第23話 デザイナーは重要なお仕事
俺は優子を連れて自宅に帰ってきた。
「上がって」
「お邪魔しまーす」
優子は慣れたように家に入ってくる。
まあ、うちにくるのは初めてじゃないので、当然か。
いつものようにすっと入ってくるかと思ったが、優子は入り口でいきなりキョロキョロしだす。
なんだ? 特に変なものはないと思うが。
俺も玄関を確認するが、特に変わったものはない。
変な匂いも……しないと思う。
理由がわからない。
聞いてみるしかないか。
「どうかしたのか?」
「香織ちゃんは?」
あぁ。香織の靴がないから探していたのか。
香織と優子は仲がいいからな。
「あいつは学校だよ。あいつの学校は通信制じゃないからな」
「え!?じゃあ、今って2人っきり!?」
こいつ、さては香織のお菓子を期待していたな?
香織は普通の料理以外にも、お菓子作りも上手いのだ。
家に優子が遊びにきたときは大体お菓子を作ってくれる。
こいつはいつもパクパクと食べていた。
「悪いな。お菓子は無しだ。クッキーがあったはずだから課題が終わったら探してやるよ」
「いや、そうじゃなくって! ……もー!」
今度は顔を真っ赤にしていきなり怒り出す。
本当に訳がわからん。
「? それとも、何か香織に用事があったのか?」
「う。それは」
ついに、俯いてモジモジし出してしまう。
こうなると、大体何か言うと烈火のごとく怒られるんだよなー。
俺は触らぬ神に祟りなし。
と言うことで、優子を放置することに決めた。
「じゃあ、始めるぞー」
俺は優子を置いて家の中に向かった。
優子はついてこなかったが、俺の部屋も知っているし、そのうち向かうだろう。
俺は優子が復活するまでに、ご機嫌とりのためのクッキーを探そうと、リビング寄ってから自分の部屋へと向かう。
優子が復活したのは三十分くらい後のことだった。
下手したらその間に課題終わるぞ?
***
優子が課題を終えたのは、日が傾いてそろそろ夕飯の支度を始める時間帯だった。
「終わったー!」
課題を学校に送信し終わると、優子はバタンと寝転がる。
スカートでそれはちょっと無防備すぎやしませんかね?
「はい、お疲れ」
「桂馬、ありがとー」
優子はぐったりとしたままお礼を言ってきた。
俺の課題のデータがもう残っていなかったので、教えながらやる形となった。
そのため、結構時間がかかってしまった。
まあ、優子のサポートAIは結構真面目な子なので、宿題を写すことは許してくれなかったかも知らないが。
宿題用の端末もサポートAIの支配下にあるんだよなー。
それに今日は、教えるために近づこうとすると、優子がビクッと固まってしまうのだ。
結局、テーブルの対面から教える羽目になったので、効率が悪かった。
俺なんかしたっけ?
「あー。何で課題なんてあるんだろー?」
「そりゃ学生だからだろ」
「むー。そうだけどさー」
優子がいきなりそんなことを言い出した。
うちの学校は理系よりだから結構優子の苦手な理系の課題が多い。
「優子はデザイナー志望なんだろ?何でうちの学校に入ったんだよ?」
「あー。むりむり。デザインの学校は倍率が高すぎて入れないわよ。学費も高いし」
今の状況になって、なくならなかった仕事の一つとして、デザイナーがある。
他人のホームのデザインはもちろん、モンスターのデザインなんかも書いている。
αⅢはモンスターのグラフィックを使いまわしているが、それはどうやら、デザインの数が少ないかららしい。
だから、こっちから「ぜひ使ってください!」といって送ったデザインからαⅢの気に入ったものがあれば今のグラフィックと置き換えられる。
これが本当に助かる。
何たって見た目通りの攻撃を相手がしてきてくれるのだ。
俺も初めてゴブリンアーチャーが弓を持っているのを見たときの感動は今でも覚えている。
それまではゴブリンが棍棒を振ると矢が飛んできていたからなー。
デザインは全ユーザーの利益になるということで、デザインが採用された場合は、解放軍からデザイナーに報奨金が出ている。
まあ、この報奨金を出すためという名目で、解放軍が税金のようなものをとっているので、反発もある。
とはいえ、サポートAI経由で収支におかしなところはないと確認は取れているから、みんなそこまで文句を言っていない。
税金のことはさておき、そんな理由もあって、デザイナーは今人気の職業となってしまっている。
優子はこんな世界になる前から絵を描くのが好きで、デザイナー志望だ。
優子がキャラとして使っているタマ子も優子のデザインだ。
何度かモンスターのデザインも採用されているらしい。
「まあ、独学では勉強してるし、何とかなるよ」
優子は起き上がって俺に向かってニッコリと笑う。
なかなか難しい道だとは思うが、彼女ならなんとかするだろう。
「それにしたって、別の学校に行けばよかったじゃないか。文系の方が得意だろ?」
「それは!……」
優子は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
何か地雷を踏んだらしい。
こうなってしまった優子は暴力的になるから困る。
俺はとりあえず、危なそうな飲み終わったコップをさりげなく片付けて優子の攻撃に備える。
「そ、そんなことより、ごめんね。今日の午後いっぱい使わせちゃって」
「お、おう。別にいいぞ。そんなこと」
どうやら噴火は免れたらしい。
優子は大きく深呼吸をしていつもの調子に戻る。
「この後ログインする?夕食まで時間は短いけど、付き合うよ?」
時計を見ると、香織が学校を終える時間はすでに過ぎている。
もうすぐ帰ってきて晩ご飯の支度を始めるだろう。
「いいよ。今日目標としていた稼ぎは午前中に一緒に潜って稼げてるし、昨日の初回クリアボーナスもあるしな」
さっきの報告の際に、宗太郎さんとしたやり取りを優子に話す。
話を聞いて、優子は感銘を受けたように数度うなづいた。
「宗太郎さん、いい人だね」
「それに、宗太郎さん、純金じゃなくてオリハルコンをくれたんだ」
「オリハルコンを!?10倍以上の値段じゃない!?」
オリハルコンはなかなか手に入らない希少金属で錬金術の素材なんかとしても重宝する。
今から何に使うか楽しみだ。
「謝罪って言ってたからとりあえず受け取った」
「はー。ほんとできた人だよね」
解放軍にも宗太郎さんのようないい人はたくさんいる。
圭一のような奴にはぜひ見習ってほしいものだ。
俺と優子は香りが帰ってくるまで他愛ない話をして過ごした。
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