第39話 ミラーハウスは危険でいっぱい
俺たちはなんとかお化け屋敷を突破した。
お化け屋敷を出てからサオリは俺から少し距離を置いて歩いている。
耳まで真っ赤だ。
まあ、無理もない。
逆の立場だったら俺だって同じような対応をとると思う。
それでも索敵は忘れていないようで、ちゃんと周りの警戒は怠っていない。
そういう部分はさすが解放軍のエースだ。
そうこうしているうちにミラーハウスへと辿り着いた。
ミラーハウスは他の建物より綺麗だった。
入り口から覗いたところ、鏡は健在のようだ。
光の柱はこのミラーハウスの中から伸びているので、お化け屋敷同様、ここにも入る必要がありそうだ。
サオリはおどろおどろしい雰囲気ではないことに安心したように一つ息を履いた。
そして、顔を引き締めてミラーハウスに向かって一歩踏み出す。
「入りましょう」
「あ、ちょっと待って」
俺はインベントリから長いロープを取り出して一方の端をサオリに差し出した。
「これでお互いの手を結んでおこう。ミラーハウス系のダンジョンはよくドッペルゲンガーみたいなのが出てくるから」
さっきのお化け屋敷にはモンスターが出てきた。
このミラーハウスにもモンスターが出てくると見て間違いないだろう。
モンスター自体は大したことないと思うが、同士討ちが怖い。
サオリの攻撃はかなりのダメージを喰らいそうだからな。
「それもそうね」
サオリは俺からロープを受け取って左手に括った。
俺も同じように左手にロープを括る。
ミラーハウスの通路は狭いので、一列になるだろうし、この方がいいだろう。
「じゃあ、入るか。俺が前になるよ」
「いえ、私が前に行くわ。さっきは、その、迷惑かけたから」
そういってサオリはズンズンとミラーハウスの中へと入っていってしまう。
まあ、無理やり前に出るほどのことでもないだろう。
出てくるモンスターは弱いみたいだしな。
ミラーハウスの中はどこもかしこも鏡だらけだった。
右を向いても、左を向いても、上を見ても、下を見ても鏡がある。
本来のミラーハウスは、この鏡が迷路で迷いやすくしている。
だが、ここはマップ利用不能エリアではないようで、マップを見ながら進めば迷うことはないだろう。
(しかし不思議なものだな)
剣の柄の部分でコンコンと叩いて見たが、傷がつく様子はない。
まあ、本当の鏡ではなく、ゲーム内のデータなのだから、傷つかない鏡を作るなんて簡単なのかもしれない。
しかし、地面が鏡っていうのもゲームならでわだよな。
実際にやっちゃうと靴で傷がついて……。
そう思って前を歩くサオリの足元に目をやった時、気づいてしまった。
「あ!」
そして声も出てしまった。
「なに! 何かあった!?」
サオリはすぐに振り返る。
まあ、警戒したところに俺が声を上げてしまったのだ。
当然の反応と言える。
俺は誤魔化すために上を見上げた。
しかし、そこに逃げ場はなかった。
上の鏡にも地面の鏡に映ったサオリの姿が写っていたのだから。
そう、解放軍の制服の短めのスカートの中身までバッチリと。
「? なに? 上に何かあるの?」
サオリも上を見上げる。
俺は気付かれていないことを祈りつつ、視線をゆっくりとサオリの方へと向ける。
サオリは上を見上げた後、ゆっくりと足元の鏡を見る。
そして、短いスカートの裾を押さえてプルプルと震える。
あぁ。これあかんやつや。
サオリは無言で近づいてきて俺の前で大きく右手を振りかぶる。
「ヘンタイ!」
そして、パーンという乾いた音がミラーハウスの中に響き渡った。
***
俺が前を歩くような隊列に変えてミラーハウスを進む。
俺のすぐ後ろをサオリはついてきている。
「あのー。サオリさん?」
「なに?」
俺がサオリを呼ぶと、彼女は苛立たしげに返事を返す。
コワイ。
だが、今の状況も怖いので、俺はなんとか続きを話す。
「ここまでしなくても、ね。いいと思うんですよ」
「ダメよ。変態が振り向いたら切り捨てないといけないもの」
そう言ってサオリは自分の剣の先でチクリと俺の背中を刺す。
HPは減らないが、ペインリデューサーがオフになっているので、その鋭い鋒の感覚は鮮明に感じられる。
そう。
俺は後ろにいるサオリに剣を突きつけられた状態なのだ。
「そこまでしなくても振り返りませんよ」
「信用できないわ」
結局この後、チェックポイントを経由してミラーハウスを出るまで、ずっと俺はサオリに剣を突きつけられたままだった。
ちなみに、ドッペルゲンガーは一匹も出てこなかった。
何匹か抱き合って震えている俺の姿を見つけたので、いないようではないようだったが、さおりが怖すぎたから出てくるのをやめたのだろう。
その判断は正解だと思う。
ほんと怖かった。
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