだから、何度か行ったことがあるんだよ。それに、トップシークレットって言っても元警察庁庁舎なんだから、公然の秘密みたいなもんだろ? 行ったことなくても知ってるやつは結構いるぞ?」


 解放軍の本部は秘密ということになっている。


 理由はαⅢからの攻撃を防ぐためということになっている。

 だが、場所はさっき言ったように元警察庁庁舎だ。


 誰でも少し考えればわかる場所だ。

 実際、αⅢも知っているようなことを言っていた。


 宗太郎さんの話では、分かりやすい場所にしたのはプレイヤーが困ったときにすぐに訪ねてこれるようにとのことらしい。

 それなら場所を公開すればいいじゃないかと思うのだが、αⅢには隠したいという意見も多く出たらしく今のような形になっている。


 ほんとに偉い人の考えることはよくわからない。


 俺が苦笑いしながらそんなことを考えていると、俺の考えを読み取ったのかサオリも苦笑いをしていた。


「まあ、場所がわかっているなら急いできて。十分以内には全員揃うはずだから」

「了解。……おっと」


 俺がサオリに返事をしたとき、俺の体が透け始めた。

 これは強制ログアウトの前兆だ。


 おそらく、タマ子がリアルで俺のログアウト処理を始めたのだろう。

 結構時間がかかったのは今日は学校に行っている香織に連絡を取っていたからかな?


「どうやら、タマ子が来たみたいだ。ログアウトしたらすぐに総合本部のほうに向かうよ」

「わかったわ。あと、タマ子さんには誤っておいて。それと、私は平気だとも伝えておいてくれる?」

「了解……。」


 そう答えた直後に俺の目の前は真っ暗になり、俺はゲームからはじき出された。


 リアルに戻ると、VRダイバーのバイザー越しに香織と優子がのぞき込んでいた。

 二人とも心配そうな顔をしている。


「優子、香織。心配かけてごめん。何とか切り抜けられたよ」


 俺がそういうと、感極まったように二人は俺に抱き着いてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る