第42話 古参プレイヤーの実力

 俺の取り出したアイテムを見て、レッドプレイヤーのリーダーは訝しげな視線を向ける。

 サオリも突然の俺の行動に目を見開いて俺の方を見ていた。


「なんだぞれは?」

「なんだと思う?」


 俺はそう言ってアイテムを起動すると、十のカウントが出る。

 そのカウントは一秒毎に一ずつ減っていく。


「あんたほどのプレイヤーなら『サンタのピカピカイリュージョン』ってアイテムを知ってるんじゃないか?」

「ま、まさか!」


 『サンタのピカピカイリュージョン』はαⅢが世界を支配する前のクリスマスに配布されたアイテムだ。

 このアイテムを使うとプレイヤーも含めて近くのオブジェクトがランダムパターンで点滅する。


 実はバグでこのオブジェクトというのが全てのオブジェクトが対象とされる。

 人物やその装備はもちろん、物理シミュレーションを行うための擬似空気やリアリティを上げるために設置されている小石オブジェクトなんかも対象になってしまうのだ。


 しかも、発光はランダムパターンだ。

 めちゃくちゃ処理が重い。


 当然、普通のエリアでそんなものを使えば百%フリーズする。


 つまり、このアイテムは使った瞬間空間がフリーズする有名なバグアイテムなのだ。


 フリーズしたエリアはエリア内にいるプレイヤーも含めて行動が凍結される。

 そして、行動ログなどを見て違反行為がないかの確認が取られることになる。


 ウイルスなんてものを使ったこいつらは確実にアウトだろう。


「そ、それを止めろ!」


 流石にリーダーは知っていたらしく、全員に指示を出す。


「数秒頼む」

「わかったわ!」


 サオリも俺がそんなアイテムを持っているということに驚いたような顔をしていた。


 だが、指示を飛ばすと顔を引き締める。

 この人数差では彼女でも、数秒抑えることは造作もない。


 あっちもこちらの攻撃を受けないように気を付けているとなればなおのことだ。


『サンタのピカピカイリュージョン! はっじまっるよー!!』


 可愛らしい少女の声がしてあたりが光に包まれた。


「GMコード起動。コード、GM0007」


 俺は全体が光に包まれるとそう呟く。


 その瞬間。世界が停止した。

 正確には時間が数百万倍に引き延ばされているだけらしいが、詳しいことは知らない。


 実はさっき起動したアイテムは香織が作ったフラッシュバンで、『サンタのピカピカイリュージョンではない。

 俺がGM権限を使うのを誤魔化すためにいくつか作ってあって、いつもインベントリに入っている。


 昔、αⅢが世界を支配する前、プレイヤー全員にGM権限を配ったことがあった。

 その名も『みんなで世界を盛り上げよう。みんなでGMキャンペーン』だ。


 その時のプレイヤーは百人いかなかったくらいらしいが、そのプレイヤー全てのキャラクターにGM権限が配られた。


 ふざけたキャンペーンで、当然のようにみんなで無茶苦茶やったので、このゲームは無茶苦茶になってしまった。


 結果、数日してからGM権限の行使にはαⅢの承認が必要となる修正が入った。


 実はこのGM権限、αⅢが世界を支配した後でも使える。


 このことを知っているのは家族と宗太郎さんだけだ。

 宗太郎さんも、黙っておいたほうが良いというので黙っているし、滅多なことがない限り使うことはない。


 使う時も細心の注意を払っているしな。


「はー。とりあえずさっさと圭一とこのレッドプレイヤーのアカウントを停止して、この空間を浄化するか」


 俺はGM用のメニュー画面を呼び出し手作業をしていく。

 この特別エリアも、ロックをかけてセキュリティパッチとアップデートパッチをかけていく。


 ロックもかけたし、時間が正常に動き出せばいい感じに俺たちが弾き出されることになるだろう。


 弾き出されればログアウトして宗太郎さんにことの顛末を話せば圭一の方の対処もしてくれるだろう。


「あとはあいつが来るまでここで待っていればいいな」


 正直、この加速時間は結構きつい。

 人間の限界ギリギリに加速しているらしく、この空間にいるだけでどんどん疲労が溜まってくる。


 αⅢももうちょっと利用する人のことも考えて設定してくれればいいんだが。


 ……まあ、無理か。


 とは言え、きついからと言ってこのままログアウトしてしまっては、俺のGM権限でいじった設定は反映されない。


 俺たちのGM権限はαⅢの承認が得られないといけないのだから。


 俺がそんなことを考えていると、俺の目の前に突然扉が現れる。

 そして、その扉はゆっくりと開いていった。


 どうやら起こしになったようだ。


「お久しぶりですね。ケーマさん」


 扉からは金髪碧眼の女性が出てくる。

 そして、その女性はケーマに向かって優しく微笑んだ。

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