第31話 三人目は君に決めた!
俺はログインすると、ホームから迷宮要塞の近くに転移する。
ここで待ってればタマ子もそのうち来るだろう。
「この時間でも結構いるな」
夕食後の時間帯にもかかわらず、迷宮要塞の近くにはかなりの人がいた。
全員ではないだろうが、ほとんどは迷宮要塞に挑戦しているプレイヤーだろう。
今回の迷宮が単純な構造で、総当たりで行くしかないから、人は多いほうがいい。
特殊な技術がいらないので、プレイヤー側からしても稼ぎやすい。
そういう意味では今回の迷宮は当たりの迷宮だ。
前の迷宮は地図作成から大変だったからなー。
技能が必要な上、めっちゃ規模が大きかったっけ?
「お待たせにゃ」
「あぁ。タマ子。早かったな」
ボーッと周りのプレイヤーを眺めていると、後ろからタマ子が話しかけてくる。
いつもはログインしてから待ち合わせ場所に来るまで結構時間がかかるが、今日はいつもの半分もかかっていない。
何をやっているかは知らないが。
「ちょっと急いだにゃ。間に合わなかったら大変にゃ」
「間に合わないって何に?」
タマ子はキョロキョロと周りを見回す。
どうやら、俺の質問に答える気はないらしい。
あたりを見回す様子から、誰かを探しているのだろうということだけはわかる。
「うーん。まだきてないのかにゃー?」
「誰か待ってるのか?」
「三人目にゃ。あ! 居たにゃ」
そう言って、タマ子は駆け出す。
タマ子が向かっているところに今さっきログインしてきたばかりの女性プレイヤーがいる。
そのプレイヤーがきている紺を基調にした制服は、解放軍のものだ。
ファンタジーチックに改造されて居て影も形もないが、この制服は警察の制服が元になっているらしい。
彼女はそんな制服を着こなして、凛とした佇まいをしている。
というか、それは俺も知ってるプレイヤーだ。
「サオにゃん。こんばんにゃ」
「あ。タマ子さん。こんばんは」
どうやら、タマ子が探していた相手はサオリだったらしい。
サオリはタマ子に話しかけられて一瞬驚いたような顔をした。
正直俺も驚いている。
たまことさおりが話しているところは初めて見た。
確かにサオリは解放軍でも話しやすい奴ではあるが、それでも解放軍のメンバーだ。
エンジョイ勢で、かたくなに語尾に「にゃ」をつけることをやめないタマ子と仲が良かった記憶はない。
目を白黒させている沙織を無視して、タマ子はグイグイと話を進めていく。
「サオにゃんは今日はもう一緒に行くパーティは決めたかにゃ?」
「え? いえ。まだです。今きたところなので」
タマ子はそれを聞いて満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、にゃーたちと一緒に潜らないかにゃ?」
サオリはタマ子の誘いに少し悩んだ後、うなづく。
「えぇ。問題ありませんよ」
「やったにゃ。じゃあ、行くにゃ」
「あ、ちょっと待ってください」
迷宮要塞へと向かおうとするタマ子をサオリは呼び止める。
「先に前線基地によってもいいですか? 着任報告をしないといけないので」
解放軍はログイン時とログアウト時に上位のプレイヤーに報告する義務があるらしい。
それで、ログイン時間に応じた日当が本部から出ているんだとか。
なんか、あそこだけ昔の会社みたいなシステムになっている。
タマ子は少し嫌そうな顔をした。
しかし、そういうルールになっているのは知っているため渋々了承する。
タマ子にとって、解放軍はできれば近づきたくないところなのだ。
その気持ちはよくわかる。
「わかったにゃ」
「あ、ついて来なくても大丈夫ですよ。報告したらすぐに向かうので、迷宮要塞の入り口で待っていてください」
タマ子は少し考えた後、首を横に振る。
「サオにゃんを別の人に取られたら嫌だからついていくにゃ。ケーマもそれでいいかにゃ?」
タマ子は後ろに立っていた俺に話を振ってくる。
サオリはそこで初めて俺の存在に気づいたらしい。
「俺は問題ないぞ。おはよう、サオリ」
「おはよう。ケーマ。三人目はケーマってこと?」
サオリがタマ子にそう聞く。
タマ子は笑顔で返事をする。
「そのつもりにゃ。ダメだったかにゃ?」
「いえ。ケーマでいいわ」
「ケーマでってなんだよ」
タマ子はクスクスと笑う。
「二人とも相変わらず仲がいいにゃー」
「「誰が!」」
俺はサオリとハモってしまった。
そして、お互い目が合い。お互い同時にそっぽを向く。
「にゃっはっは! 仲良いことはいいことにゃ! じゃあ、解放軍の前線基地に向かうにゃ!」
タマ子は俺とサオリの手を取って解放軍の前線基地へと向かう。
「ちょ」
「ひっぱるなよ」
俺とサオリはタマ子に引っ張られながら後に続くのだった。
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