第22話 宿題は計画的に

 俺がレストランに入ると、座席の方から声をかけられた。


「こっちこっち!」


 声の方を見ると女の子が席から手を振っている。

 彼女が待ち合わせの相手だ。


 彼女はタマ子で、リアルの名前が玉木優子という。

 玉木優子だから、間を取っ払ってタマ子という名前にしたと前に聞いたことがある。


 エンジョイ勢はちょっとひねった名前をつける人が多い。


 逆に解放軍は本名でプレイすることと決まっているらしい。


 女性プレイヤーは安全のためにも偽名でプレイすることが認められているようだが。


「ごめん。待たせたか?」


 俺は四人がけ席の優子と対面の位置に腰を下ろす。


 いつもは俺の方が早くについている。

 若干ではあるが、俺の家の方が近いからだ。


 てっきり優子も徒歩で来ていると思っていたが、もしかしたら無人タクシーを使ってきたのかもしれない。


 ほんと、俺は何をやらされるんだ?


「私も今来たとこ。注文もまだだよ」

「そうか。よかった」


 優子はすぐ近くにいるドローンを呼び止めて、二人分のメニューを受け取る。


 このファミレスは平成時代をイメージした店なので、紙のメニューが出てくる。


 メニューを開いて、一番最初に目に入ってきたのは、季節限定メニューだった。

 まあ、一押しだから大きめに書かれているため、コレはいい。


 しかし問題なのは、季節限定メニューの欄に生クリームやアイス、フルーツでこれでもかとデコレージョンされたパフェばかりが並んでいることだ。


「うわ。季節限定メニューってパフェじゃん。昼飯関係ないし」

「デザートに食べればいいじゃん! わー! おいしそー」


 どうやら、優子はこのことを知っていたらしい。

 悪びれる様子もなく、キラキラした瞳でメニューを眺めている。


「はあ。そんなに入んねーよ」


 俺は一つため息を吐いて通常メニューを開く。


 幸い、ここは通常メニューも充実していて、食べるものには困らない。


 俺は通常メニューから、カレーライスを注文する。


「何言ってんのよ。甘いものは別腹でしょ? うーん。どれにしようかなー」


 優子は嬉々としてパフェを選んでいる。

 これはまたダイエットに付き合わされる覚悟をしておいた方がいいかな?


 俺は大きくため息を吐いた。


 ***


 料理が運ばれてきたので、それぞれに食事を始めた。


 俺たちが集まれば、いつもゲームの話をする。

 今日は迷宮要塞の件を話している。


「へー。じゃあ、少なくとも、最高レベルプレイヤーがいれば攻略に困ることはなさそうなんだな?」

「えぇ。モンスターのレベルは大したことないらしわ」


 俺は、速攻でタマ子と善次郎さんに捕まったので、情報は大して調べずに探索を始めた。

 だから、こういう細かい情報を教えてもらえると結構助かる。


 モンスターが強くないということは、ボスエリアが遠いのか、ギミックがややこしいのかそのあたりだろう。

 今までそうであることが多かった。


 俺が食後のコーヒーに手をつけながらそんなことを考えていた。

 一方の優子はデザートのパフェまで平らげてしまって満足像な顔をしている。


 俺と目が合うと、優子はいきなりもじもじ仕出した。

 たくさん食べたのをみられて恥ずかしいとか、そう言うタマではないことはわかっている。


 どうやらここからが本題らしい。

 何が出てくるやら。


 優子は上目遣いで俺の方を見てきた。

 こいつも結構な美少女だから、そんなことすると破壊力があるんだよなー。


 そして、それがわかっていてこう言うことをするからたちが悪い。


「えーっと、その、さ。桂馬は課題終わった?」

「課題って?」


 俺は聞き返した。

 なんの課題だろうか?


 今はレベルも上がらないし、ステータスもMAXになってるから何かやってることはないはずなんだが?


 俺が首を傾げていると、理解してもらえないことをじれったく思ったのか、優子は少し大きな声を出した。


「ガッコの! 数学の課題! 提出期限、今日までだったでしょ?」

「あー。あれか。とっくの昔に終わって提出しちゃったから忘れてた。期限、今日だったのか」


 俺たちの学校は通信制だから、課題の比率が高い。

 しかし、俺は課題は出たらすぐにやってしまうタイプなので、期限とかあんまり意識したことがない。


 逆に、優子は最後まで溜め込むタイプで、これまでも何度か課題に付き合わされた。

 特に、数学は優子に苦手分野で、毎回課題が出ると俺のところに教わりにくる。


 そういえば、今回の課題は聞きに来られた記憶がない。


「お願い!うつさせて!」

「わざわざ食事に誘った理由はそれか」


 俺は想像よりずっと楽な理由で安心した。

 彼女にとっては死活問題かもしれないが。


 数学は課題を一つ落とすと、三倍くらいになって帰ってくるからなー。


 あきれた様子の俺を見て、優子は頬を膨らませて抗議の意思を見せた。


「桂馬が悪いんだよ?今日やるはずだったのに昨日門を開けちゃうから」

「いや。ギリギリになる前にやっとけよ」

「ぐぅ」


 優子は机に突っ伏してしまった。


 たしかに、新エリアが解放された直後は色々とあって、お金が入りやすい。

 今回は特に稼ぎやすい要素はなかったようだが、そこはやっぱり外せないのだろう。


 だが、迷宮要塞に近いうちに入れるようになることはあらかじめわかっていたのだから、課題とかやるべきことは先にやっておくべきだ。


 そもそも、午後いっぱいが一日になったところで大して変わらないだろう。

 結局俺のところにきていた気がする。


 優子も正論だと思っているのか、なかなか復活してこない。


 しまいにはテーブルに頭をつけたまま拝み出してしまった。


「お願いー!数学の単位がやばいのー」

「はあ。わかったよ。教えてやるからこの後うち来いよ」


 優子には色々とお世話になっているし、課題を手伝うことに抵抗はない。

 最初から手伝うつもりでいたしな。


 でも、すぐに許してしまうと、今後もずっと手伝わされそうだから、一度は断るそぶりを見せているだけだ。


 ……いつもやってる気がするのであんまり効果はないか?


「わーい!神様仏様桂馬様」

「はー。調子のいいヤツ」


 俺たちは店を出たあと、二人で俺の家に向かった。

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