第38話 お化け屋敷内の最大の敵
声から、このプレイヤーが男であろうことはわかる。
どこかで聞いたことのある、不快な声だ。
不快な笑い声を止めないフードの男に向かって俺は声をかける。
「いいからルールの説明をしろよ! どうせ脱出ゲームなんだろ?」
「……ッチ。低能が」
フードの男はゲームの説明を始める。
想像通り、脱出ゲームだったようだ。
ルールは三つのチェックポイントを通るというとても簡単なものだ。
チャックポイントは遊園地の三方に分散して設置されているらしい。
「貴様らにクリアするのは不可能だろうが、せいぜい悪足掻きをするんだな。はっはっはっは。はーっはっはっはっは!」
フードの男は高笑いをあげながら消えていった。
「なによ! こんな簡単なゲーム、クリアできないわけないじゃない!」
憤るサオリを他所に、俺は近くにあった遊園地の案内板を見る。
さっきのチェックポイントの位置を確認するためだ。
一箇所がミラーハウス、一箇所がお化け屋敷、最後の一箇所がなにもない広場にあたる。
俺が首を捻っていると、サオリが話しかけてくる。
「なに見てるの?」
「案内板。さっき説明されたチェックポイントの場所になにがあるのか確認してるんだ」
サオリは俺の隣に立って一緒に案内板を見る。
「案内板に何かあるの?」
「敵はおそらく一箇所に固まって俺たちを倒しにくる。だから、どこのチェックポイントにいるか予想を立てようと思ってな」
「なるほど」
サオリは真剣に案内板を見始める。
ペインリデューサーを切っているということは向こうも傷を負えないということだ。
いくら設定を自由にできるといっても、一方だけを有利にするような設定はできない。
そうなれば、向こうは一箇所に固まって数の暴力で攻めてくるだろう。
「広場かな?」
「俺もそう思う」
ミラーハウスやお化け屋敷は遮蔽物がある分数が生かしにくい。
なにもない広場であれば、全員で一斉に攻撃して相手を倒すということも不可能ではないだろう。
「どうする? 最初に広場に行く?」
「いや、最後にしたほうがいいと思う」
サオリは訝しげな顔で俺の方を見る。
「なんでよ? 速攻で攻めれば、全員集まる前に攻めれるかもしれないわよ?」
「ここから広場は結構遠い。向こうのほうが先に着くだろう。それなら、最後に回して、相手を無視してチェックポイントを狙えるようにしたほうがいいと思うんだ」
このゲームは三つのチェックポイントに触れることでクリアになったはずだ。
なら、先に二つのチェックポイントをクリアしておいて、最後のチェックポイントは戦闘せずにチェックポイントだけを目指して挑戦するほうがいい。
その方が傷を負わないように戦うよりずっと楽だろう。
「確かにそうかもね」
「じゃあ、行くか」
俺たちは一つ目のチェックポイント、お化け屋敷に向かって移動を始めた。
***
お化け屋敷はかなりおどろおどろしいものとなっていた。
もともと不気味な外見をしていたのだと思うが、それが廃墟の遊園地という周りの雰囲気と合わさってさらに不気味な雰囲気になっている。
「こ、ここに入るの?」
「そうなるだろうな」
お化け屋敷の中から光の柱が立ち上がっている。
あの光の柱の下にチェックポイントがあるのだろう。
どう見てもお化け屋敷の中心あたりから伸びている。
「おそらく広間に敵は集まってると思うけど、ここに敵がいないとは限らない。充分注意していこう」
「そ、そうね」
俺たちは付かず離れずの距離を保ちながらゆっくりとお化け屋敷の中に入っていく。
中に入ってみると、ここは和風のお化け屋敷だった。
井戸や柳の木などが設置されている。
所々にある灯籠が唯一の明かりだ。
薄暗い雰囲気が怖さを際立たせている。
ジリジリと進み、井戸の前まで来た時、事件は起きた。
「しゃぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
井戸から白い死装束を着た髪の長い女が飛び出してくる。
驚いたサオリは悲鳴を上げながら俺の腕に抱きついてくる。
ふにょんという幸せな感触が腕に当たった。
ペインリデューサーが切られているため、普段より触覚がリアルに近いものとなっており、その柔らかい感触はいつもより鮮明に感じられた。
気持ちいい。
じゃなかった!
「はっ!」
俺は髪の長い女を剣で切り捨てる。
「しゃぁぁぁぁ」
一撃で女は倒れ、光の粒子となって散っていく。
どうやらモンスターがギミックとして配置されているらしい。
幸い、レベルは低く設定されているようで、攻撃されても大したダメージにはならないだろう
俺は安心して一つ息を吐く。
「大丈夫だ。大した強さのモンスターじゃない」
サオリの方を見ると、彼女はギュッと目を瞑ったままシッカリと俺の腕に抱きついている。
そんなことされるとサオリさんの消して小さくない胸部装甲が俺の腕に当たるんですが。
「むり〜。私怖いのダメなの〜」
震える声でサオリはそういった。
どうやら話してくれる気はないらしい。
このアトラクションでの一番の敵は自分の理性のようだ。
俺は気を引き締めて奥へと進んでいった。
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