第40話 黒幕は本当によく喋る

 俺は一人で最後のチェックポイントである広場に来ていた。


 広場の中心には白い光の柱が立ち上がっており、その麓には大きなクリスタルがある。


 あのクリスタルは今までのチェックポイントにあったものと同じものに見える。

 あのクリスタルに触れることでこのゲームをクリアしたことになるのだろう。


(まあ、そう簡単にはいかないわな)


 クリスタルを守るように十人ほどのプレイヤーがいた。


 ほとんどがレッドプレイヤーのようだ。

 ニヤニヤした顔で俺の方を見ている。


「一人できたか」


 どうやら、俺とサオリがバラバラに行動していると思っているようだ。


 当然そんなことはない。

 戦闘が始まるまでは近くで隠れてもらっているのだ。


 だが、わざわざ間違いを正してやる理由もない。

 俺はレッドプレイヤーたちを睨む。


「お前ら、なんの目的でこんなことしてるんだ!」


 俺が大声でそういうと、クリスタルの後ろからローブの男が出てきた。

 おそらく、この男は最初に立体映像でゲームの説明をしていたゲームマスターだ。


 ローブの男は俺と対峙する様にレッドプレイヤーたちの前まで出てきた。


「ふん。愚かなやつだ。強力なアイテムを手に入れた次の日に一人でうろちょろと出歩くんだからな」


 クツクツとおかしそうに笑いながらローブの男はそう言う。

 周りのレッドプレイヤーたちも俺のことをばかにするように笑い声をあげる。


 俺はこいつらがなにを言っているか理解できず、純粋な疑問を投げかける。


「強力なアイテム? なんのことだ?」

「……この期に及んで惚けるのか。昨日の迷宮要塞での探索で強力なアイテムを手に入れた事に調べはついているのだよ」


 俺は目を見開いて驚いた。

 まさかそんなことでこんな大掛かりな行動に出てくるとは思っていなかったからだ。


 俺の驚きをどう勘違いしたのかわからないが、ローブの男は満足げににやりと笑う。


「私たちがその情報を既に知っていたことが意外だったか? 無理もない。解放軍の上層部の人間しか知らないはずだものな。我々にもいろいろなつてがあるのだよ」


 満足げに笑う。

 どうやら俺の驚きを情報が漏れていたことに対する驚きだと勘違いしたようだ。


 俺は大きな声で笑う。

 すると、フードの男はピタリと笑いを止める。


「……なにがおかしい?」

「いや、つてとか言って、自分で聞いた情報を自分で裏の組織に流しただけだろ? 圭一さん。いや、圭一!」


 俺がそう言うと、フードの男はたじろいだように一歩下がる。


「な、なにをいっているんだ?」

「音声を変えているようだが、その程度の音声変換ならサポートAIでも解析できるんだよ。そうだろ? ミー?」


 俺が呼びかけるとミーが俺の右肩の上に姿を現す。


「はい。問題なく解析できています。昨日の圭一様の音声と声紋認証を行い、一律が92.7%です」


 ミーはデータを表示しながらそう告げる。


 すると、フードの男は観念したようにフードを取った。


 フードの中からは予想どおり圭一が出てきた。


「そのおもちゃにそんな機能があったとは予想外だったよ」

「便利なのに変なこだわりを持って使わないからこんなことになるんだよ」


 俺がそういうと、圭一は嫌そうな顔をした。


 まあ、当然か。

 サポートAIを使わないのはこいつの意思ではなく、解放軍の意向なんだから。


 こういうタイプのやつはとりあえずなんでも手を出そうとするから、自由に使ってる俺に嫉妬しているんだろう。


 圭一はこめかみをピクピクさせながら俺に向かっていう。


「貴様みたいなガキは本当に嫌いだ。借り物の力をあたかも自分のもののように振りかざしていい気になっている」

「その言葉はそのままお前に返すよ」


 俺は周りのレッドプレイヤーたちを見回す。

 誰も彼も早く俺を嬲りたいと顔に書いてある。


 おしゃべりをしている圭一を睨んでいるものもいる。


 おそらく、情報を渡すことを対価に外の犯罪者組織に力を借りたんだろう。


「解放軍としてのポジションも周りにいるレッドプレイヤーもお前の力じゃ無いじゃないか」


 俺がそういうと、圭一は激昂したように叫び出す。


「俺は実力で今の地位を手に入れたんだ! 必死に勉強して! 検察官になって! それなのに!」


 圭一は地団駄を踏む。


「何がゲームだ! 馬鹿にしやがって! こいつらに協力するのだって、本来もらえるはずの報酬を受け取ってるだけのことだ! 俺は悪く無い! 世界が悪いんだ!」


 はぁはぁと息を切らしながら圭一は肩を怒らせる。


 こいつもいろいと大変だったようだ。

 まあ、同情はしないが。


 息を整えた圭一は俺の方に向き直る。


「さあ、クソガキ。本当は必要ないんだが優しい俺はお前と交渉してやろうじゃないか」


 ニチャッと気持ち悪い顔で圭一が笑う。

 その表情からまともな交渉にはならさそうだが、まあ、聞くだけ聞いてみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る