第41話 どうしてちんぴらって「きひひ」って笑うんだろう?

 圭一はニヤリと笑いながら話しかけてくる。


 まあ、まともな話ではないだろうが、聞くだけ聞いてやろう。

 時間は俺たちの味方だからな。


 確かにログアウトすることはできないが、外から救出することはできる。


 タマ子が違和感に気付いて俺を強制ログアウトしてくれれば俺たちの勝ちだ。

 もう三十分以上過ぎてるから、そろそろ行動し始めてくれてるだろう。


 あと十分も時間を稼げば脱出できるだろう。


 サオリも時間を稼ぐのに協力するため、少し離れたところで待機してもらっている。


 俺が聞く姿勢に入ったのを感じ取ったのか、圭一はにやりと笑う。


「昨日手に入れたアイテムを渡せ。そうすればお前だけは逃してやろう」

「……嫌だと言ったら?」

「お前を殺して奪うまでだ。このエリアで死亡した者のアイテムはゲームマスターのホームに全て転送されるように設定されているからな」


 そう来たか。

 こう言った独自エリアでは独自ルールがある。


 その中のエリアないアイテムの回収システムというものがある。


 エリア内で手に入れたアイテムなどを不正に外部に持ち出せないようにするシステムだ。


 正規の方法以外の方法で外に出た場合、インベントリ内も含めて全てのアイテムが所定のエリアに転送されるというものなんだが、これにはバグがあり、プレイヤーが持ち込んだアイテムも一緒に移動させてしまうのだ。


 あのバグまだ治ってなかったんだな。

 いや、バグが治る前のバージョンに戻したのか。


 インベントリ内のアイテムを全て取られるのは痛いが、もう手に入らないようなものはあまり持ってきていない。

 そのアイテムも消耗品ばかりで、無くなってもそこまで困らない。


 このゲームは戦闘で死亡するとインベントリ内のアイテムも一部なくなるので、迂闊なものを持ち歩けないのだ。


 サオリの方を見てみると、物陰に隠れながら俺に向かってうなづいているのが見える。

 今日は大したものを持ってきていないらしい。


 じゃあ、作戦続行だな。


「うーん」


 俺が腕を組んで考える体制に入ると、圭一はニヤニヤと笑う。


「時間を稼ごうとしても無駄だぞ?」

「どういうことだ」


 俺がそう聞くと、圭一は満足げな表情をして広場の奥にあったお城のような建物の天辺を指差す。


「あれをみろ」

「‥…なんだあれ?」


 城の天辺からじわじわと紫色に変色して行っており、変色した部分は黒い粒子になって散っていく。


 モンスターが光の粒子になって散っていくのと少し似ているが、明らかに違う。

 まともな状況ではない。


「この世界はウイルスに侵されている。五分もすれば全体に回るだろう」

「五分!」


 それじゃあ、タマ子が間に合わない可能性がある。

 驚きに目を見張る俺に対して、圭一は満足そうな顔を向ける。


「ウイルスに侵されたアカウントはすぐにαⅢによって廃棄される。脱出した後に宗太郎の奴に泣きつくつもりだったんだろうが、アカウントが消されてしまってはあいつに会うこともできないだろ? あぁ。強制ログアウトしても無駄だぞ? アイテム回収システムにもウイルスは仕込んであるからな」


 おかしそうに圭一が笑い出す。


 しかし、その笑顔はすぐに凍りついた。

 物陰からサオリが出てきたからだ。


「圭一さん。いえ、圭一。あなたには失望しました」

「な! 沙織さんがどうしてここに!」


 どうやら、圭一は俺と一緒に来たのがサオリだと認識していなかったらしい。

 タマ子だとでも思っていたのかな?


「そんなことはどうでもいいです。あなたがレッドプレイヤーと手を組んでいたことは本部に報告させていただきます」

「そ、それは!」


 圭一は真っ青な顔で一歩下がる。


 ペラペラといろいろ喋っていたからな。

 このことが知られればただでは済まないだろう。


 狼狽る圭一の後ろからレッドプレイヤーの1人が出てくる。

 おそらく代表的な存在なんだろう、1人だけ身なりがいい。


「まぁ、安心しろよ圭一。こいつらは喋れなくなるからな」

「ど、どういうことだ?」


 リーダーは俺たちを見てにやりと笑う。


「ペインリデューサーを切ると、体痛みに対して勝手に反応して使えなくなるんだよ。喉をかき切ってやれば声が出せなくなる。今までもそうだった」


 下卑た顔でレッドプレイヤーたちが俺たちの周りを囲む。


「いくらトッププレイヤーとは言え、同レベルのプレイヤーをこの人数差では勝負にならないだろう?」


 レッドプレイヤーたちは武器を構える。


「きひひ。いい声で鳴いてくれよ?」

「女の悲鳴を聞くのは久しぶりだな」


 サオリがびくりと震える。

 こんなに露骨に悪意をぶつけられることはないのだろう。


 だから隠れているように言っておいたのに。


 俺は一つため息を吐いて、インベントリから一つのアイテムを取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る