第27話 こわばる彼女のほぐし方
私は桂馬の家の客間で、桂馬が拾ってきた女の子の様子を見ている。
桂馬が女の子を連れて帰ってきたときはかなり焦った。
最近では、人間そっくりの、……その、……そう言うことをする人形があると聞く。
一瞬、桂馬がそう言う人形を買ってきたのかと思ったのだ。
そう言う人形は、顔や身長、体なんかをオーダーメイドできるので、もし、彼女みたいなのが桂馬の好みだったら。
その。少し困る。
この子は、私とは全然似ていない。
凛とした表情。
胸は、私より少し大きいかな?
ジーっと彼女を観察していると、この子をどこかで見たことがあるような気がしてくる。
制服から、リアルで関わりがあるような人ではない。
となると、ゲーム内?
そこで、一人の候補が思い浮かんだ。
そう考えてみると、見れば見るほど似ている気がする。
私が女の子の観察をしていると、彼女は身動ぎをする。
どうやら起きてしまったようだ。
「ん。ここは?」
「あ、気がついた?」
私が声をかけると、彼女はビクッとして状態を起こし、身を守るように掛け布団で体を隠す。
「あなたは誰!?」
どうや警戒させてしまったらしい。
まあ、目が覚めれば知らない場所にいて、知らない人がすぐ近くにいれば、警戒するのも当然か。
私は敵意がないことを示すように両手を挙げて、微笑みかける。
「ははは。警戒するのも無理はないね。私は玉木優子。ここは私の友達の柊さんちだよ」
「玉木さん? 柊さんの家?」
状況がよくわかっていないようで、彼女は目を白黒させている。
「そう。あなたが路上で倒れたから桂馬。この家の子の柊桂馬くんがここまで連れてきてくれたの」
「そうだったんですか。わざわざありがとうございます。それから、疑ってしまってすみません」
やっと状況が分かったのか、警戒を少し緩めた女の子はベッドの上で正座して深々と頭を下げる。
そんなことをされてしまうと、こっちが恐縮してしまう。
私は両手をパタパタさせながら言う。
「いいのいいの。困った時はお互い様でしょ? って言っても、私は何もしてないんだけどね」
実際、彼女をここまで連れ帰ってきたのは桂馬で、ベットを使えるように整えたのはかおりんだ。
ここで彼女のお礼を受け取ってしまうのは少し座りが悪い。
私が苦笑いを浮かべていると、女の子はガバッと顔を上げた。
「そんな! 玉木さんはわざわざ起きるまで見ていてくれたじゃないですか」
「そんなこと何かしたうちに入んないよ」
実際、見ていたと言っても数分だ。
「そんなことないです! 私は目が覚めた時に玉木さんがいてくれただけですごく安心しました」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」
力説する女の子に、押され気味にお礼の言葉を受け取る。
そうしないと永遠に会話が終わらなさそうだし。
性格もゲーム内でよく会う彼女と一緒で、かなり頑固なようだ。
これはほぼ確定かな?
「あと、優子でいいよ。同い年でしょ? えーっと」
そこまできて、私は彼女の名前を聞いていないことに思い当たる。
彼女もそのことを思い出したのか、慌てた様子で自己紹介をする。
「あ、申し遅れました。私は九龍院 沙織と言います。私も沙織でいいです。九龍院は長いので。えーっと、優子さん」
「だから敬語もいらないのに」
私がそう言うと、沙織は少し困ったような顔で笑った。
「えーっと、優子さんはどうして私が同い年だと知っているんですか?じゃなかった。知ってるの」
沙織は少し話にくそうにそういう。
ゲームでは普通にタメ口だから、リアルで敬語以外で話すのは慣れてないのかな?
「さんもいらないよ。それ、高浜台の制服でしょ?タイの色で確か学年がわかるんだよね?そのタイの色なら二年生だから私と同い年かなーって。もしかして違った?」
私は沙織の制服を指差しながらそういうと、沙織は自分の制服を見て、納得したように何度かうなづく。
「ううん。二年生よ」
「じゃあ私と一緒だわ。私も二年生よ。どこにでもある通信制の学校だけどね」
私がニコッと笑うと、沙織も安心したように頬を緩める。
わー。美人の笑顔って破壊力すごい。
画材があったら絵に残してたかも。
私が沙織と少し打ち解けた頃、扉の向こうから桂馬の声が聞こえてくる。
「おーい。晩御飯できたぞー」
「わかったー。あ、入ってきても大丈夫ー」
私がそういうと、桂馬が部屋に入ってくる。
それと同時に沙織の体が少し強張る。
もしかしたら、リアルではあんまり男性と会うことがないのかな?
確か、高浜台は女子校だったし。
ここは私が人肌脱ぎますか。
「今自己紹介してたところ。あ、さおりん。こいつがあなたをここまで連れてきた柊桂馬」
「さ、さおりん?」
いきなりの「さおりん」呼びに、さおりんは目を白黒させている。
お、驚いて肩の力が抜けてるな。良い良い。
こんな呼び方をしても、ゲーム内のサオリの性格を考えると、怒られることはないだろう。
驚いた様子のさおりんに、桂馬は首を傾げながら自己紹介をする。
「あ、はじめまして、柊桂馬です」
桂馬も少し硬いなー。
まあ、こっちはすぐに打ち解けるだろう。
いつもそうだし。
……ほんと、いつもそうだし。
「は、はじめまして、九龍院 沙織と申します」
さおりんは焦ったように頭を下げる。
若干テンパリ状態のため、警戒心は低めだ。
「沙織さんですね。何処か具合が悪いところはないですか? いま、うちの妹が夕食を作ってるんですけど、食べられそうですか?」
「はい。大丈夫です」
夕食を食べていくということは、少しは警戒心が下がっているのだろう。
いい傾向だ。
私はさおりが我に帰る前に畳み掛けることにする。
その方がさおりんのためにもなるだろう。
私はすぐ近くにあるさおりんの手を取る。
「よし。じゃあ一緒にリビングに行こう!」
「あ、ちょ……」
私は沙織の手を引いてリビングへと向かった。
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